書き下ろしSS

者パーティーを追放された俺だが、俺から巣立ってくれたようで嬉しい。……なので大聖女、お前に追って来られては困るのだが? 5

担当科目

さて、俺ことアリアケ・ミハマが率いる賢者パーティーは、俺が国王をつとめるオールティ国にて、人魔同盟学校を設立することにした。
 これから100年、いや1000年先をも見越した、新しい世界を展望した結果だ。
 というわけで、学校を作るわけだが、そのためには先生がいる。
 そして、それはやはり世界で最有力な実力者パーティーと認められた、俺の率いる賢者パーティーがふさわしいということになった。
 やれやれ、のんびりしたいところなのだがな……。
 とはいえ、大事な仕事だ。
 そんなわけで担当科目を決めなくてはいけない。それぞれ得意分野も違うので、各自の特性にあった科目を振り分けるべきだろう。
 ちなみに、ここには俺の他にアリシアとコレット、ラッカライがいる。
「逆に苦手分野を担当するのも良い気がしてきたのじゃ! のじゃ!」
「急にどうした? コレット? お前は武術担当をしたいと言っていたように思うが……」
「そうですよ、コレットちゃん。ブレスに120秒耐える人材を育成するのでしょう?」
「待て、アリシア。それは却下したので、蒸し返すな。オールティ国が焦土と化す可能性の方が高い」
 最近俺の妻となった大聖女のアリシアの言葉を止める。
 コレットは脳みそが若干筋肉なのだが、ブリギッテ教の序列三位たるアリシアもそういうところが多分にあるので、この二人の発想は時々物騒を通り越して、剣呑である。
 ひやひや。
「苦手分野となると、何だ? 算術とか家政学とかか?」
「にょわはははは! 馬鹿にしてもらっては困るの、旦那様! アリシアに会ってそのあたりは勉強してきたのじゃ。全ては良き妻になるために!」
「そうなのか。誰の妻なのかは分からんが、偉いな」
「にょわはははは! ここでブレスをしない儂は偉い! 忍耐の塊と言っても過言ではないのじゃ! うわん!」
 よく分からない反応が返ってきた。
 ラッカライの方を見ると、なぜか俺に苦笑が返ってきた。なぜだ。
「とはいえ、お前がそんな技術を身に着けているとは意外だった。さっきは言い過ぎた、すまないな」
「そう言う時はナデナデなのじゃ!」
「はいはい」
「むふふ~!」
 なぜか撫でると機嫌がよくなる。
 なお、アリシアとラッカライは機嫌が若干悪くなる。
 この相関関係については、いまだに解明されていない。
「実際、どれくらいの腕前なんだ? 裁縫とか」
「うむ、例えば戦闘中を想定して欲しい! 激しい戦闘をすると傷つくじゃろう?」
「ああ、なるほど。確かに衣服がほつれたり、破れたりすることはよくあるな」
 それを繕うというわけか。 
あくまで実践的なんだな。
だが、別に悪いというわけではない。
 しかし、
「ん? 衣服? はははは! そんなものは唾でもつけておけ! なのじゃ!」
「ええ」
 俺は思わず声が出た。
「じゃあ、何を繕うのですか、お姉様?」
 ラッカライが代わりに聞いてくれた。
「うむ、よくぞ聞いてくれた。例えば戦闘中に傷がついたとする。即効止血せねばなるまい! そこでブレスじゃ! 熱によって傷口を焼いてふさぐ! 究極の裁縫!」
「はい、失格」
「なぜじゃ!?」
「それが分かるようになるまで宿題としよう」
「先生のはずが宿題を出されたのじゃ!?」
 目を白黒させるドラゴン娘は放っておこう。
 すると、次に意外なことにラッカライが手を上げる。
 まぁ、彼女なら大丈夫だろう。
「どうした、ラッカライ。まぁ、お嬢様育ちのお前なら何でもいけそうだな」
「すみません、僕としては担当科目は、いま予定している一般教養ですとか、槍術なんかを教えられればいいと思っているんですけど……」
「思っているんですけど……? というと、他に何か科目を持ちたいのか」
「はい、あのできればツッコミが出来る人材を育てたいなと思うんですが」
 彼女の発言に、
「どうしてそんな奴がいるのじゃ?」
「ええ、さっぱり訳が分かりません」
 コレットとアリシアがぽかんとした表情で言った。
「常識人の儂がおるから大丈夫じゃろ?」
「そうですね、常識人の大聖女さんがいますから、変なことを言った人には、一撃必殺ツッコミをぶち込むことが出来ますよ~」
 どっちのツッコミも大地をえぐり、岩をも砕きそうだな。
「なるほど。ありがとう、ラッカライ。重要な指摘だったな」
 そうか。
 初めて気づいた。
 このパーティーには、ツッコミがいない。
 ラッカライと俺に全ての負担が来ていたのか!
「1000年後の未来にも、きっとツッコミ役は必須だろうからな」
「はい。ただ、そのアリアケ先生、大変申し上げにくいんですが……」
 ん? 
 なんだ?
 俺がキョトンとした表情で彼女を見る。
 彼女は申し訳なさそうに、
「一番向いていないのは、アリアケ先生なのですが」
 その言葉に、
「ははは! そんな訳ないだろう。やれやれ、冗談がうまくなったな、ラッカライ」
 彼女の成長を見た気分だ。
 そんな俺の哄笑に、彼女はなぜか優し気なまなざしを向けながら、
「うん。ですよね~」
 と、どこか遠い目をしたのだった。


終わり

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