書き下ろしSS

者パーティーを追放された俺だが、俺から巣立ってくれたようで嬉しい。……なので大聖女、お前に追って来られては困るのだが? 7(完)

賢者パーティー最強は誰?

「分からぬ! 分からぬのじゃ! ぬおおおおん!」
 冒険者の集まるとある酒場でわしは懊悩しておった。
「うむうむ、コレットや。その気持ちはこのフェンリル、痛いほどよく分かるぞえ? 結句のところ、主様はどのような女子が好みなのであろうなぁ?」
 フェンリルの言葉にローレライが頷くのじゃ。
「おっしゃる通りです。その公式を解けさえすれば、みんな幸せになることが出来るのに」
「お主は明らかに下克上を狙っているようにしか聞こえぬのじゃが……。みんなが幸せになる方法としては、ドラゴン的にもどうかなーと思うのじゃけど」
「おっと、アリシア様にはご内密に」
「ああ、もう。とにかくそうじゃないのじゃ。わしが分からんと言っておるのは、この賢者パーティーで結局誰が一番『強い』のじゃろう? ということなのじゃよ」
 わしは頭を抱える。
「旦那様に聞かれたのじゃ。しかし、考えれば考える程、分からなくなってきたのじゃ~」
「腹黒さではローレライではないかえ? ふふふ」
「いえいえ、私などはフェンリル様の後塵を拝する身ですから。ふっふっふっ」
「腹黒さナンバーワン決定戦は同率一位でいいのじゃ。わしの言っているのは、純粋な力。戦闘面でのパワーといったところなのじゃ」
 そんな話をしているところに、別件を済ませた他のメンバーも集まって来た。
 旦那様とアリシア、ラッカライにセラ。そしてバシュータ。
 魔王リスキスとブリギッテもおる。

「やっぱり旦那様が最強でいいのじゃ?」
「俺はどちらかと言えば一番弱いからな。補助スキルしか基本使えないし。誰かの力や武器の力を借りて戦ったりすることはあるが、純粋な強さではない」
「ああ、俺も同じですな。あくまでポーターですし」
 旦那様とバシュータは口をそろえて否定した。
「うーむ、ではここはアリシアが一番強いということでいいのじゃ!」
「いやぁ、どうですかねえ。例えば私の拳は基本、ラッカライちゃんには届きませんからねえ。結界魔法を駆使しても五分くらいではないでしょうか?」
「おお、だとするとラッカライが最強ということなのじゃ⁉」
 わしの声にラッカライが首を横にブンブンと振った。
「滅相もないですよ! そりゃまぁ、先生を守るために日々鍛錬をしていますから、防御には自信があります。でも、逆に僕の攻撃をお姉様がたに当てて、なおかつ有効打になるようなイメージは皆無ですよ~」
「でもラッカライっちは、次元とか切り裂くのじゃ。ブシャーって! あれで誰でも一刀両断だと魔王は思うのだ?」
 その言葉に対して、ブリギッテが口をはさんだ。
「ところがそうでもないんですね。次元というのは、演劇の舞台みたいなものなんですよね。何層にもわたって舞台が整えられているのがこの世界なので、それを切り裂いても、舞台の一部が破壊されるだけで演者には影響はないんです」
「でも、いつもブリューナクで敵をバッタバッタなぎ倒してるのだ!」
「あれは純粋な槍術ですね。もちろん、次元を切断する際に相手ごと倒す方法もありますが、あれは舞台の破壊に偶々巻き込むような技で、間接的な技にあたると思います。多分、槍で直接殴った方がラッカライさんの場合は強いですよ」
「でも攻撃面で言うと、やっぱり僕はお姉様には見劣りすると思いますね。あっ、それじゃあ、万能の風魔法を使用するセラ姫様はいかがですか?」
「いえいえ、私なんて冒険に一緒に連れて行ってもらえるだけで嬉しいというか。風で足音を消したりする斥候が向いてますから。戦闘面は見劣りすると思います。それに何より、アリアケ様のご雄姿をフィギュア化するインスピレーションを得るために必死ですから!」
 堂々と胸を張って、エルフの姫たるセラは宣言した。
「そっち方面では最強なのじゃがなぁ。あ、次の作品の予約開始はいつなのじゃ?」
「ふふふ、もうすぐですよ~」
「楽しみなのじゃ!」
「我も予約するゆえ、ゆめ忘れるように頼むぞえ?」
「分かっております~。あっ、そう言えばブリギッテ様をお忘れではないでしょうか? 素手頃最強とのお噂ですが?」
「聖女としてどうかと思いますが、アリシアさんと互角くらいですから最強ではないかと」
「ですね~。そして、私は多分コレットちゃんには勝てませんから、最強はコレットちゃんじゃないでしょうか?」
 お鉢が戻ってきたのじゃ。
 ここで、
「うむ! わしが最強なのじゃ~!」
 と言えれば楽なのじゃが。
「話が戻るがラッカライに攻撃が当たらんのじゃ。それから、フェンリルとやりあっても最終的に勝てるような気がせんのじゃ」
「神竜の末姫の感覚は予言に近いから、実際そうなんだろうな」
 じゃとすると……。
「最強を決めることなんて出来ないのじゃ、旦那様! ぬおおおおおん!」
 最初と同様にうめき声を上げた。
 だが、旦那様やアリシアはそんなわしの様子を見て微笑んで言った。
「なっ、いいパーティーだろう、アリシア?」
「ええ、そうですね。理想的なパーティーです。コレットちゃんが保証してくれるんですから、間違いありません!」
 二人して頷き合う。
 どういうことなのじゃ?
「俺の目指したパーティーは誰か一人の力が傑出しているものじゃない。攻撃に秀でた者、防御に秀でた者、回復やアイテムの管理、斥候が出来る者。優秀なポーター。様々な才能が集まって、一つのパーティーとして最強であるメンバーにしたかったんだ」
 そして、
「コレットやみんながお互いの長所や短所を言ってくれた通り、最強の存在はいない。だが、その短所は必ず誰かが埋めてくれているだろう」
「本当なのじゃ!」
 旦那様は謎が解けたわしの目を見て微笑みながら言った。
「賢者パーティーは最強のパーティーであることを証明してくれた。俺はそう思っていたが、違う人間の評価も聞きたかったんだ。だからコレットに質問をしたわけさ」
 旦那様は明言した。
「このパーティーなら、きっとどんな強大な敵も、いつの時代の、どんな場所であろうとも、きっと負けることはないだろうさ」
 その言葉はまるで予言のようじゃと。
 ゲシュペント・ドラゴンの末姫であるわしには聞こえたのじゃった。


終わり

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