書き下ろしSS
皇帝陛下のお世話係~女官暮らしが幸せすぎて後宮から出られません~ 2
贈り物
季節外れの木蓮が白い花を一つだけ咲かせた、
銅でできた急須を手にした
窓から白い花がぽつんと咲いているのに目を留め、自分がここへ来たのもちょうどこんな頃だったと思い出す。
──女がいつまでも鉄を打っているなど許されぬ。
宮廷御用達の職人が集まる工房が、彼女の生家だった。自分に技を教え込んだはずの父は、いつしか鍛冶場から娘を遠ざけるようになり、ある日盛大に親娘喧嘩をしたのちに彼女は家を飛び出てしまった。
職人として雇ってもらえるなら、愛妾の身分でも何でもいいとさえ思っていた
『そなたは見目が良い。私が寵愛し囲っている女人のふりをするのなら、宮を貸してやる』
まだ赤子だった
「
振り返ると、戸口に
清廉な花のような美しさ、少しだけあどけなさも残るその顔つきはいかにも良家の娘だと思う。
「あら、早かったのね。夜になるものとばかり思っていたわ」
そう言って笑いかければ、彼女もまた微笑んだ。
「
「ふふっ、大丈夫よ。きれいに磨いてあるわ」
「ありがとうございます」
ホッと安堵した表情を見せる
「あの池って、見た目より色々な物が沈んでいたのね。
持ち主がわかる物はほとんどなかったが、かつて後宮で女たちの争いが繰り広げられていた時代に意図的に投げ込まれたであろう物も多数見つかった。
職人としては、物を粗末に扱うのは許せないと
「これまでにも池の水は何度も抜いていたそうですが、完全に抜き切るわけではなかったそうで、落ちている物をすべて回収したのは初めてだったとか。私の
引き出しに入れてあった木箱を取り出すと、中を確認してからそれを
「……事情は聞いたわ。職人としては大事にしてもらって嬉しいけれど、くれぐれも無茶はしないでね?」
夜の池に入るなど、していいことではない。
暗にそう告げる
「気を付けます」
「本当に?
「まぁ……、そのようなことを?」
恥ずかしそうに目を伏せた
「
その言葉に、
「あの」
「ん?」
「確かにこの
純粋な目でそう言われ、
これまで自由に、好きなだけモノづくりに励んできて、それは彼女にとって幸せな日々だった。
ただし、こんな風に面と向かって気に入っていると言われることはなく、久しぶりに温かな気持ちがこみ上げるのに気づいた。
(柳家の姫ならいい物なんていくらでも手に入るし、私の作った物より素晴らしい装飾品だって散々手にしてきたはずなのに)
「
「あ~、かわいい~! 本当にかわいいわ
「え? ふふっ、それは楽しいお誘いですね」
二人で笑い合っていると、廊下の方から不機嫌そうな声が聞こえてきた。
長い髪を一つに結び、武官の装束を纏った
「そなたらは何をしておるのだ。
その美しい顔は不満げで、本心でそう言っているのが見て取れる。
「いいでしょう? 女同士ですもの、
露骨に眉を顰める
「
「えっ、そのようにおっしゃられましても……」
困り顔の
動こうにも、女性同士とはいえ
「そうだわ。今度は私から
「おい、物で
「欲しいです。二胡
勝ち誇ったように
二人の睨み合いはしばらく続き、困り果てた