書き下ろしSS

ンジョン・ファーム ~家を追い出されたので、ダンジョンに農場をつくって暮らそうと思います~ 2

キアラの苦手克服

「きゃああああああああああ!」
 その日はキアラの悲鳴から一日が始まった。
「ど、どうしたんだ!?」
「何事です!?」
「騒がしいのぅ……」
「モンスターですか!?」
 悲鳴を聞きつけた俺たちは、キアラのもとへと駆けつける。すると、ツリーハウス近くで腰砕け状態となっている彼女を発見した。
「ど、どうしたんだ、キアラ」
 声をかけると、キアラがゆっくりとこちらへ振り返る。その瞳には涙が浮かんでいた。
 異常事態が発生しているということはすぐに察せられたのだが、その原因はどこにも見当たらなかった。原因が分からずに困惑している俺たちの姿を見て、キアラは震えながら声を出さず、一点を指さした。
 そこにあったのは、
「? ……ヘビ?」
 恐らく上の森から落ちてきたと思われる一匹のヘビであった。
「体長は五十センチくらいか。あの種類は……毒を持っていないな」
「なんじゃ。普通のヘビか」
「ビックリしましたぁ」
 俺とハノンとシモーネはそれほど大きくない毒なしのヘビが驚きの原因だったため、ホッと安堵する。
 一方、マルティナは腕を組んで黙ったまま。
 もしかして、ヘビが苦手だったのか?
「うーん……蛇はまず臭みを取るのが大変なんですよね」
 どうやら、食材として捉えていたようだ。
 さて、悲鳴の主であるキアラはというと――あれ? いない?
 姿を消したキアラを捜していると、いつの間にかツリーハウスの陰からヘビの様子をうかがっていた。
「キアラ……お主、ヘビが苦手なのか?」
 ハノンが尋ねると、キアラは何度も頷いた。というか、さっきからひと言も言葉を発してないな。これは本気で苦手なタイプの人の反応だ。
「ヘビが苦手とはのぅ……シモーネのドラゴン形態も大体似たようなものではないか」
「シモーネのドラゴン形態はカッコよさと気品があるから平気なの!」
「えへへ~」 
 照れている場合じゃないぞ、シモーネ。
 ともかく、嫌いなら追っ払うかと思ってヘビへと近づいていくが、その時、このヘビが弱っていることに気づく。
「このヘビ……怪我をしているみたいだ」
「本当ですね。どうします?」
「どうするって……」
 俺とマルティナがヘビへの対応に困っていると、いつの間にか俺たちのすぐ後ろにいたキアラが口を開く。
「その子……死んじゃうの?」
「どうだろうなぁ。俺は専門家じゃないから分からないけど――ただ、このままにしておくと確実に死ぬだろうな」
「っ! な、なら、助けましょう」
「「えっ?」」ヘビが苦手なはずのキアラから飛びだしたまさかの提案に、俺とマルティナは同時に振り返った。
「こ、このまま放置して死んじゃったら、なんだかいい気がしないでしょ?」
 なるほど。
 苦手な生き物であっても命は救いたい……そんなキアラの優しさがうかがえる発言だ。
 それから、俺たちはヘビの怪我の手当てをし、元気になるまでお世話をすることにした。
 最初はビビりまくっていたキアラであるが、次第にそれも克服し、ついには頭を撫でることもできるようになっていた。


 ――それから数日後。
 怪我が癒えたヘビを森へ帰す日がやってきた。
「ほら、行きなさい。もう落っこちたりしちゃダメよ?」
 最後にそう優しく語りかけて、キアラはヘビを森へと放つ。
「さようなら……チャーリー」
 いつの間に名前を付けていたのかという無粋なツッコミはせず、俺たちは元気に森へと帰っていくヘビを見送るのだった。
「……ねぇ、ベイル」
「うん?」
「あたし――もう二度と、ヘビ型モンスターとは戦わないわ」
 ……極端なんだよなぁ、キアラは。

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