書き下ろしSS

生幼女は前世で助けた精霊たちに懐かれる 1

ルリアと精霊とダーウ

 二歳のダーウは忙しかった。
「だーう、あさ! おきて!」
「……わふ、ぁぁぁぁああぅ」
 ルリアに起こされ、大きく伸びをする。
 それから、ルリアと一緒に食堂に行き、朝ご飯を沢山食べるのだ。
「もう、たべたでしょ! でぶるよ!」
「きゅーん」
 自分の分を食べ終わった後、ダーウはすかさずルリアのひざの上にあごを乗せにいく。
 たまにご飯を分けて貰えることもあるし、ルリアはよくご飯をこぼす。
 ルリアがこぼしたご飯を掃除するのも、ダーウの大切な仕事だ。
 朝食が終わると、ダーウはいつも大公爵家の従者に連れられ散歩に行く。
 たっぷり一、二時間は走り回り、帰宅してからはルリアと遊ぶのだ。
 ルリアと遊んでいると、お昼ご飯の時間になる。もちろん、ダーウは沢山食べる。
「だーう、たべたでしょ!」
「きゅーん」
 ダーウは毎食、早食いをして、ルリアのひざにあごを乗せにいくのだ。
 昼食が終わると、ダーウはルリアと遊ぶ。
「だーう! そうこにいく!」
「ばうばう!」
 ルリアがどこかに行きたいと言ったら、ルリアを背中に乗せて走っていく。
「だーう、あれとって!」
「ばうばう!」
 ルリアが欲しいものがあると言ったら、走って取りにいく。
 それがダーウは楽しくて仕方がなかった。
 楽しく遊んでいるとまた散歩の時間だ。朝と同じく、たっぷり一、二時間は走り回る。
 たまに大公爵家の馬に遊んでもらったりもする。
 それからルリアと一緒に夕ご飯を大量に食べて、ルリアが眠るときに一緒に寝る。
 これがルリアの把握するダーウの一日のスケジュールだ。

 さて、子犬の睡眠時間は一般的に十八時間を超えるという。
 二歳のルリアも、大人に比べたら睡眠時間が長いとはいえ、十二時間程度。
 ルリアと同じ時間に就寝したとしても、六時間も足りない。
 だが、ダーウは子犬ではない。子狼。それも特別な狼であるフェンリルの赤ちゃんだ。
 成長したフェンリルは、強力な竜種と同じく一か月寝なくても平気だという。
 赤ちゃんのダーウも、成狼フェンリルほどではないものの、あまり寝なくて大丈夫だった。
 ダーウの問題は、睡眠時間より有り余るエネルギーだ。
 もっと小さい頃は、有り余るエネルギーを持て余し、屋敷で大暴れしていた。
 困ったルリアの母アマーリアが、ダーウの散歩を一日二回に決めたのもその頃だ。
 散歩のおかげで、大分ましになったとはいえ、ダーウには運動量がまだ足りなかった。

 だから、ルリアがお風呂に入っている間、ダーウは屋敷の外を走る。
 もちろん、ルリアが悪い奴に襲われたら困るので、風呂の外、すぐ近くをぐるぐる回る。
「わふっわふ、わふ」
『ダーウあそぼー』『あそぼあそぼ』『おいかけっこしよ』
 ダーウが運動を始めると、ルリアと離れるのを見計らって、精霊達が現われる。
「わふ~」
 精霊達は、事情があってルリアと話せないし、話しているところを見られてもいけない。
 だから、ルリアが入浴中、ダーウと遊びに来るのである。
『ダーウ、任せるのだ。ルリア様の様子は精霊たちが見張っておくのだ』
 そう言ったのは黒猫の姿の精霊王だ。
 ダーウはいつもルリアを心配しているため、気になって思いっきり体を動かせない。
 だから、精霊たちがルリアに危険が無いように風呂の様子を見張ってくれるのである。
 精霊達も、ダーウの運動不足を懸念していたのだ。
「わぁぅ」
『こっちこっち!』『つかまえてー』『きゃっきゃ』
 精霊達は高速で飛び回り、それをダーウは高速で走って追いかける。
 高く跳んだり跳ねたりしながら、激しく動く。
 ルリアがお風呂に入っている三十分間、ほぼ休まずに動き続けるのだ。
 かなり激しい運動だ。並の狼や犬ならば、五分も持つまい。
 だが、ダーウは赤ちゃんとはいえ、フェンリルなので平気だった。
 そもそも、ただの犬ならば、夕食後に激しい運動はすべきではない。
 朝の散歩もそうだ。食事の後、数時間は散歩すべきではないのだ。
 食べ過ぎも早食いも犬にとって良いことではない。
 胃捻転という命に関わる病気になりかねない。
 だが、ダーウはフェンリルなので平気だった。

『あ、ルリア様がお風呂からあがるのだ』
「わふう!」
 たっぷり遊んだ後、ダーウは精霊達と別れて風呂場に行く。
 そして脱衣所の入り口の外で「三十分お座りしてました」という顔でルリアを出迎えるのだ。

 だが、ダーウと精霊達の遊びを見ている者がいた。
「ダーウは……なにをしているんだ?」
 ルリアの父グラーフである。
 精霊が見えないグラーフにはダーウが一頭で暴れているようにしか見えなかった。
「……ストレスがたまっているのかもしれないな」
 心配したグラーフの指示によって、次の日のダーウの食事が豪華になった。
 そして、散歩の距離が少し伸びた。

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