書き下ろしSS

生したら最強種たちが住まう島でした。この島でスローライフを楽しみます 4

レイナの収納魔法にはなにがある? ④

 毎回思っていることだが、レイナの収納魔法の中には色々な物が入っている。
 それは家具だったり、扇風機だったり筋トレグッズだったり……。
 危険な孤島の探索には無縁な物も多く、何故かとてもバラエティ豊かだ。
「というわけで、そろそろ聞いてみようと思うんだ」
 俺がそう言った瞬間、ジュースを飲んでいた子どもたちが顔を上げる。
「だ、旦那様……正気か?」
「それを聞いたらおしまいだよー」
「おしまいだよー」
「いや、別に聞いたからってなにも起きないよ」
 適当なノリを見せるティルテュとルナ、そして真似をしたスノウに呆れながら、俺はソファで本を読んでいるレイナに近づいていく。 
 ――あれ?
 収納魔法になんであんな色々な物が入っているのかを聞くだけだ。
 ただそれだけのはずなのに、緊張してしまい心臓がバクバクとするのは何故だろうか……?
「アラタ、どうしたの?」
「あ、いや……隣、座ってもいい?」
「ええ」
 俺が座りやすいようにレイナは少し横にずれてくれる。
 そしてゆっくりとソファに座ると、身体がずっしりと沈み込んだ。
 このソファもレイナが持ってきた物だが、やはり普通に考えたら必要の無い物のように感じる。
「あの、さ……」
 ふと隣の彼女を見ると、少し長いまつげや美しい紅髪が目に入る。
 見慣れたいつも通りの彼女だが、妙に緊張してしまった。
「ねえ、なんでそんなに緊張してるのよ?」
「き、緊張なんてしてないよ!」
「……」
 そう言いながら、俺自身がそれを否定しているように焦った声が出た。
 レイナも俺の様子がおかしいからか、訝しげな目で見ている。
 ――大丈夫……ただなんで収納魔法の中に色んな物を入れてきたのかを聞くだけだから……。
「顔色が悪い」
「え?」
「ちゃんと寝てないんじゃないの⁉ アラタの身体が頑丈なのは知ってるけど、本当になにもならないとは限らないのよ!」
「あ、あの……レイナ?」
 突然おでこを当てて来て、これは熱を測ってる?
 いや、それより近い近い近い……!
 もう少ししたら唇同士が触れちゃうってレイナ気付いて!
「熱はない、と思うけど……休みなさい」
「いや、大丈夫。そういうのじゃないから……」
「なに、お昼からベッドで寝るのが嫌なの? でもソファだと身体が痛むわよ」
 まるで駄々っ子に言い聞かせるような態度。
 元々孤児院で育ってきた彼女は、多くの子どもたちの面倒を見てきたから、その流れで俺を見ているような気がする。
「そ、そうじゃなくて! ただ俺は……レイナの収納魔法になにが入ってるのかが気になっただけ!」
「……はい?」
 俺の言っている意味がわからないのだろう。
 当たり前だ。いきなりこんなことを言われても、前後の流れを知らないとわけがわからない言葉なのだから。
 そうして俺は、これまでの出来事を踏まえてレイナに説明をすると、レイナは納得した顔をする。
「……なるほど。なんでこんな危険な島に来るのに、趣味みたいな物まで入ってるのかってことね」
「うん」
「まあ、そうねぇ……」
 レイナは考えるような仕草。
 答えづらそうな雰囲気だけど、もしかして聞かない方が良かったかな?
「……前に話したと思うけど、私は王国から逃げる気で来たから」
「あ……」
 そういえば、たしかに彼女は王国の公爵に七天大魔導という地位だけでなく、女としても求められて逃げるために来たって言っていた。
 まいったな、思い出させるつもりはなかったんだけど、レイナの顔が若干暗くなってしまった。
「だから戻るつもりもなかったし、身の回りの物は出来る限り持ってきたのよ」
「そういう理由だったんだ」
「ええ。必要の無いものは最悪捨てれば良いと思ってたし……だけど……」
 レイナは扉の外からこちらの様子をうかがっているティルテュたちを見る。
 先ほどの表情とは打って変わって、ずいぶんと優しそうだ。
「私にとって必要の無いものでも、あの子たちが喜ぶものとかもあるかもしれないから、捨てるのは止(や)めね」
 レイナはテーブルの上に玩具や小さなオルゴール、ただの観賞用の綺麗な置物など、様々な物を置いていく。
 そして扉の外にいるお子様たちを見て、こっちに来るように手招き。
 ティルテュとルナ、そしてスノウが嬉しそうに近づいてくる。
「「「おおおー」」」
 それぞれ欲しいものを手に入れて、興奮しながら使い始めた。
 どうやら欲しいものが被ったみたいだが、それはお互い順番に使うことを決めたようだ。
 ここで取り合いなんかの喧嘩とかをしないところが、この子たちらしい。
「捨てないで、良かったね」
「ええ」
 そんな風に俺とレイナは二人並んで、子どもたちを見守るのであった。

TOPへ