書き下ろしSS

能「村づくり」チートでお手軽スローライフ ~村ですが何か?~ 4

繁殖期

「なぁ、ルーク!」
何か見せたいものがあるらしく、ララさんが嬉しそうに駆け寄ってきた。
「これを見てくれ! じゃーん!」
何だろうと思って目を向けると、いきなりシャツをめくって胸を見せてくる。目の前にはっきりと晒される小ぶりな乳房。
「ちょっ!? 何やってんのさ!?」
僕は慌てて目を背けた。
「あたしの胸、大きくなったんだよ! ほらほら!」
「見せなくていいってば!」
「何でだよ~、せっかく自慢しようと思ったのにさ~。ルークはおこちゃまだから、まだ全然膨らんでないだろ?」
不貞腐れたように口を尖らせるララさん。
僕の胸が膨らんでないのは子供だからではなく、男だからだ。もちろんこの獣人の集落では女だと偽っているので、それを知られるわけにはいかない。
「これで今年の繁殖期、あたしは男たちにモテモテだろうな!」
「繁殖期?」
「ああ!」
詳しく聞いてみると、猫族では男女が別々の集落に暮らしていて、繁殖期にのみ、交わることが許されているという。
「男たちが順番に求愛してくるんだ。それで女がOKしたら、晴れてカップルが成立するってわけ」
そうした仕組み上、男性も女性も、人気が一部の獣人に大きく偏るという。
とりわけボスのリリさんは大人気で、いつも何十人もの男たちから求愛を受けるらしい。……今まで一度も受け入れたことはないそうだけど。
「あたしは去年まで誰からも求愛されたことなかったけど、それはまだ胸が小さかったからだ! でも今年は違うぞ! 見ての通り、大きくなったんだからな! 今年は姉さんみたいに大人気間違いなしだ!」
そう断言するララさんだけれど、リリさんと比べたらずっと子供っぽい。膨らんだと主張している胸も、正直そこまで大きくないし。
「あ、ルーク、もしかして疑ってるな! だったらその目で見たらいい! あたしが大勢の男たちにモテまくってるところをな!」
そうしてしばらくすると、猫族たちの繁殖期がやってきた。
まず男たちが数人ずつ代わる代わる集落にやって来ては、二泊ほどして帰っていく。その間、色んな女性に声を掛けたり、話をしたりしていた。どうやらこれは目当ての女性を見つけるための時間らしい。
そしてメインイベントとも言うべき求愛は、集落の外で行われた。
あらかじめ一列に並んだ適齢期の女性たち。そこへ合図と共に、男たちが各々の意中の女性の元へと殺到する。
ちなみにカップルが成立すると、女性が男性の集落の方に赴いて事に及ぶそうだ。
「見ろ! 男たちがいっぱいこっちに来るぞ! やっぱりあたしの胸が成長したからだな!」
他の女性たちに交じって求愛を待ちながら、ドヤ顔をするララさん。
確かに男たちの多くが、ララさんの方へと向かってきているように見えた。
まさか本当に? あれ? でも、ララさんのとこに向かうには、少しズレているような……。
な、なんだか、嫌な予感が……。
その予感は的中してしまう。猫族の男たちが集まってきたのはララさんのところじゃなかったのだ。
見学のために彼女のすぐ近くにいた僕のところで、
「「「「「ルークちゃん、大好きですっ!!」」」」」
「いやいやいや、僕は猫族じゃないからっ!」
「「「そんなことはどうでもいいっ!!」」」
求愛を受け、慌てて逃げ出す僕。だけど諦めずに追いかけてくる。
必死に走りながら、チラリとララさんの方を見ると、誰一人として彼女の前にはおらず。
「何であたしじゃないんだよおおおおおおおおおおっ!」
ララさんの恨めしそうな叫び声が、天高く響き渡るのだった。

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