書き下ろしSS
ダンジョンの奥地にて剣を500年振り続けたスケルトン、人としての生を受け最強に至る 2
アデルへの剣術指導
今、俺はアデルの家の応接室で座っている。
実は、アデルから依頼を引き受けてほしいという話があり、その依頼内容を聞きに1人でアデルの家へと訪れているのだ。
イビルガリオン討伐以降、こうしてアデルからの個人的な依頼がちょくちょく来るようになった。
「アデルお嬢様をお呼びしていますので、もう少しだけお待ち頂けますでしょうか?」
「もちろんです。それと、俺のことは気にしなくて大丈夫ですよ。早く来たのが悪いので」
応接室で待たせている俺に対し、申し訳なさそうにしている執事のセバスさん。
美味しい紅茶にお菓子まで出して貰っているし、何にも気にしなくていいのにな。
そんなこんな紅茶を飲んではお菓子を食べ、俺は至福の時を過ごしていると、慌てた様子のアデルがこの応接室へと飛び込んできた。
「ジャ、ジャック様! 大変お待たせして申し訳ございませんでした!」
「アデル、おはよう。セバスさんにも言ったけど、俺が早く来ただけだし気にしなくて大丈夫。現時刻でも、約束してた時間よりも大分早いしね」
「うぅ……。ジャック様、お気遣いありがとうございます」
「気遣ってる訳じゃないんだけどな。まぁそれよりも、本題である依頼内容についてを聞かせてよ」
そして、それから約30分ほどかけて、アデルから依頼内容についての話を聞いた。
アデルからの依頼はそう大したものではなく、野草取りの護衛をして欲しいという内容だった。
野草も王都近辺で採取出来るものばかりだし、アデルの腕を考えたら護衛なんかいらないはずなんだけど……。
やはり前回のイビルガリオン襲撃のせいで、アデルの両親の警戒度が上がっているのかもしれないな。
「依頼内容は王都近辺の野草取り。日時は明後日の朝から夕方までで大丈夫?」
「はい、その内容で大丈夫です。それではジャック様、明後日はよろしくお願い致します」
「了解。……じゃあ、今日はこれで帰らせてもらうよ」
依頼内容も確認したところだし、かなり早いが用は済んでしまった。
そのため、帰宅しようと俺が部屋から出ようしたその瞬間。
「あ、あのっ‼ す、少しよろしいでしょうか⁉」
少し声を裏返しながら、そう声をかけてきたアデル。
振り返ると、両手で高価そうなスカートをシワシワになるほど強く握っており、全身が強張っているのが見て分かった。
「全然大丈夫だけど、何か伝え忘れたことでもあった?」
「い、いえ、そうではなく……。実は、ジャック様に剣のご指導を頂きたいのです」
「剣の指導? ……別に良いけど、アデルって他の人に指導してもらってるんじゃなかったっけ?」
「はい。お父様のお知り合いの方にご指導頂いてますが……。ジャック様に少しだけでもアドバイスを頂きたいんです」
うーん。別に構わないのだが、以前戦ったときを思い出す限り、アドバイスする箇所なんてないんだよな。
まあ、このままで良いって伝えることも一種のアドバイスだし、俺が感じたことを率直に伝えてあげようか。
「分かった。俺で良いなら剣を見てあげるよ」
「本当ですか!? ジャック様、ありがとうございます! それでは早速、中庭へと移動しましょう!」
嬉しそうなアデルの案内の下、一緒に中庭のコートへと向かった。
円状のコートの中心には、先回りしていたセバスさんがおり、2本の木剣を用意してくれている。
「セバス、ありがとう。それではジャック様。よろしくお願い致します」
「うん、よろしく。とりあえずは俺に向かって打ち込んできて。それを見てアドバイスするからさ」
「分かりました。いきますね!」
合図と共に構えたアデル。やっぱり基本に忠実でブレのない綺麗な構え。
そこから上段、中段、下段、突きに薙ぎと、一通りの攻撃をしたところでアデルは手を止めた。
うん。ブレがないから攻撃が読みにくいし、一発一発に速度も威力もある。
このまま成長していけば、何も問題ないと改めて思ったけど……。
「どの斬り方も高い水準で行っているし、駆け引きも上手い。正直、アドバイスすることはないと思うんだけど……。一つ上げるとしたら、基本に忠実すぎるところは改善の余地があると思う」
「基本に忠実すぎる……ですか?」
「うん。アデルはどんな相手に対しても、基本の型にはめて対処しようとしているよね?」
「ええ、そうですね。どんな相手でも自分の技量が高ければ、基本の型で対処できると教わっていますので」
「そう。基本の型にはめれるのであれば、技量の高い方が勝つ。これは間違いないんだけど、それが魔物相手や膂力のある人間とだとそうはいかなくなる。魔物相手だと人間相手では考えられない変則的な攻撃を仕掛けてきたり、力のある相手だと単純な筋力で押し切られたりするからね」
「なるほど……」
「恐らく指導してくれている方は、あくまで護衛の方法として教えてくれていて、自分を守るための剣術としてなら基本に忠実のままでも全く問題ないと思うけど……。アデルが更に上を目指したいと思うなら、基本から崩した形も身に着けておくといいかもしれない」
「……分かりました! ジャック様、非常にタメになるアドバイス、ありがとうございました!」
偉そうに解説したが、全て師匠の受け売りだ。
それにアデルにも言ったが、俺が教えたのは戦闘職としてやっていくためのアドバイスであって、アデルはお嬢様だし今後を考えれば、今のままが正解な気もする。
うーん。教えるということは、それなりの責任が問われることなんだよな。
……ただ、アデルはもっと強くなる可能性があると俺は思ったし、強くなってほしいと思ってアドバイスをした。
アデルが今後どうなるのかは分からないが、このアドバイスでどう変わりどう強くなるのか、非常に楽しみだな。