書き下ろしSS

者パーティーを追放された俺だが、俺から巣立ってくれたようで嬉しい。……なので大聖女、お前に追って来られては困るのだが? 6

フェンリルでも恋がしたい

「ふと我は思うのだがのう、主様。金よりも白。人よりも狼。そんな風に思ったりすることはないかえ?」
「フェンリルよ。俺がどんな問いかけに対しても即答できる超人だと勘違いしていないか? なんなんだその質問は?」
「まさか答えられぬとはの。これは意外であったぞえ」
「その反応こそ、まさかなんだがなぁ」
 我と主様は互いに嘆息する。
 そんな主様の姿も倦怠感がまみれており、我はとても好ましく思っておるのだがな。
「つまりよ、主様。簡単なことよ。幼馴染属性は確かに強力かもしれんが、我との絆もほれ、それなりに強いというもの。ここは一つ、金髪というこだわりを一度かなぐり捨ててみてはどうかと思うのだがの?」
「フェンリル。色々ツッコミたいところは山ほどあるんだが、まずもって解せんのは、俺が単にアリシアを金髪だから選んだと勘違いしている部分を訂正したいんだが?」
「なんと! 違うのかえ⁉ では、そなたはどのような理由から我がもう一人の主たるアリシアを選んだというのか⁉」
「その疑問を抱く時点で、本当に主と仰いでいるのか疑問の余地しかないんだよなぁ」
 なぜか主様はもう一度深い嘆息をされる。
「まぁ性格とか笑顔が素敵だとか色々あるだろう?」
 そのようなご回答をされた。
「なんと、主様。それをもしもう一人の主であるところのアリシアにしておれば、もう数年早く結婚していたことは明白であるぞえ? どうして、そういうセリフを我の前で言えて、本人の前では一切出てこないのか? 我にはそれが疑問であるな」
「似たようなことを周囲の女性から幾度となく言われているのだが、俺には全く自覚がないんだ……。何かの呪いだろうか?」
「ただの朴念仁であろうなぁ」
 我は遠い目をする。
「とりわけ笑顔が素敵だと思っていたのかえ? それ一言でもアリシアに言ったことがあったのか疑問なのだがのう?」
「いや、言ったことはあるだろう? うん、あるはずだ。いや、無いわけがない。あー、うーん、ある可能性を否定しきることは出来ないんじゃないか?」
「裁判での弁明みたいであるなあ。かなりの重罪を予感させる弁明であるぞえ」
「ともかく、別に金髪だから惹かれて結婚したわけではない」
「なるほど。つまり我の髪の色が絹のように白色なのは特に減点対象ではないということよなあ」
「今の話の流れだけで行けば、髪の色は関係なく、その人物の人格で判断しているとはっきりと主張していたと思うんだが……?」
 我は無視して話を続ける。
「我の場合はこうやって狼耳も付いて来るのだが、どうかのう? 艶々の髪の毛を撫でながらも、この魅力的な狼耳も撫でることが出来るのであるぞ? これははっきりとアリシアにはない利点であると言えような」
「その利点でお前は、自分の主をどうしようとしているのかを問い詰めたい」
「まあまあ。そこはもう後で考えようという風に、ちゃんと考えておるから大丈夫であるぞえ。とにもかくにも我のハートは止まらん感じなのでな」
「なーんにも考えずに、とりあえずアリシアを出し抜こうとしていますと宣言してるだけにか聞こえんのだが……?」
「ふむ。朴念仁の癖に勘が鋭い上になかなか律儀な男よ。厄介であるな!」
「せめて本音は隠さんか」
 呆れた調子で主様が言った。
 と、そんなタイミングで我はタイムアウトを悟る。
「おっと、そろそろ聖獣の姿に戻って野山を駆けまわる時間であるな」
「いきなりだな。一体どうし……」
 主様が疑問を口にするのと同時に、
 ドゴオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオン‼
 パラ……パラ……パラ…………。
 大地に深いクレータが穿たれ、舞い散った土石が空から降ってきた。
「やれやれ、せっかく旅館『あんみつ』で風呂に浸かったところだというのに」
「わはははは! 許せよ主様。そしてアリシアよ! 我の主であるならば寛容さを学ぶのが良いぞえ‼」
 そう言いながら、いつの間にか美しい聖獣の姿となったフェンリルは、いつの間にか手の届かぬ遠くまで退避している。
 と、同時に。
「どーの口が言いますか! これは私のだと何度言ったら分かるんですか! この泥棒猫‼」
「猫でなく狼であるぞえ! それに主様は共有財産であるゆえな! 最近はそなただけ独占してズルいとみんな言っておるぞえ」
「あなたは完全に私を蹴落とそうとしてるでしょうがー!」
「ぬははは! ちょっとした冗談だと言うのに! 我も混ぜて欲しいだけであるぞえ!」
 ただ。とはいえ。
無論、少し主たるアリシアをからかう稚気を出してはしまったが。
我が本当に主様を心からお慕いしていることは本当ゆえな。
どうしても時々、こうして主様に構って欲しくなるのよ。
すまなぬなぁ、アリシアよ。
でも正直面白くもあるな。ぬふふ。
(終)

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