書き下ろしSS
勇者パーティーを追放された俺だが、俺から巣立ってくれたようで嬉しい。……なので大聖女、お前に追って来られては困るのだが? 4
村おこし会議
俺ことアリアケ・ミハマは、目標であったオールティ村へと到着していた。
賢者パーティーのメンバーももちろん一緒である。
大聖女アリシア、ドラゴン娘のコレット、聖槍の使い手ラッカライ、十聖の獣フェンリル(今はもちろん人型)、そして回復術士ローレライに、ポーターのバシュータである。
いつの間にか大所帯になったものだ。
「では会議を始めようと思う」
「はいはい、たったか行きましょう~。余り時間はなさそうですしね、やれやれ~」
アリシアは冗談めかして言うが、事態はまことその通りであった。
残念なことに穏やかな村だったオールティは、モンスターの襲撃にさらされ、滅亡寸前になっていたのである。
この難局を乗り切るための会議なのだった。
「自由に発言してくれ。色々なアイデアを聞いて、施策に活かしていくのでな」
「では、はい! なのじゃ!」
「ん」
コレットが元気よくシュタッと手を挙げたので頷いて発言を促す。
口火を切ってくれたり、戦闘でも切り込み役の彼女の速さは非常に助かる。
「我がドラゴン種族たる、ゲシュペント・ドラゴンを数匹連れてきて防御に当たらせてはどうかな、なのじゃ! 近づく敵を一掃なのじゃ!」
「お姉様、すっごく過剰防衛ではないでしょうか?」
「失礼な! 儂だったら、もっとすごいことになるのじゃ! この辺り一帯をブレスで一層するくらいのことはしてのけようぞ!」
「って、張り合いどころが間違ってますよ!?」
ラッカライが律儀にツッコミを入れた。
「にゃははは! だめか!」
「だめというわけではないと思いますよ。ねえ、アー君?」
「だな。防衛戦力が必要か不要かと言う点で言えば、必要に決まっている。そこを用立てるための手段がちょっとユニークなだけだ」
「腹案がある様子ですね、旦那」
バシュータが言う。
俺は頷いて、
「まあな。いちおう貸しがあるから、ちょっと連絡を取ってみるか」
「誰ですか? あっ、もしかして勇者パーティーでしょうか? あれは使い物にならない可能性が高いですよ。ええ。他意はありませんが、そう思います」
ローレライがなぜか勘違いして、勇者パーティーをディスるが、
「確かにあいつらは前回の戦い(対悪魔フォルトゥナ戦)でボロボロだろう。少し休養も必要だろう」
「アリアケ様に文句は一つもないのですが、その勇者パーティーへの信頼はどこからきているのですか!?」
「私も同意なんですけどね~。なんか呪いでもかかってるかと思ったんですが、別に普通なんですよねえ。やれやれ~」
ローレライとアリシアが何やら話しているが、本題にかかわってなさそうなので無視して、
「まぁ、俺に任せてもらうとしよう。とある町をコレットと一緒に防衛したことがあってな。その時に縁のある人物だ」
冒険者ギルドのボス。
こんな辺境に来るわけもないが、誰か別の人物を紹介してもらえるかもしれない。
「おお、あのハゲか!」
「コレットや。頭の話題に触れるのは乙女として品性にかけるのう」
「なんと! じゃが、フェンリルが言うなら間違いないのじゃ。もう言わぬのじゃ。ちなみに似合っていないとか言ってるわけじゃないのじゃ。ただ、髪の毛がないのが珍しいなと思っただけであって」
「言葉を重ねるごとに不穏になってゆくのう。口は禍の元という格言もあるゆえ気を付けるとよいの。ところで」
フェンリルが話題を切り替えるように言った。
「防衛は良いとして、村を盛り立ててゆくには産業を育てる必要であろうて。余裕が出来れば他の商業も育てれば良いとは思うがのう。そのあたりも検討した方がよかろうて」
「そうですね。何か特産品などを作れると交易が出来て良いと思います。商業が軌道にのれば多くの人々の出入りが期待できますし、そうなれば他の商業施設も自然と集まってきますしね」
アリシアが同意した。
「じゃが、この村ってなーんもなさそうじゃぞ? モンスターが跳梁跋扈(ルビ:ちようりようばつこ)しとるくらいじゃ」
コレットの言う通りだが、
「まぁ、だとすればそれを産業のとっかかりにするしかないかもですねー?」
「とっかかりとな?」
「はい。コレットさん。魚を得るために自分で釣る必要はない、という言葉もありますので」
「?????」
コレットが疑問符を浮かべるが、俺は彼女の言っていることがよく分かった。
まぁ、アリシアは何気にブリギッテ教会の序列三位だったりするので、このあたりの勝手がよく分かっているのだろう。
「モンスターを倒せば素材をドロップする。それを交換することで、この村の特産品にする、か」
「何と交換するのじゃ? というか、そんな貴重なものを交換してくれる相手がおるのじゃ?」
俺はフッと微笑むと。
「まぁな。コレットにも彼女は感謝してるんじゃないかな?」
「彼女?」
「そう。エルフの王女様だ。連絡を取れば交渉のテーブルくらいにはついてくれるだろうさ」
「セラ姫か! エルフと交易をするということなのじゃな!?」
コレットがポンと手を打つ。
ローレライは目を丸くして、
「本当にすごい人脈なんですね。ちょっとびっくりしました」
「お主もその一員であると思うがのう」
「へっ? 私ですか?」
ローレライは首を傾げてから、コレットと同じようにポンと手を打つと、
「村には精神的な支柱が必要ですね。あと、ぶっちゃけお母様が……大教皇リズレット様が、アリアケ様とぶっといコネを作っておきたいと言ってました!」
「ぶっちゃけすぎですよ、もう。でも私も賛成です。教会の建設と人員の派遣を要請しましょうね~」
「先生、権力が動く瞬間を見た気がします……」
「まぁブリギッテ教会はノリで動く体育会系気質だからな。新しい村づくりでプロテインをきめすぎてテンションが上がってるんだろう」
「ブリギッテ教を心底誤解してますねえ……。別にノリで決めた訳ではないですからね!」
「そうなのか?」
はぁ、とアリシアは呆れてから、そして微笑むと、
「あのアー君が作る村なんですから、ただの村で終わるわけがないじゃないですか」
当然と言った様子で言う。だが、
「いや、あくまで俺はゆっくりするための準備として、村を復興させたいだけなんだが……」
「そうですね。うんうん。分かってます、分かってますとも。私もアー君と庭付き一戸建ての家でのんびりしたいと思っています友」
彼女は恨みがましい口調で言う。
しかし、一方でその口元は優しく微笑んでいたのだった。
俺と何かを作るのが、とても楽しみだとでもいうように。
「のう、フェンリルよ。あの二人だけの空間を作るのやめて欲しいのじゃがなぁ」
「それは野暮というものよの。ま、我らも早く同じ立ち位置になることよの」
「ボクたちもアリシアお姉様と同じ立ち位置にっ……!」
「ごくり!」
アリシア以外の女性たちが何やらひそひそと話す。
「やれやれ、もてる旦那はつらいですな」
それをバシュータは面白そうに眺めていたのだった。
ともかく、色々と脱線しながらも、こうして賢者パーティーの会議によって、滅亡しかけのオールティ村の復興村づくりプランは動き出したのであった。
終わり