書き下ろしSS

役令嬢は溺愛ルートに入りました!? 3

ルチアーナ、セリア&ユーリアとパジャマパーティーをする

「お兄様、今日はユーリア様のお家に宿泊しますので、帰ってきませんから」
そう報告すると、「外泊宣言とは、妹が不良になった!」と言いながら、わざとらしく衝撃を受けた表情を浮かべた兄を残して、王都にあるビオラ辺境伯邸を訪問した。
ラカーシュの妹のセリアも参加する予定になっており、3人でパジャマパーティーをするのだ。
セリアの父親がユーリア様の名付け親であるため、2人は仲が良いらしい。
よく考えたら、これまでルチアーナの周りにいたのはおべっか使いの取り巻きのみで、お友達というのは初めてだわと、どきどきする。
嬉しさと興奮で胸が高鳴る中、一体どんな風に過ごすのかしらと考えている間に辺境伯邸に到着した。

「……いいわ! これは、最高に素敵な生活だわ」
私はゆったりとしたパジャマに着替え、ユーリア様の私室に用意された軽食とお菓子をつまみながら、これこそが至福だわーと考えていた。
……そうなのだ。煌びやかな服を着て、イケメンたちに囲まれるのもいいけれど、そんな生活ばかりでは疲れてしまう。
時にはゆったりとした服を着て……正確には、兄から贈られた王国一ダサい、けれど、着心地の良い金ぴかの夜着を、セリアとユーリア様に爆笑されながら着用し、だらしなくソファに腰掛けて、美味しいものを手で摘まむ生活は最高だった。
ああ、女子のみで開くパジャマパーティーは最高ね!

……そんな風に全てに満足しながら、取り留めのない話を延々としている間に夜も更けてきたようで、外は真っ暗になっていた。
そろそろ眠る時間かしらと考えていると、セリアがキラキラと目を輝かせながら近付いてきた。
両手は背中に回されており、何かを隠し持っているようだ。
「まあ、セリア様、何を持っているのかしら?」
そう尋ねると、嬉しそうに目の前に差し出された。
「うふふふー、実は私とルイスは同じクラスでして、ルイス経由でジョシュア陸上魔術師団長からとっておきの魔道具を借りたのです」
セリアの手に握られていた魔道具は見たこともない形をしており、それが何なのかさっぱり分からない。
そのため、首を傾げていると、セリアはてきぱきと魔道具をテーブルの上にセットした。
それから、直径3センチほどの黒い宝石をポケットから取り出す。
「うふふふー、兄に内緒で、秘蔵の石をこっそり持ち出してきたのです」
セリアが宝石を魔道具にセットすると、壁の一面にその場とは異なる映像が映し出された。
……まあ、これは前世でいうところの映写機だわ!
映画でも見られるのかしら……と思ったけれど、映し出された可愛らしい男の子は、見たことがない舞台俳優ではなく、完全に見覚えがある美少年だった。
「えっ、セ、セリア様! この黒髪黒瞳の美少年は、もしかしてラカーシュ様ですか!?」
答えを聞く前に、間違いないと確信する。
これほど端正な黒髪の美少年が、他にいるはずもないのだから。
「そうです! 兄が3歳の時ですわ!」
「まああああ! 可愛い、可愛いです!! 生まれたてのひよこと同じくらい可愛いです」
真っ白いむちむちの肌にさらりと黒い髪がかかる大きな瞳の美少年は、等身の低さも相まって、信じられないほど可愛らしかった。
その可愛いらしい3歳の美少年は、フリルのついた可愛らしい服を着て、食事をしていた。
というか食事をしながら眠りかけていた。
美少年が眠くてたまらない様子で目を瞑ると、こくりこくりと頭が下がる。
けれど、すぐにはっとしたように半分だけ目を開けると、お皿の中からいちごを掴んで口に入れようとした。
けれど、口に入る前に再び瞼が下がってきてしまう。
いちごは手からぽろりと落ち、器用に皿の中に戻った。
そして、美少年が再びこくりこくりとして、頭が下がってきたかと思うと、はっとしたように片目を開けてイチゴを掴む。
けれど、やっぱり口に入る前に眠ってしまい、いちごはまたまた皿の中に戻った。
「ひゃああああ、可愛い! ラカーシュ様は可愛らしいです!!」
きゅんきゅんするわーと頬を染めていると、セリアは嬉しそうに微笑んだ。
「兄は案外可愛らしいのです! ルチアーナお姉様がお好きであれば、次はもっと可愛らしい兄の映像をもってきますわね」
セリアがノリノリで、ラカーシュの子ども時代の秘蔵映像の持ち出しを約束してくれる。
ユーリア様が隣で、何事かを呟いていた。
「まあ、この作戦は果たして有効なのかしら? きゅんきゅんの方向を間違っているように思うのだけれど。……そもそも、この映像をルチアーナ様が見たことを知ったら、ラカーシュ様は怒るのじゃないかしら?」
「ユーリア様?」
セリアが尋ねるように名前を呼ぶと、ユーリア様はチョコレート色の宝石を差し出してきた。
「ふふふ、セリア様とのお泊り会では必ず放映会が実施されるので、私も記録映像を持参してきましたの」
チョコレート色の宝石から映し出されたのは、ユーリア様の2人のお兄様だった。
こちらは2人とも20歳を過ぎている様子だったので、最近の映像かと思われたけれど……その内容は、やんちゃな少年と変わらないものだった。
なぜならその2人の兄は、辺境伯の領地らしき場所の門から城までの移動を、匍匐前進で勝負していたのだから。
2人ともに高名な騎士らしく、素晴らしい肉体をしている。
そのため、地面に腹ばいになって、手と足を地面にするようにして進んでいるのに物凄く早い。
そして、岩だとか、砂利だとかの障害物があっても飛び越えたり、「いてててて」と悶えたりしながらも、難なく進んでいく。
途中で池が出現した時は、どういうわけか2人とも、上半身裸になって泳ぎ切っていた。
しかも、次兄の方は、池から上がった際に片手に亀を持っていて、それ以降は亀を頭に載せて匍匐前進をしていた。
……笑った。お腹が痛くなるほど笑った。
ユーリア様の兄2人がイケメンで、かつ肉体的に優れていて、結局は上手に全てを突破するところがまた面白かった。
爆笑のうちに、放映会は終わってしまった。
そして、そのような映像を見せられると、私の何かの魂にめらめらと火がつき、我が家にいる逸材をぜひ披露したくなる。
そのため、「次回は、私も放映会に参加させてください!」との私の宣言を持って、その日はお開きとなった。

その日、私はセリアとユーリア様と枕を並べて眠りながら、次のお泊り会には、兄のどんな映像を持ってこようかしらと必死で構想を練っていた。
ああ、兄が逸材過ぎて辛い……。

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