書き下ろしSS

生したらドラゴンの卵だった~最強以外目指さねぇ~ 14

トレントの次の進化先

俺とアロ、トレントは、ミーアと共に、番人ヘカトンケイルの守っている天穿つ巨塔へと向かって移動していた。遠くに見える巨大な塔が、段々と近づいて更に大きくなり、その圧倒的な存在感を主張し始めていた。
俺は小さい翼を羽ばたかせて宙を飛ぶ、木霊状態のトレントの背を見つめていた。いや、正確にはトレントではない。トレントのステータスを、である。 ……何度見ても〖最終進化者〗がねえんだよな。A+級だから、本来ならばここで打ち止めになるはずなんだが。本当にレベルマックスになったらこのまま伝説級へと進化できるんだろうか。とはいえ、もし進化できたとしても、神聖スキルがなければルインのように身体が崩れちまうと思うんだが……。
つーか、今のワールドトレントの状態で既に、トレントは充分盾役として極まった能力を有しているように思う。HPと防御力が高く、それを補佐するようなスキルもいくつも併せ持っている。特に〖ウッドカウンター〗と〖妖精の呪言〗で、物理的な打撃と魔法攻撃の両方に強烈なカウンター技をお返しすることができるのがあまりに強い。
弱点といえばピーキー過ぎて相性勝負になりがちなことくらいだが、それも仲間がいれば補うことができる。それに相性の要素が強くなりすぎるということは、場合によっては格上相手に打ち勝つこともできるかもしれない、ということでもある。悪いことばかりではない。
……この盾役として完成したワールドトレントが進化して、一体これ以上どの方面が成長するというのだろうか? 俺にはまるで想像がつかない。
わかりやすい欠点として、トレントは機動力や能動的な攻撃力に欠ける。とはいえ、今のステータスのまま足が速くなり、自分から攻撃できるようになれば、もはや動く要塞である。トレントの強力なステータスやスキルは、速さと攻撃力がないからこそ許されているようにも感じる。
『主殿、先程から私の背をじっと見て、どうしたのですかな?』
トレントが小さく振り返る。
『いや……大したことじゃないんだが、少し気になったことがあってな。そのだな、トレントお前、もし次に進化したら、どんな力が欲しいんだ?』
『どんな……ですか。むむ、なかなか難しいことを。そういえば私は、もう一段階進化できるかもしれない、ということでしたな。しいて言えば主殿やアロ殿をお守りできるような力が欲しいですが……具体的にと言うと……ううむ……』
さらっと男前なことを言うトレント。真っ先にとりあえずでその言葉が出てくる辺り、人の好さ……改め、木の好さを感じる。
『そうですな……もっと大きくなりたいですな!』
『もっと!? 今よりも!?』
既にトレントは、元のサイズなら俺の倍程度の全長を持つのだ。高さはざっと五十メートルである。これより大きくなられるとちょっと困る。というより、現状でも既に困っている。トレントもこの大きさを持て余してほとんど木霊状態で活動しているのではなかったのか。
『主殿やアロ殿……アトラナート殿、ヴォルク殿、マギアタイト殿、レチェルタ殿が、私の枝の先で住めるくらいの大きさが理想ですな! それくらい大きければ、きっと全員お守りすることができますぞ!』
『俺が枝の上に乗るって……それ、お前は全長何千メートルなんだ……?』
仮にそんなサイズの魔物が爆誕したら、一歩動くだけで世界中が大騒ぎになってしまいそうだ。戦闘しているところが全く想像できねぇ。
「……そ、そうかい。トレント君、君はもっと大きくなりたいのか」
ミーアが引き攣った表情でそう口にした。
『おっと、すみませんですぞ。さっきの名前の中から、ミーア殿が抜けておりましたな。私が仮に進化して更に大きくなった際には、ミーア殿も私の身体の上で暮らしてもいいですぞ! 歓迎しますぞ!』
「い、いや、私は遠慮させてもらおうかな……」
『……む? そうですか、それは少し残念ですぞ』
あ、あのいつも掴み所のないミーアが圧されている……!? ミーアのあんな素で困ったような表情は初めて見た。

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