書き下ろしSS

能「村づくり」チートでお手軽スローライフ ~村ですが何か?~ 6

ルーク菩薩

「この神殿だけではない。そもそもこのような荒野に、たった数年でこれほどの都市を築いてしまうとは……これが救世主のお力でなければ、何だというのぢゃ。やはりルーク様は、この世界に顕現されたミローク菩薩に違いあるまい」
 お忍びで国を離れ、魔境の山脈の向こう側にある村へとやってきたキョウ国の統治者、メイセイ神王。
 実はまだ十代半ばほどの少女である彼女は、ルークの奇跡のような力を目の当たりにして、彼こそがミローク菩薩の顕現した姿だと確信していた。
 思わず涙を流して感動していると、
「あの、大丈夫?」
「っ! る、ルーク様!?」

 いきなりそのルーク本人に声を掛けられたため、思い切り焦ってしまった。
 どう対応して良いか分からず、そのまま逃げ出してしまう。
 全速力で走り続け、村の端の方まできたところで、ようやく足を止めた。
「や、やってしまったのぢゃっ! 絶対、変な女ぢゃと思われてしまった……っ! しかもあろうことか、ルーク様にっ! あああっ、どうすればよいのぢゃあああああっ!!」
 冷静になって先ほどの自分の行動を振り返ると、今度は絶望が襲ってきた。思わず頭を抱え、天に向かって叫ぶ。
 不幸中の幸いは、自国で彼を迎えた際には簾越しだったため、こちらの顔を知られていないことだろう。あの簾は、神王側からは来客を見ることができるが、来客側からは神王の姿が見えないように作られているのだ。
 なので、自分がメイセイ神王だとは気づいていないはず。
「こうなったら、絶対に隠し通さねば……」
 と、強く決意した、そのときである。
「そんなところで何してるの?」
「っ!?」
 不意に頭上から降ってきた声に、神王は戦慄した。顔を上げると、そこにいたのは先ほど村の神殿前で会ったルークだ。
「ルーク様っ!? ま、まさか、朕をここまで追ってきたっ!?」
「え? 僕はさっきからここにいるけど?」
「へ?」
「最近また村が手狭になってきちゃったからね。城壁を動かして、広げているんだ」
 次の瞬間、彼女の目の前で巨大な城壁がズズズズ……と外側に移動していった。
「本当に動いておる!? い、いや、それよりも……先ほど確かに、ルーク様と神殿の方でお会いしたはず……」
「たぶん、そっちは本体じゃないかな?」
「本体???」
「僕は影武者だから」
「影武者???」
「うん。だいたい常時、五十体くらいはいるかな?」
「五十体???」
 何を言っているのか、このときの神王には理解不能だった。
 だが後に部下たちに調査させたところ。どうやら本当に、ルーク本人と見た目がまったく同じで、自立行動ができる影武者があちこちにいるらしい。
「仏様は全宇宙に偏在される……すなわち、ありとあらゆる場所にいらっしゃるという……ルーク様も、まさしくそれと同じ……」
 改めて彼がミローク菩薩の化身であることを確信する。
「はっ? ということは、朕の行動など、すべてお見通しで……あああああああっ!?」
 自分の正体がバレていると勘違いし、絶叫するメイセイ神王だった。

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