SQEXノベル一周年記念SS

者パーティーを追放された俺だが、俺から巣立ってくれたようで嬉しい。……なので大聖女、お前に追って来られては困るのだが?

1番なのは運命です

さて、と。今日の料理はどうするかな」
冒険の途中、俺は本日の夕食について考え始めた。
俺が率いる賢者パーティーは、大聖女のアリシア、ドラゴン娘の末姫コレット、聖槍の使い手ラッカライ、聖獣フェンリルが基本メンバーになる。
気づけば俺以外全員が女子である。
かといって、ハーレム要素みたいなものは一切ない。
実際、俺にモーションをかけてくる女子と言えば、幼馴染であり、先日将来を誓い合ったアリシアくらいのものだ。
「まぁ俺としては、一人の女性にモテればそれで十分すぎるが」
「聖女さん朴念仁退治チョーップ!」
びしいいいいいいいいいいい!
いきなり、俺の動体視力を超えて現れたアリシアが俺の後頭部に高速チョップをかました。
「いきなり何をするんだ、アリシア……」
「いえ、余りにも現状認識がずれすぎていて、朴念仁センサーがアラームを鳴らしたために参上したのです。いい加減、気づきませんか? ねえ、そろそろ気づいて良さそうでは? そして、正妻候補たる私がどれだけ苦労しているか、労わってもいいのではないでしょうか!?」
「労わればいいのか? よしよし」
意味は分からないが、要求は理解したので、頭を撫でてやる。
「くーんくーん。はぁ、アー君、好き。愛しています……っって、ごまかされませんよ!」
「思いっきりごまかされてるのじゃ、アリシア」
と、次にガサゴソと藪から現れたのはドラゴン娘のコレットであった。
「さすが旦那様なのじゃ。無意識のうちにハーレムを形成し、正妻をこれでもかというくらい、たらしこんでおるのじゃから……」
訳の分からないことをコレットが言っている。
まぁ、それはともかく、
「なんだなんだ、今日の料理が気になって現れたのか?」
「今、そんな話の流れじゃった? あと、わしってそんな腹ペコキャラでもないと思うのじゃけど!」
「それ以上言っても無駄ですよ。アリアケさんはいつもはなんか大賢者~! って感じで。『ふっ、俺にしてみればこれくらい大したことないんだよなぁ」とか言ってるくせに、普段は庶民派ぶりますからねえ」
「庶民派ぶるってなんだ。食事は大事なんだぞ」
「しかも、わりとアリアケさんのお料理っておいしいんですよね。私もアー君をおとすためにたくさん料理の腕を磨いたのに、もしかしてあんまりいらなかったかもしれない説、ありますからねえ」
「わしはブレスして焼肉しか作れんから助かる」
「ここはお嬢様教育を受けたラッカライさんにアリアケさんに挑んでもらうしかありませんね!」
ということで、ラッカライが呼ばれる。
「突然で混乱の極みですが、趣旨は分かりました。いえ、ボクの腕ではアリアケさんみたいな料理は出来ないと思いますよ」
「ええ! でもちゃんとした教育を受けてるのに」
「まぁ簡単なお料理は出来ますけど。でも、食材が揃わないんですよね。その辺の野草とか、狩ってきたモンスターでパパっと作る料理のレシピなんてものあるわけないので」
「そりゃそうなのじゃ。そんなレシピ教えられたら、そのお嬢様は冒険者になるしかないのじゃ」
「あれ……。じゃぁ、このパーティーで一番料理がうまいのって実はアリアケさんなんですか⁉」
「もしかしなくてもそうなのじゃ?」
「別に料理に一番も何もないだろう。愛情が一番だ」
俺は正論を言うが、
「一番だからこそ言える余裕ぶったむかつく発言をしていますよ! えーっと家事はどうだったですかね!?」
「旦那様の得意分野じゃったような」
「これはまずいですよ! まじで無意識のうちに何でも一番じゃないですか、私の旦那様は!」
と、そんなところへ、
「話は聞かせてもらったぞ。確かにまずいのう」
いつの間にか登場したフェンリルが倦怠感のある態度で言った。
「女子にはモテるし、それを驕りもせぬ。強いうえに、料理も家事も出来るとなると、これはもはやしょんべんくさいガキどもはすぐに主様に捨てられてしまうのではなかろうか」
「なんと!? あれだけの滝行とか山籠もりとか、いろいろ修行してやっとアリアケさんと結ばれようかとしているのに、もう捨てられてしまうんですか!?」
「アリシア、そなたは花嫁修業が入っとらんのはどういうわけか?」
フェンリルは呆れつつも、
「やはりここは、大人の魅力で包容力を持つ女性が主様には必要なのではないかのう?」
「「「ん?」」」
ん? という言葉が山中でハモった。
「というわけでどうかの、主様。ここは一つ、大人の女性を選んでみるというのは?」
「ふむ。そうだな。ややこしい話になりそうなので……。≪スピードアップ≫付与。だーっしゅ!」
とりあえず逃げることにした!
姦しさからは逃げるに限る。
しかし、
「まちなさーい!」
「逃がさんのじゃ、旦那様!」
「先生、ストーップですよ!!」
「我から逃げるとはどういう了見かえ?」
彼女たちも物凄いスピードで追いかけてくる。
うーむ、どうやら。
追いかけてくる女性たちへの逃げ足だけは、一番になれるかどうかは分からないようだ。
そんなことを思いながら、俺はますますスピードをあげるのだった。
そんなとあるよくある日常の一幕。

終わり

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