書き下ろしSS
転生したら最強種たちが住まう島でした。この島でスローライフを楽しみます 1
レイナの収納魔法にはなにがある?
俺がこの島にやってきてからしばらく経ったが、実はずっと不思議に思ってることがある。
「どうしたのお兄ちゃん? なんか変な顔をしてるよ?」
「ルナ……レイナはいったい、どれだけ物を持ってきてると思う?」
「え? 持ってない物とかあるのかなー?」
ルナがそう言うくらい、レイナはこちらが必要だと思う物をどんどんと取り出していた。
彼女に教えて貰った収納魔法は、使い手の魔力量によって左右される。
大陸最高峰――と言っても実はよくわかっていないが――人類最高クラスの魔法使いである『七天大魔導』の一人であるレイナは、当然普通の人よりずっと魔力が多い。
彼女曰く、俺の方が化物並みだとのことだが、世間一般的には彼女も同じようなものだろう。
「そういえばお姉ちゃん、なんか色んな物出すもんね」
「うん……そうなんだ」
寝床に使っている軍事用のテント、大量の食糧、料理をするための調理器具に探索するための着替え類。
まあ、この辺りはいいだろう。元々この未開発の島を探索するために来たのだから、それに見合った道具と言える。
「あ、ティルテュがハンモックで寝てる。いいなー」
昼寝用のハンモック。
「エルガは……なんか筋トレしてるし」
多分、前世の地球でもあったトレーニンググッズ。
「それでレイナは……」
「本読んでるね」
もはや森林浴でもしているかのように、キャンプ用のチェアで寛ぎながら持ってきた本を読んでいた。
そこらの果実を魔法でシェイクして、オリジナルジュースを作り、リラックスをしている様子。
「……ゴクリ」
「ルナ、涎出てるよ」
「っ――⁉」
必死に自分の口元を拭いながら、視線はレイナの持っているジュースに注がれている。
「欲しいなら言えば作ってくれると思うよ」
「えっと……でもお姉ちゃん休んでるし……」
「そっか」
いい子だなぁと思うが、相変わらずジュースから視線は逸らさない。あとまた涎が出てる。
相手に気を遣うのは良いことだが、こうして生活を共にしてる中で遠慮や我慢はしなくてもいいとも思う。
「ってことでレイナ、寛いでるところ悪いんだけど、そのジュースってまだある?」
「え? ああ、ちょっと待ってね」
レイナは当たり前のように立ち上がると、そのまま収納魔法を使う。
ぶれる空間の中に手を突っ込み、銀色のシェイカーのような物を取り出した。
「……」
――なんでそんなものがあるんだろう?
「ええと、たしかこれ用の果実は……」
収納魔法の中に手を突っ込みながらこれじゃない、あれじゃないと探し始め――。
「あ、あったあった」
この島でたまに見かける果実を手に取ると、神獣族たちから貰ったミルクとバニラアイスのような物を準備する。
そしてシェイカーをシャカシャカさせていると、ルナだけでなく、昼寝を楽しんでいたティルテュが瞳をキラキラとさせながら近づいて来た。
おそらくなにか美味しい物を作っていることを、本能で理解したのだろう。
「んー、もうこのままみんなの分作っちゃうわね。アラタ、ちょっと氷作ってくれる?」
「あ、うん」
いつの間にか用意された金属でできた氷淹れに、以前教えて貰った氷魔法で水を凍らせる。
レイナはそこに混ぜ終わったシェイカーを突っ込み――。
「はい、少し待ってね」
「ま、待つぞ! 我は待つぞ!」
「ルナもー!」
ワクワクと言った様子でひんやり冷気の零れる入れ物を眺める二人。
「せっかくだから、グラスにしましょうか」
いつの間にか取り出したテーブルの上にクロスを敷き、高級感溢れるグラスを人数分用意。
ささっと出来上がったシェイクをそこに注ぐと、その上にサクランボのような果実を一つずつ乗せる。
「「おおー」」
まるでパーティー会場のような出来栄えに感激した二人が盛大に拍手。
その様子にレイナは微笑み、一人ずつ手渡していく。
「はいどうぞ」
「「いっただきまーす……」」
スプーンでパクリと食べると、フルフルと震えだし……。
「「うーまーいーぞー!」」
天に向かって叫ぶ二人。
二人の雄叫びでトレーニング中だったエルガがシェイクの存在に気付き、「俺にもくれー!」と言いながら走ってきた。
その様子がおかしく、レイナと二人で笑い合う。
「まあ……こんな風に楽しく出来るなら、レイナがなに持ってきてても気にしなくていっか」
「え、なんの話?」
「ううん、気にしないで」
多分これからも彼女の収納魔法の中からは、不思議な物がたくさん出てくるだろう。
だがその中身を聞くよりも、こうして日々の生活の中で知っていく方がいい。
「俺ももらうね……うん、美味しい」
そんな新しい発見がたくさんある方が、ずっと楽しいはずだから。