舞台「黒執事」スペシャル対談(前半パート)

舞台「黒執事」公演迫る! 舞台「黒執事」の内容に最も詳しいお二人、脚本・演出を手掛ける浅沼晋太郎氏と「黒執事」担当編集・熊との特別対談の前半パートをWEB特別掲載いたします。 気になる後半パートは「Gファンタジー」6月号に掲載されていますので、そちらもあわせてお楽しみください!

Profile

浅沼晋太郎:声優・俳優・脚本家・演出家・デザイナーと、多岐にわたり活躍中。今回の舞台「黒執事の」脚本・演出を担当。声優の主な出演作:「ZEGAPAIN−ゼーガペイン−」(十凍京)、「D.C.II〜ダ・カーポ2〜」(桜内義之)、「ぼくらの」(キリエ)、「のだめカンタービレ巴里編」(フランク)、「グイン・サーガ」(イシュトヴァーン)、「遊☆戯☆王5D's」(クロウ)、「初恋限定。」(楠田悦)、ほか。

担当編集・熊:デビューから枢やな先生を担当するGファンタジー編集部員。「黒執事」のほか、「ZOMBIE-LOAN」、「鳥籠学級」、「テリヤキウエスタン〜史上最凶の無法都市〜」などを担当。来月号より新連載の「デュラララ!!」や、先月最終巻が発売された「ToHeart2〜colorful note〜」の担当編集でもある。

編集部(以下=編):まずは、浅沼さんとは何者なのかという所をお伺いしたいのですが。

一同:(笑)。

浅沼(以下=浅):昭和51年、岩手県は盛岡に産声を上げまして…これ半日かかりますね(笑)。大学で映像を専攻してまして、元々は映画監督志望だったんです。卒業して、先輩に「劇団を作るから座付き作家になってくれないか?」と声をかけられて、軽い気持ちで舞台の世界に足を踏み入れてしまいました。その頃は、コピーライターやシナリオライターをやりながら、舞台の台本を書いたり演出したりしてました。演じることに関して言えば、そこまで「演じたい!」という気持ちは強くなかったんです。小さい頃からずっと日本舞踊をやっていたので、人前やステージに立つことに対して抵抗だったり肩肘をはるということはなかったですけど。しばらくしてアニメのオーディションのお話をいただいて…なんかの間違いで受かってしまって(笑)。

熊:それからアニメの主役が途切れてないですよね。

浅:光栄なことに、年に一度は演じさせていただいてます。本当に幸せ者です。近いうちにすごくしょうもない死に方すると思います(笑)。

熊:演技の勉強自体は舞台とか、俳優として培ったものをぶつけているんですか?

浅:そうですね、勉強はまったくしたことないです。劇団やってた時にも「あめんぼあかいなあいうえお」みたいなことはやったことないんですよ。やれよって話ですけど(笑)。

熊:僕は浅沼さん出演のアニメを観ていることが多いのですが、少年役が多かったり、今お話しされている声と違うじゃないですか。一番新しい作品を観ても、僕が知っている浅沼ボイスじゃなかった(笑)。

浅:僕は新参者な上に、これといって華がない。たとえば花澤香菜ちゃんとか、絶対聞き間違えないじゃないですか。そういうオンリーワンな魅力的な声っていうのは、僕に無いものだと思ったんです。もちろん、圧倒的な演技力だってない。三十路デビューで、これから演技を勉強するといっても先が見えてるだろうし。10代の人がどんどん入ってくる業界で、自分はどうやれるかなって思った時に、じゃあ、どれが本当の声なんだっていうトリッキーな戦い方で行こうと思ったんですよね。老けも子供も、出来るか出来ないかは別として「なんでもやります」って言いたいのはすごくありました。だから、ここ1〜2年は結構バリエーションが多いと思います。

熊:声優のお仕事が増えるまでは、基本的にはクリエイターとして、仲間と一緒に楽しいことや、やりたいことをやってきたらその流れで現在に到ると。声優さんと舞台役者さんの垣根はなくなってきましたけど、浅沼さんのようなクリエーターの方からだとちょっと珍しいですよね。どちらかということクリエイターの方が比重が大きいじゃないですか、俳優さんというよりは。

浅:一番忙しい声優では決してないですけど、一番ミーティングしている声優ではあるかもしれないですね(笑)。

熊:すると、この問いの答えは一言では言えないと(笑)。

浅:(笑)「何者なんですか?」って聞かれた時に「何者でもなれますよ」とはまさか言えないですけど、とりあえず「何者をお求めですか?」と。

熊:なんでもやりますよと。

浅:そうですね、数を打たなきゃ当たらないという信念で行こうと思って。結構聞かれるんですよね。「どれになりたいの?」って。出演と演出と脚本と、その他にも色々やっているので。そう聞かれると「一つじゃないと駄目なんですか?」って思っちゃうんですよ。日本人って、一つの肩書きでないと安心出来ないのかもしれないんですけど、どれかには決めたくはない、やれることはやりたいって思ってます。周りに迷惑かけない程度に(笑)。

編:浅沼さんの「黒執事」との出逢いは?

浅:実は声優として受けた、アニメのオーディションです。漫画を読んで、「これは俺が受けたことないキャラだな」と思いながら、頭の中で勝手にキャスティングしてみたんですよね。そしたらオーディションに「俺キャスティングの人」が現れたんです。「あ、無理だ」と思って(笑)。結果、自分が採用されなかった後も気にはなっていたので、単行本3巻くらいまで読んでたんですよ。その後しばらくして、舞台の製作会社の方から「ご相談があるんですけれど」って連絡が。

編:舞台化にあたり、最初はどこから手をつけられたんですか?

浅:リサーチです。「黒執事」は、女性のお客さんが多い作品だと思ったので、少年漫画を読んで育った僕が面白いと思った所は、女性にとったらツボじゃないのかもしれないと思って、人づてに黒執事ファンを探して色々聞きました。もちろん舞台化することは伏せながらですけど。「どこが面白いと思って読んでる?」とか「誰が好き?」とか、「なんでこの人こんなこと聞くんだろう?」と思われたはずです(笑)。でも、「なるほど」と思わされることが多かったですね。後は、漫画原作ミュージカルのリサーチです。実際に観ると必ずしも漫画にそっくりじゃなかったりする。「じゃあ何を観に?」と。それらを女性目線で知るところから始めました。ですから初期段階から、僕が普段作っている舞台とは相当違うものになるだろうな、と思って、かなり襟を正した所はありますね。

編:出版元との打ち合わせとか、担当編集者を含めた話し合いで、どういう風に作っていこうということになったんですか?

熊:最初、僕を始め弊社のスタッフは全員浅沼さんをチラチラ見ながらの顔合わせでした。名刺もらって「あれ?」みたいな(笑)。「浅…沼…晋太郎!?」みたいな。みんな、浅沼さんを声優さんとして認識していたので、帰りの電車で「なんで? なんで?」って(笑)。そっちの話題で大盛り上がり。打ち合わせの内容は、舞台版の大きな方向性について。原作ファンと一般的な舞台のファンが重なる部分を考えて、舞台版は総合的に女性が楽しめる作品になればいいなと。それからシナリオ打ちですね。

浅:熊さんと打ち合わせを重ねるうちに、やっぱり今までの読み方ではわからない所がいっぱいあったんだな、と感じました。台詞よりさらに深い所というか、行間というか、そういう所を知って「へぇー」と。

熊:具体的に言えば、メインキャラクターは、リアルな人間の揺らぎを入れないっていう基本方針で作っていること。セバスチャンとシエルの関係性が実は平行線で一方通行なんです。それをストーリーに落とし込んでも、二人に友情や愛情があるように見えるシーンがある。でも「ここにはその気持ちは介在していないんですよ」って説明すると、脚本家さんたちは「なるほど」って思われるそうです。今、総合的にメディアミックス展開をしているので、場面によって、受け取り側は色んな見方をしてくれますし、それでいいんです。でも「作り手側はガッチリひとつに固めて作っていきましょう」って話はしたのかな、と。

浅:口ではこう言っているけれども実は正反対のことを思っているって、あまり僕が舞台で書いたことがなかったんですよね。怖い方々が言う所の「可愛がってやれ」とか、そういう言葉や皮肉ぐらいはあったでしょうけれど、「黒執事」はもっと更に深いというか。今回台本を書いていて、苦労が今までの苦労とは違う感じです。すごく頭を使いますね、台詞ひとつに。難しさはあるんですけど、新しい所に足を踏みだしているみたいで、すごく面白いです。

熊:舞台版に関してこういう感想を聞くのは初めてなんですけど、書いていてどうですか? アニメの、あるシナリオライターさんは「こんなに(手が)止まるのは初めてだ」っておっしゃっていたんですよ。小ネタのシーンでもメインのキャラの温度が低いじゃないですか。だから"ギャーギャー"とハイテンションな掛け合いができない。でも漫画を読むと必ずネタが仕込んである。そこに挑戦しようとすると止まるみたいですね。でもそこが原作の魅力的な部分だからやっかいなんです(笑)。

浅:そうですね。シエルってセバスチャンに比べると、やっぱり人間だからなのか、子供だからなのか、まったくセンチメンタルにならないってわけじゃない。それをどこで、あるいはどこまでシエルをそうさせるかっていう所で止まりますね、確かに。感情っていうことであれば、セバスチャンはむしろ楽というか、一貫しているので。ただ、そっちは逆に言い回しっていう所で止まるんですよね。

熊:あのストイックな執事の言い回しが読者からしてみると、新しかったんだと思います。萌えっていう人もいますね。

浅:キャラクターによって、僕が「こいつは少年漫画的だ」と感じているキャラの台詞はスラスラ行くんですよ。例えば使用人三人組って僕は少年漫画キャラだと思っているんですけど、そこはスラスラ行きます。グレルに関しても、少年漫画によく出てくる "今は敵だけどいずれ仲間になったらいいなキャラ"みたいな感じに取れば、すごく筆は進みますね。やっぱり一番難しいのはセバスチャンとシエルです。

熊:僕も担当編集なのにミニドラマCDとか書いていて、同じ苦労を経験しているんですけど、その上で今回の脚本を読んで面白いのが、浅沼節というか、「これが演劇の間だ!」って畳み掛けるコメディを担わせるキャラと、そうじゃないキャラとの融合。さっきおっしゃっていたように、使用人三人は舞台のテンポに絡ませやすい。そんな中にセバスチャンが入ると、空気感が否が応でもガラっと変わるんですよね。ギャーギャーっていう演劇的な畳みかけるテンポを、セバスは周りに左右されないから崩しちゃう(笑)。そこが新しい、「いい意味で変」なんです! たぶん元から演劇が好きな人は新鮮だと思います。逆に普段舞台を観ない原作ファンのみんなは「生」の雰囲気を感じるだけでも驚くはず。これが演劇になるってことなんだなって思いました。浅沼さんのテクニックがなければ、セバスは舞台からただ浮いた存在になっていたかもしれません。

浅:今思うのは、喜劇とアクションと、ミステリーと、少年漫画と少女漫画と、いっぺんに作ってるみたいな(笑)。いいごちゃまぜ感だと思います。

編:新しい挑戦ですか?

浅:そうですね。それはミュージカルってこともそうだし、原作の雰囲気的にもそうだし。知らないことばかりです本当に。仕事場で「勉強させてください」と言うのは嫌いなんですけど、勝手に勉強になりますね。知らないことばかりの中にズカズカ行くのか、恐る恐る行くのか、その時その時で接し方は変わるんでしょうけど、面白いです。ちなみに枢先生は、イギリス文化に関して、「黒執事」を書くために勉強されたんですか?

熊:そうですね。元々詳しかった訳ではないので頑張って勉強していますね。漫画家としての人生を決める大事な作品でもあったので死に物狂いです。

浅:そこで知らないジャンルを扱おうって度胸はすごいですね。

熊:でも今おっしゃった、“初めて尽くし”、“色んなジャンルをごちゃ混ぜにする”っていうのは、連載始めたころ枢さんと話していたことと一緒なんです。

浅:おお! 嬉しいです。

熊:だから、ストーリー制作で苦労した部分も僕らは同じだと思います。そうおっしゃられた脚本家さんしか「黒執事」は上手くいかない。「大丈夫っスよ」って言う方は大体失敗しちゃってる。「わかってないんだ…この作品面倒臭いんだよ」って(笑)。そういう意味で、好きになったクリエーターさんたちに対して、僕が心の中で送っていたエールは「苦しめ苦しめ」って(笑)。あの1巻2巻時、枢さんがヒィヒィ言ってた頃と同じ苦しさを味わってって(笑)。

浅:そんなこと思ってたんだ(笑)。

熊:面倒臭い作業をコッチがやっているからこそ、読者の方はすんなり楽しめる。英国文化もみんなが興味ある部分だけをこっちでピックアップする。大事じゃない普通のシーンもギャグが入れられそうだったら詰め込む(笑)。「読者さんがノーストレスで楽しむために、僕たちは陰で泣こうぜ」って枢さんと話してます。

この後対談は、どのように舞台内容の骨組みが作られたかや、舞台オリジナルキャラの話へと盛り上がっていきました。気になる続きは「Gファンタジー」6月号にてお楽しみください!!

舞台「黒執事」公式サイト http://eplus.jp/sys/web/s/kuro/index.html

舞台「黒執事」公式サイト