SQEXノベル一周年記念SS
万能「村づくり」チートでお手軽スローライフ ~村ですが何か?~
一周年の記念品by暴走メイド
「ルーク様! ルーク様! 大変です!」
黒髪の美女が慌てた様子で駆け寄ってくる。この村で唯一の神官であるミリアだ。
「ど、どうしたの、ミリア? そんなに慌てちゃって……」
もしかして何か重大な神託でも降りてきたのかもしれない。固唾を呑む僕に、彼女は真剣な面持ちで告げたのだった。
「それがですね、ルーク様! なんと『SQEXノベル』が、このたび創刊一周年を迎えたのです!」
「ええっ? それは本当なの!?」
「はい! 先ほど教会で祈りを捧げていたところ、神々からそのような神託を授かったのです!」
『SQEXノベル』といえば、スクウェア・エニックスさんの新文芸レーベルだ。
僕たちの活躍を記した書籍『万能「村づくり」チートでお手軽スローライフ ~村ですが何か?~』は、その創刊ラインナップに加えてもらっている。
それが無事に一周年を迎えたというのは、とにかくおめでたい話だった。
「すごいね! ぜひみんなでお祝いしなくちゃ!」
「それはよいアイデアですね! せっかくですから、村のドワーフたちに頼んで記念品も作らせましょう!」
「記念品? どんなものを作るの?」
「そこはわたくしにご一任ください!」
「え? 構わないけど……大丈夫?」
……まぁ、さすがに変なものは作らないよね?
それから数日後。どうやらその記念品とやらが完成したらしく、村人たちが広場へと集められた。広場を半分近く覆い尽くしてしまうほど巨大な布が広げられていて、どうやらその布で記念品を隠しているらしい。
「ねぇ、ミリア。記念品というには、ちょっと大き過ぎない? 何を作ったの?」
「ふふふ、それは見てからのお楽しみですよ! さあ、それではいよいよお披露目となります!」
勿体ぶったように微笑むミリア。そんな彼女の合図を受け、村の屈強な男たちの手により一気に巨大な布が取り払われる。そこに現れたのは――
「じゃ~~ん、ご覧ください! ルーク様の等身大フィギュア365体ですっ!」
――僕の姿を模した無数のフィギュアたちだった。
「……は?」
思わず絶句する僕を余所に、ミリアは嬉々として説明する。
「なんと、すべてルーク様と寸分違わぬサイズなのです! しかもしかも! 365体、どれをとっても同じものはありません! 表情やポーズ、さらには衣装まで、フィギュアごとに違っています! つまりは一日一体ずつ堪能していけば、365日、毎日異なるルーク様を楽しむことができるというわけです!」
いやいやいや、意味が分からないんだけど! そんなものを作って、一体何の記念になるって言うの!? しかも等身大って、大き過ぎるでしょ!
「ああっ、本当にどれもこれも素晴らしい出来です! 特にこのサンタコスバージョンやバニーガールバージョンなんて、ルーク様の頬を赤らめた顔まで完璧に本物を再現しています!」
「僕はそんな恰好したことないから! ていうか、この短期間でよくこんなに作ったよね!?」
「ドワーフたちを寝ずに働かせゲフンゲフン、ドワーフたちが頑張ってくれました!」
いま聞き捨てならないセリフが聞こえたような……。
まさかこんな暴走をするなんて……彼女を信じた僕が馬鹿だった。
村人たちも完全に引いてるし……と思いきや。
おおおおおおおおおおおっ、と大歓声が巻き起こった。
「素晴らしい! ぜひ我が家に一体欲しい!」
「うちもうちも! 一体と言わずに全部欲しい!」
なんかめちゃくちゃ欲しがってる!?
「もちろん販売も致します! 完全受注生産となっていて、お値段なんと一体あたり百万円!」
販売するの!?
「このクオリティでその値段!? 安い! 買った!」
「どれにするか迷ってしまう! いや、いっそ全体買い揃えようっ!」
いやいや安くないでしょ!?
「さあ、それではこれより注文を受け付けま――」
「ストップストップ! こういうのは本人の許可がないと売っちゃダメでしょ!? もちろん許可しないから! 販売は中止! はい、解散っ!」
注文を取ろうとするミリアを慌てて遮り、僕は何とかその暴走を食い止めるのだった。