書き下ろしSS

者パーティーを追放された俺だが、俺から巣立ってくれたようで嬉しい。……なので大聖女、お前に追って来られては困るのだが? 3

お嫁さんになったら

私ことアリシア・ルンデブルクは、大聖女として世間ではちょっとした有名人です。
国教であるブリギッテ教の序列第3位ということで権力も結構あったりします。
とはいえ、しょせんは齢18の乙女。
普段考えていることと言えば一つだけです。
「どうした、アリシア、難しい顔をして? モンスターを撲殺し足りなかったか?」
「ちょえーい!」
「ぐえ」
私はアリアケさんのマントを引っ張って抗議します。
「何をするんだ」
「花も恥じらう乙女モードだったのに、撲殺とかいう不釣り合いな単語を急に投げ込んできたアリアケさんがギルティ―なんです!」
「乙女モード?」
「そうです」
ぷんすか、と怒ります。
まったくもう。
一体誰のことを考えていると思っているのでしょうか、この朴念仁は!
この朴念仁は!
この朴念仁は!
「うっ、何やら体が重くなってきた……」
「おっと、まずいまずい、乙女の思いが強すぎて呪詛になりかけていますね。そーれ、回復してあげましょう」
「ふぅ……助かったよ。さすがアリシアだな」
「もっと依存してくれていいんですよ?」
それはともかく、せっかくいい感じに会話が進んでいますので、ここは一つ、将来私がアリアケさんと運命に導かれて夫婦になった時のことを考えて、アリアケさんがして欲しいことを探ってみましょう。
花も恥じらう乙女ですから、日ごろのリサーチが大事なんですねえ。
「アリアケさんはもし結婚したら、朝ごはんは何が食べたいですか?」
オッケー。
さらっと聞けましたね。
私の気持ちを押し隠しつつも自然に聞けましたね。
さすが序列三位の大聖女さんですね!
「なんだかいきなりだな?」
「そうですか? 自然な流れでしたよ?」
ふむ、とアリアケさんは首を一度傾げてから、
「そうだなぁ、朝はフルーツとかがいいんじゃないか? 軽めの食事だと用意も簡単だからな」
「それでは困ります!」
「うわっと」
「おっと、いけない、いけない」
思わず大声を出してしまいました。
「なんのために大聖女さんが滝に打たれ、料理の腕を磨いてきたと思っているんですか⁉」
「滝と料理の関連性が不明だが……そこはあえて聞かないとして、なんで料理の腕を磨いてきたんだ?」
きょとんとした表情をします。
この朴念仁め!
この朴念仁め~!
あなたのためですよ~!
決まってますよね!
決まってますよね⁉
アー君に毎朝美味しい朝食を食べさせるために決まっているでしょうが!
男子は胃袋を掴まえればオッケイだと、お母様もおっしゃってましたからね!
そのために全てを捨てて、料理の腕を磨いてきたのです!
いえ、全部は捨ててないですけどね。
ものの例えですね。
「ではアリシアは逆に結婚したら、何をしたいと思っているんだ?」
「へっ⁉ わ、私ですか⁉」
「ああ」
突然のカウンターパーンチ!
アリアケさんのして欲しいことをしてあげようと常に思っている私ですが、私がしたいこととは盲点でした!
「ま、まず、したくないことを言います!」
「なるほど」
「あ、あまり忙しない朝は嫌ですかね。出来れば少しのんびりと、その過ごしたいなぁと思いますね」
「それはそうだな。俺ものんびりとした方がいい」
「フルーツもいいんですがそれだけだと嫌かもです。軽めの食事でいいんですけど、例えばちょっと温かいスープとパンなんかを出してあげたいなぁと思いますね~」
「確かに、フルーツだけではすぐに腹が減るから、それくらいの食事を毎朝食べられるといいな」
「それで、それで」
「ふむふむ」
「そういう軽めの食事をとりながらですね~、その日どういうことをするのか、ゆっくりと話すわけですよ。今日はどこへ冒険に行こうだとか、どんな風に過ごそうですとか」
「幸せそうな朝だな」
「そうでしょう? こんな朝を未来の旦那様とは過ごしますので、よろしくお願いしますね?」
「ん? あ、ああ。了解した」
「あは、勢いで言質取れましたね♥」
「?」
きょとんとしています。
む~。
ですがいつか、この夢を必ず叶えましょう。
私はあきらめない女ですからね、覚悟してくださいね、アリアケさん。
私はそんなことを、とある昼下がりに思ったのでした。

終わり

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