書き下ろしSS

、能力は平均値でって言ったよね! 16

試食

「試食です! 『アレ・キュイジーヌ』ですよっっ!!」
「どこの言葉よ!」
『赤き誓い』のメンバーを集めてのマイルの宣言に突っ込む、レーナ。
「あ、これは『料理始め!』っていう意味の言葉で……」
「……料理を始めるも何も、もう、料理は全て出来ていて、テーブルの上に並べてあるよね……」
「い~んですよ、細けぇこたー!」
メーヴィスの指摘に、逆ギレ気味に怒鳴るマイル。
マイルにとって、ネタが理解されず、マジで返されることほど辛いことはない……。
「孤児院のお店で出す揚げ物の試食会です! お店がうまく行くかどうかが懸かっているんですから、真面目にやってくださいよっ!!」
「いや、それはマイル自身に掛けるべき言葉だろう……」
「そうならそうと、ちゃんと言いなさいよっ!」
あくまでもマジで返すメーヴィスと、孤児のためということであれば協力は惜しまないという姿勢のレーナ。
レーナも、父親が盗賊に殺された後、もし『赤き稲妻』のみんなが面倒をみてくれなければ。
そして彼らが殺された後、レーナが攻撃魔法に目覚めていなければ。
レーナ自身も、どこかの孤児院に入るか、浮浪児になっていたかもしれないのである。
なのである意味、レーナはマイルよりも遥かに強く、孤児達に対するシンパシーを感じているのであった。
「とにかく、試食して感想や問題点の指摘、そして改善案とかを出してください!」
マイルにそう言われ、いくつかの籠に入れられた揚げ物の試食を始めるレーナ、メーヴィス、ポーリンの3人。
何やかや言っても、皆マイルには甘いし、孤児達の将来が懸かっている事業には協力を惜しむつもりはなかった。
それに、マイルが作る料理は、美味しい。
ごくたまに出す、あまりにもチャレンジャー過ぎる実験作を除いて……。
そして今回は、どうやら安全策を取った手堅いものらしいため、危険度は低いはずであった。
揚げ物が皿ではなく紙を敷いた小さな籠に盛ってあるのは、冷めにくくするためなのか、余計な油が切れるようになのか……。

「ん……、これは……」
「サクサクカリカリしていて、歯応えが楽しいし、中身はホクホクしていて、美味しい……」
「こっちのは、プリプリしてる……」
オークカツ、コロッケ、唐揚げ、ポテトは、なかなか好評のようである。
エビフライや牡蠣フライとかの海鮮物も好評ではあるが、これらは海の近くの孤児院用のメニューである。ここ、ティルス王国の王都においては、生の海鮮物は入手できない。

「あれ? そっちの籠に入ってるのは同じ物?」
「ああ、こっちのは、冷めてから食べてもらおうと思って……。冷めるとどれくらい味が落ちるかの比較用ですよ」
「……あんたは、そういうトコには細かいのよねぇ……」
レーナがそんな茶々入れをするが、ここは、きちんと確認しておかねばならないところである。

「うっ……」
それまで美味しそうに試食していたメーヴィスが、突然顔を顰めた。
「この籠のネタは、全部不味いよ……。
いや、別にすごく不味いってわけじゃないけど、他のに較べると……」
マイルが見ると、メーヴィスの不評を買ったものは、天ぷらを入れた籠であった。
「あ~、やっぱり……。私も、不味いな、とは思っていたんですよね、ラードは天ぷらには合わないなぁ、と……。
でも、人には好き嫌いがあるから、他の人の意見も聞きたいと思ったのですが、やはり不味いですか……」
「ああ。何だか油の風味が強過ぎて……。
この料理は、以前に何度も作ってくれただろう、同じネタで……。それに較べて、全く駄目だよ……」
「そうですね。……美味しいものと較べて、衣が違うからでしょうかねぇ?
衣が油を吸い過ぎているのかなぁ……。以前作ったのは私が自分で絞った植物性の油を使ったのですが、今回はラード豚脂を使っていますから、特性というか、相性というか、そのあたりがかなり違いますからね……。
これで、冷めたら……」
「とても食べられないわよ!」
もう、全員からの袋叩き状態である。
……まぁ、レーナが『とても食べられない』と言っているのは、少々言い過ぎであるが……。
これでも、貧民や孤児達であれば、大喜びで食べてくれるレベルではある。
しかし、マイルの美味しい料理に慣れてしまったレーナ達にとっては、『不味い』、『不合格』と言われても仕方のないものであった。
ラードの融点は28~40度くらいと、植物油に較べて高いため、とんかつやコロッケ等には適しているが、元々、天ぷらには向いていないのである。
特に、冷めると油を大量に吸った衣がもう、最悪である。
それに対してパン粉で覆われたフライ類は、冷めるとパン粉と固形化した油が馴染んで、程良い食感となる。
やはり料理というものは、素材の質や鮮度だけではなく、相性というものがだい大じ事であった。

「……これだと、やっぱり客はエールを欲しがるわよねぇ……」
「そうですね。エール自体の売り上げも大きいし、揚げ物の注文数も増えるでしょうし……」
レーナとポーリンが言う通り、お酒は必須であろう。
しかし、孤児達だけではお酒の提供には色々と問題がある。
「やはり、エール、ワイン、ミード、蒸留酒とかは必要ですか。要検討、ですね……」
実は、魔術師が関わると、酒場にとっては有利なことがある。
それは、冷えた酒が出せる、ということである。
特にエールと白ワインは、氷を造ったり、魔法で直接冷やしたりできる者がいると、売れ行きが段違いとなる。
しかし、酒場がそのために充分な魔力量を持ち細かい冷却操作ができる魔術師を雇うのは、経費的にかなり苦しい。なのでたまたま客として居合わせた魔術師に冷やしてもらい、賃金代わりにその魔術師と連れの飲食費をサービスする、ということが行われているが、マイルの馬鹿魔力ならば、巨大な氷の塊を造っておいて、それを削って使えば、問題はない。
子供が作った雪だるまが、かなり気温が高くても数日間保つのである。10立方メートルの氷塊を物置か日陰に置いてシートをかけておけば、そう簡単には溶けないであろう。
マイルが長期不在の時は、他の魔術師に依頼するか、室温ルーム・テンプラチャーで出すしかないが……。
しかし、この辺りは日本より緯度が高いらしく、気温が低めである上、湿度も低い。
なので、地球の西欧や北欧のように、室温ルーム・テンプラチャーであっても日本で生温なまぬるいビールを飲むよりはずっとマシである。

……と、色々と試食した結果……。
「天ぷら以外は合格だね。私は、オークカツとコロッケが特にいいと思うよ。
……でも、牛肉のものがないのは少し残念だね」
「あ~、ただ狩ってくればいいオークと違って、牛肉は高いんですよ……。オークは油を採るためにも必要なので、必然的に使わざるを得ない食材ですし……。
牛肉については、お店が軌道に乗ってから、高級食材として様子を見ます」
納得の行くマイルの説明に、こくりと頷くメーヴィス。
「私は、メンチカツが好きなんですけど、メンチカツは……」
そう、以前マイルと一緒にメンチカツ作りを手伝ったことのあるポーリンは、その面倒さをよく知っていた。
とにかく、全ての具材を細かく刻まねばならない。そのため、仕込みに多大な時間と労力を要するのである。また、子供達に刃物を使った単純作業を長時間続けさせるというのは、あまりにもリスクが高過ぎる。
そして、味付けに高価な胡椒を使う。
また、冷蔵庫のない世界では、刻んだ肉の傷みが早い。
……なのでポーリンも、マイルが今回の試食にメンチカツを入れなかったことはやむなし、と納得しているようであった。
そしてレーナは……。
「エビと牡蠣と魚のフライがいいわね。マイル、時々孤児院で買ってきなさいよ、全員の夕食分。
あんたの特製収納魔法なら、冷めないでしょ」
「あ、いえ、海鮮具材は海辺の孤児院用です。そのために試食に出しましたけど、この街じゃあ私が提供しない限り、フライに使えるような海鮮具材は手に入りませんよ」
「なっ……」
マイルの非情な答えに、がっくりと肩を落とすレーナ。
「まぁ、とにかく天ぷらはメニュー掲載候補から完全に削除、その他はタネの種類と大きさによる揚げる時間の早見表を作って、後は油温を一定に保つための方法をどうするか、ですよね……」
マイルの思考は既に次の段階へと進んでおり、メーヴィス達は黙って揚げ物を食べている。
「……冷めても、そう悪くはないね……」
落ち込んでいるレーナは華麗にスルーして、マイペースのメーヴィス。
そして、いつものようにマイルペースのマイル。

……何でもない日々。
しかし、その裏で世界は既に、何度目かの大きな試練へと向けて進んでいた……。

TOPへ