SQEXノベル一周年記念SS
私、能力は平均値でって言ったよね!
一周年
「あれから、もう1年経ったのよね……」
「そうですねぇ……」
しみじみとした様子で、そんなことを言っているレーナとポーリン。
「え?」
しかし、ふたりが言う『1年経った』ということに心当たりがなく、首を傾げるマイル。
「私達が出会ってからはもう2年以上経っているし、ハンター養成学校を卒業してからも、1年以上経っていますよねぇ……。1年前に、何かありましたっけ?」
「何を言ってるんだい、マイル。1年前と言えば、私達『赤き誓い』が拠点を移したじゃないか。
新しい拠点ができて、私達がそこに移ってから一周年、ってことだよ」
「え? えええええっ? だって私達、養成学校を卒業してから、ずっとここ、レニーちゃんの宿を拠点にしてるじゃないですか!」
みんなが何を言っているのか分からず混乱するマイルに、レーナが教えてやった。
「そっちじゃないわよ。私達が今の拠点、『SQEXノベル』に移ってから1年、ってことよ」
「ああっ! そっちですか~~っっ!!」
みんなが言っていることを、ようやく理解したらしいマイル。
「そうですよねぇ……。新レーベルの、栄えある創刊タイトルに選んでいただいたのですよね、九頭七尾先生の『万能「村づくり」チートでお手軽スローライフ ~村ですが何か?~』、猫子先生の『転生したらドラゴンの卵だった ~最強以外目指さねぇ~』、初枝れんげ先生の『勇者パーティーを追放された俺だが、俺から巣立ってくれたようで嬉しい。......なので大聖女、お前に追って来られては困るのだが?』と一緒に……」
「何だか、宣伝くさい台詞ね?」
「販売促進活動ですよっ! 販促であって、『反則』じゃないから、いいんですよっ!」
「マイルちゃんがいつも言ってる、アレですよね?」
「「「い~んだよ、細けぇこたー!!」」」
そんなことを言っていると、ポーリンが何やら心配そうな顔で……。
「でも、新レーベルって、軌道に乗るまでは赤字なんでしょう、普通は……」
「ああ。最初の2~3年は赤字で当たり前、って世界らしいからね。そして要領を掴み、ヒット作を掘り当てて、黒字に転換するとかいう話だよね」
「……そして、要領を掴めず、ヒット作も掘り当てられずに、2~3年で消えて行く新興レーベルが数知れず……」
「「「縁起の悪いことを言うなアアアアァ~~!!」」」
不用意な発言をしたポーリン、フルボッコである。
「……で、うちの拠点はどうなのよ? また移籍するのは面倒よ」
「それも、無事引き取り手が現れてくれて、移籍できたら、の話ですけどね。でなければ、打ち切りに……」
「だから、縁起の悪い話はするな、と……」
懲りないポーリンの突っ込みに、さすがのマイルもお冠である。
「で、どうなのよ、うちの新拠点の状況は?」
「あ、それなんですけどね……」
少し心配そうな様子のレーナの耳元に口を寄せ、マイルが何やらこしょこしょと囁き……。
レーナが、にやりと笑った。
「……よし、今日の夕食はちょっと豪華にするわよ。そして代金は、担当さんのツケにしましょ!」
「え……」
「いいんですか?」
「あはは……」
* *
王都でも高級店の部類に入るレストランにやってきた、『赤き誓い』一行。
そして、どんどん料理を注文して……。
「じゃ、乾杯するわよ!」
乾杯とは言っても、
……お酒の提供が禁止されている時に、『この葡萄ジュース、管理状態が悪くて、発酵してしまっているのですが……』と言って、にやりと笑うソムリエに出されるやつとかではない。
まあ、ここでは飲酒の年齢制限などはないのであるが、みんなお酒がそんなに美味しいとは思えず、また女性やハンターが他人がいるところで酔っ払うというのは危機管理能力の欠如だと考える連中なので、食前酒に軽く口を付ける以外の飲酒はしないのである。
そして、レーナの音頭で……。
「SQEXノベル、レーベル創立一周年……」
「そして、順風満帆、たくさんのヒット作を掴んでの、好調な滑り出し……」
「「「「おめでとうございます!!」」」」