SQEXノベル一周年記念SS

生したら最強種たちが住まう島でした。この島でスローライフを楽しみます

初日の出の願いごと

神様に転生させてもらいこの島にやってくる前、俺はどこにでもいる普通のサラリーマンをしていた。
まあ、毎日終電まで働いていたことが普通と言えるかどうかは別の話だが……。
休日出勤も当たり前ともなれば、仕事が生活の大部分を占めており、仕事のために生きていたと言っても過言ではない。
それがこの島にやってきてから、すべてが自分のための行動に変わり、思うことがある。
「あの時の俺に、なんか大切なものってあったのかな?」
趣味らしい趣味も持てず、もし時間が空いたらあれをしてみたい、なんて妄想だけはしていたが実行には移せず。
よく家と会社の往復だけをしている、なんて言う人は多いが自分はまさにそれだった。
それが今や、テントで美少女と生活したり、可愛い妹分たちと遊んだり、気のいい友人と釣りをしたり。
毎日新しい出来事がひっきりなしにやってきて、その一つ一つがとても楽しい。
「この島に来てから、変わったもんだ」
「なんの話?」
「ああ、気にしないで。ちょっと昔を思い出していただけだから」
少し誤魔化すように笑いながら、過去の自分が今を見たらビックリするだろう。
特にレイナのような美少女と一緒に生活をするようになるなど、あのときの俺では妄想でもありえなかったことだ。
「お兄ちゃん、お兄ちゃん! こっちこっちー!」
「旦那様! 早くしないと出てきてしまうぞ!」
「あ、呼ばれちゃったわね」
「だね。すぐ行くよー!」
まだ日も出ていない早朝の時間帯。
ルナとティルテュを先頭に、俺たちは暗い森を歩き、そしてその奥にある海岸へと向かっていた。
「それにしても、初日の出なんて習慣がこの島にもあるんだ」
「仲の良い人と一緒に見ながら願い事をするとそれが叶うなんて、なんだか面白いわね」
俺たちがこの島にやってきてからそれほど時間はまだ経っていないが、丁度この島にとっては一周期に当たる日が今日らしい。
なんだか七夕と元旦が一緒になったような考え方だが、土地によってそれぞれ風習というのが違うものだし、ましてやここは異世界だから、こういうこともあるだろう。
今日ばかりは仲の悪い種族たちも喧嘩をせず、それぞれが仲の良い者同士で初日の出を見に行くらしい。
「もー、早く来ないと太陽が昇っちゃうよー!」
「ごめんごめん、すぐ行くって」
ちょっと怒った感じのルナたちに付いて行き、森を抜けるとレイナと出会った海岸に辿り着く。
少し周囲を見渡すと、神獣族の面々が集まっていた。
「あ、エルガとリヴィアさんもいるね」
夫婦水入らずで手を繋いでいる砂浜に座り込んでいる二人を見て、なんとなく普段見れない姿を見たなぁ、なんて思う。
それと同時に、彼らのような仲睦まじい姿は、これまで結婚など考えられなかった俺にとっても少し憧れるものだ。
「いつか俺も……」
ふと、俺は隣でルナたちと笑い合っているレイナを見る。
神様に転生をしてもらうとき、誰も人間の住んでいない場所にして欲しいと頼んだ。
だけど今は、ここにいる面々ともっと楽しい日々を過ごしたいと思うようになっていた。
「あ、もうすぐだね! よーし……」
「むむむ、今年はどんな願いごとにするべきか……」
「私はなににしようかしら?」
願いが叶うなんてただの迷信。
そう断じることは簡単だが、真剣に願いごとを考えている彼女たちを見ていると、本当に叶うような気がしていた。
だとしたら、俺の願いは決まっている。
――いつまでもこの大切な日々が続きますように。
一年に一度、島の住民たちが全員揃って同じことを思う日に、俺はこの世界に転生させてくれた神様に向かって、そう願うことにした。

『読者様たちが買ってくれてたくさん売れたら重版して、いつまでもこんな日々が続くよ』
「……え?」
変な幻聴が聞こえた気がしたが、周囲のみんなは自分の願い事を必死に呟いている。
『SQEXノベルは丁度一周年。この作品が代表作になれるように、たくさん買ってもらいたいね』
「え、ええぇ?」
それ以降、謎の声は聞こえなくなった。
ただまあ、この日々が続くための方法があるなら願いたいと思う。
どうか――たくさん売れますように。

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