書き下ろしSS

能「村づくり」チートでお手軽スローライフ ~村ですが何か?~ 5

旧知の仲

『うぅ……またこの村に来てしまったのじゃ……』
 巨大な魔物が荒野の空を舞いながら嘆いていた。
 人間たちにドーラと名付けられた彼女は、魔境に住んでいる古竜だ。しかし人間の村で作られるワイバーン料理を口にして以来、その虜になってしまっていた。
 だが、これは「十分に太らせてから食おう」という人間たちの壮大な罠なのではないかと、未だに疑っている。
 つい先日には、彼女の巨体に匹敵する魚の魔物が村で解体されているのを目撃してしまい、もう二度とこの村を訪れないつもりだったのだ。
『完全にやつらの術中にハマってしまっているのかもしれぬ……』
 そう思いつつ、村に着陸するため高度を下げようとしたときだった。
 ふと視界の端を過った地上の林。なぜか村の畑の中に突如として現れるそれに、彼女は違和感を覚える。
『あの林……動いておらぬか?』
 違和感どころではない。明らかにおかしかった。なにせ林が丸ごと移動しているのだ。
『もしや……』
 ピンとくるものがあって、ドーラは一気に高度を落としていく。
 そうして林の目の前に降り立った彼女は、自分の予想が正しかったことを知る。
 動く林の正体は、トレント系の魔物、ツリードラゴンの群れだったのだ。
 その中でもひときわ大きな巨樹に、彼女は声をかける。
『久しぶりじゃのう。なぜお主がこんなところにおるのじゃ?』
「~~~~?」
『わらわのことを忘れたのか? あの山脈に住むドラゴンじゃよ』
「~~~~!」
『思い出したようじゃの』
 実はドーラはこの魔物と旧知の間柄だった。どちらも魔境と恐れられている、山脈と森。隣接する地に棲息していることもあって、何度か会ったことがあるのである。
『それにしても、お主、もしかして以前より大きくなったのではないか……? それにこやつらはお主の子供か?』
「~~~~♪」
『なに? この土に移住してから発育がよくなったじゃと? それに子供も増えたと……』
「~~~~♪」
 そこでツリードラゴンが自らの大きさを誇示するかのように、空に向かって身体を伸ばした。
 すると四十メートル近い高さにまで到達し、ドーラを軽く見下ろすような形になる。
 一方のドーラは、しっぽの先まで入れたとしても、せいぜい二十メートルを少し超える程度しかない。
「~~~~♪」
 勝ち誇るように枝葉を振るツリードラゴンに、ドーラはイラっとした。
『お主、このわらわに喧嘩を売っておるのか?』
「~~~~♪」
『……そっちがその気というのなら、いいじゃろう。我らドラゴンを模倣し、強くなったつもりになっておるだけの植物風情めっ! 本家本元のドラゴンの恐ろしさ、その身に分からせてやるのじゃ! って、ぬおっ!?』
 戦闘モードに移行しかけたドーラだったが、突然、何かが身体中に巻き付いてきたかと思うと、その巨体が地面から浮き上がった。
 巻き付いているのは、無数の木の幹や枝。ツリードラゴンの子供たちが、一斉に彼女に襲い掛かってきたのである。
『ひ、卑怯じゃぞ!? サシで勝負せぬかっ! くっ、こんなもので、わらわを拘束できると思うでないぞ……っ! って、まったく外れぬ!? あっ、ちょっ、息が……』
 ついには口をも塞がれ、万事休すといったそのとき、彼女は慌てて人化。
 人間の幼女の小さな身体になったことで、どうにかツリードラゴンの包囲網から脱出できたものの、観念したように涙目で叫ぶのだった。
「わらわが悪かったのじゃああああああっ!」
「~~~~♪」

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