書き下ろしSS

ンジョン・ファーム ~家を追い出されたので、ダンジョンに農場をつくって暮らそうと思います~ 3

恋愛マスター(?)・マルティナ

 この日の農作業を終え、目の前にあるツリーハウスへと帰宅。
 すると、リビングで浮かない顔をしているシャーロットの姿が。そういえば、今日は学園に行ってきたらしいけど……そこで何かあったのかな?
 一緒に帰ってきたハノンやシモーネも一緒にシャーロットへ声をかけてみた。
「どうかしたのか、シャーロット。元気がないみたいだけど」
「あぁ……ベイルさん」
 力なくこちらへと振り返るシャーロット。
 どうやら、これは只事じゃなさそうだ。
 ちょうどその時、ダンジョン探索からマルティナとキアラが戻ってきたため、夕食の準備を進めつつ事情を聞くことに。
 それによると、やはり学園で何かあったようだ。
「実は、仲の良い学友から相談されまして」
「相談?」
 学園生徒からの相談……教師ではなく友だちのシャーロットに持ちかけたとなると、ひょっとしてイジメについてとか?
 これは聞く方の俺たちも真剣に対応しなければ。
 気合を入れ直し、シャーロットから相談された内容を聞いてみる。
「実はその子、最近になって好きな子ができたみたいで」
「……うん?」
 あれ?
 俺の思っていた方向性と違うみたい?
 というか、それってつまり――
「恋バナね!」
 俺より先にキアラが食いついた。
 年頃の女子だし、こういう話に関心があるのは理解できるけど……マルティナとハノンとシモーネが完全に置き去りとなっている。
「ベイルよ。恋バナとはなんじゃ?」
「あぁ……なんと説明してよいやら」
「ジャンルはこの際どうでもいいですわ。問題はその子がどうやってその男性とお近づきになるのか、その方法を探しているんですの」
「普通に声をかけるんじゃダメなんですか?」
 キョトンとした顔で尋ねるシモーネに対し、キアラとシャーロットは項垂れながら答える。
「それができたら苦労はしないのよ、シモーネ」
「そうですわ。話したくても話せない、このもどかしい気持ちを抱きながらそれでもどうにかしてその御方と仲良くなりたいという願い……なんと切ない!」
「よく分からん世界じゃのぅ」
 盛り上がるキアラ&シャーロットの学園組とそれ以外では凄まじい温度差が生じていた。まあ、正直、前世でその手の話題に縁のなかった俺もよく分かってはいないのだが。
「男性のベイルさんにお聞きしたいのですが、女性からのどんなアプローチで心が揺らぎますの?」
「えっ!?」
 いきなりとんでもない質問をぶつけられた。
 ……なんか、キアラとマルティナの視線が鋭さを増しているような気がするけれど、ここは素直に答えておいた方がよさそうだ。
「お、俺は特にそういうのは……強いて言うなら、優しいところ、とか?」
「無難ですわね」
 いろいろ配慮した結果、あまりにもありきたりな回答になってしまい、シャーロットからバッサリと斬り捨てられる。
 すると、それまで静観していたマルティナがゆっくりと口を開いた。
「でも、変に取り繕ったりする必要はないんじゃないですか?」
「どういう意味よ、マルティナ」
「自分を偽っていても、それはいつか相手にバレてしまうでしょうし……自分らしく接するのが一番よいのではないか、と」
「なるほど……一理ありますわね」
 何やらマルティナの言葉が学園女子組に刺さったようで感銘を受けているっぽいな。
 でも、俺もマルティナの意見に近い。
 多少の変化はあっても、やっぱり最終的には素の自分で勝負した方が後々のことを考えるといいんじゃないかな。
 結局、その日はマルティナの意見を伝えようという流れになって終了し、みんなで夕食の準備を開始した。
 
 
 数日後。
 マルティナの意見を参考にした女子生徒はありのままの自分で男子生徒に接触を試み、これが大成功。ふたりは晴れて恋人同士になれたと報告を受けた。
 これかきっかけとなり、学園では「ダンジョン農場に恋愛マスターがいる」という噂が立ったらしく、マルティナへの恋愛相談が後を絶たなかったそうな。
 最終的にスラフィンさんが間に立って大騒ぎにまで発展しなかったそうだが……恋する乙女は強いなぁと改めて感じさせられるのだった。

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