書き下ろしSS

生したらドラゴンの卵だった~最強以外目指さねぇ~ 16

『とある終末竜と不遇スキル』

 リーアルム聖国にて神の声の〖スピリット・サーヴァント〗である聖女ヨルネスこと奈落の王アバドンを倒した俺は、アロ、トレントと共に、別大陸を目指して海原の遥か上を飛んでいた。
 残る神の声の〖スピリット・サーヴァント〗は三体である。一刻も早く、世界各地を荒らしているであろう奴らを討伐しなければならない。
 道中……俺達は移動の休息のために、ある小さな島へと寄ることにした。海へと潜って巨大な魚の魔物……ギガスフィッシュを捕らえた俺は、自身の爪を用いて切断し、〖灼熱の息〗によって焼き上げて食事休憩とすることにした。
 ギガスフィッシュのステーキを喰らいつつ、俺はふと、アロとトレントにあることを尋ねてみた。
『なぁ、全然使ってないスキルってあるよな?』
『ほう、唐突にどうなされたのですか、主殿?』
『ちょっと気になってな。今まで以上に凶悪な相手が出てくるだろうって思うと……戦い方みたいなところを見直してみるのもいいのかもなって』
 なんとなく思考から外していただけで、実は本当は使い道のあるスキルがあるかもしれない。そうしたスキルを戦闘にしっかりと活かしていけば戦術の幅が一気に増えるはずだ。
『ふむ……とはいえ、私は魔法攻撃もそれなりに活用しているつもりですし、属性別に持っていることが重宝する場面も多いですぞ』
 トレントは魔法の攻撃スキルであるスフィア系統を四属性揃えている。確かに相手を見てよく使い分けをしている印象がある。
『能力面の補助スキルも使わない理由がないときは大抵使っておりますし……ほぼ使わないのは〖ポイズンクラウド〗くらいですかな?』
『なるほど……案外しっかり使ってるんだな』
 〖ポイズンクラウド〗は毒の濃霧を発生させるスキルだ。ただ、状態異常系のスキルは同格以上の相手には通りが悪く、あまり使い道がないことが多いのだ。
『アロはどうだ?』
「そうですね……ううん……状態異常系は腐りがちですし、亡骸を操る〖アンデッドメーカー〗も使用機会があまりないですね」
 その辺りは確かに使用頻度がどうしても少なくなりそうだ。頭を捻っても戦術の幅を増やせるものではないだろう。
「ああ、〖黒血蝙蝠〗もあまり使わないです」
『どういうスキルだっけ?』
「自分の血から蝙蝠を造れるんですが……〖暗闇万華鏡〗で分身を造った方が基本的にはいいんですよね」
 アロはそう言いながら、手のひらに赤い光を灯す。丸っこい、可愛らしい蝙蝠が現れた。
『なるほど、別のスキルの下位で、コスト面でしか差別化できないのか』
「戦闘能力もほとんどありませんので、あまり使用する機会が……。気軽に出せる囮としては使えるかも……」
「キィッ!?」
 主の言葉を聞いて、蝙蝠がショックを受けたようにピンと身体を伸ばす。
『でも、そういう明確に使えない理由があるもの以外は上手く使えてるんだな……』
「竜神はあまり使っていないスキルがあるんですか?」
『そうだな……』
 俺は少し目を瞑って考える。
『状態異常系は大体漏れなく腐っているな。後はオネイロスで覚えたやれ幻影やら空間やらのスキルも扱い辛いものが多くて……。攻撃スキルも〖次元爪〗頼みが多いか? それでゴリ押したら、後は隙を見つけて殴り続けるのが一番手っ取り早いし……』
「なるほど、それで悩んでいたんですね」
 アロが俺の言葉に頷く。
『主殿……もしやスキルの使い方、ヘタクソなのでは?』
 トレントの言葉がぐさりと俺の心に刺さった。
「りゅ、竜神さまは、覚えているスキルが多いの! 実際その中で、使用用途の狭いスキルと、他のスキルの割を喰う便利なスキルが多いから、敢えて色々使う理由がないだけで……!」
 アロが必死のフォローを入れてくれる。
『いえ、しかし、アロ殿が多用しておられる〖ミラージュ〗、主殿は全然使っておられませんよね? 確かに戦闘慣れしている相手程、単調な幻覚は容易く見破ってくるということはわかりますが、アロ殿は霧に乗じて用いたり、自身の細かい動きを誤認させたりするために上手く使っております。他にも主殿が散々使えないと言っておられた空間移動のできる〖ワームホール〗も、オリジンマターが上手く使いこなしておりましたし……。確かにそこは見直しの余地があるのやも……』
 予想以上にガチ指摘に、俺はつい黙って俯いてしまった。アロがそんな不甲斐ない俺を見て、キッとトレントを睨んで口を開く。
「りゅ、竜神さまは、そんな小手先に頼らなくてもいいの! えっと……細かく幻覚を仕掛けるより、速さを活かして正面から充分戦えるし……! ワ、〖ワームホール〗も、オリジンマターの偏った能力の弱点を埋めるために適していただけで、竜神さまにはそもそも機動力があるんだから不要なの! ね、そうですもんね!」
 アロが必死のフォローを入れてくるのが逆に辛い。
『す、すみませんぞ、アロ殿。別に私はその、竜神さまを責めるような意図はなくて、単に今より向上できる余地があるのならばと……』
 そしてトレントの正論パンチが返される。
『……も、もうちょっと、使ってないスキルについて真剣に考えてみる。ありがとうな、アロ、トレント』

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