書き下ろしSS

ンジョン・ファーム ~家を追い出されたので、ダンジョンに農場をつくって暮らそうと思います~ 4

アイリアとクラウディア

 その日、俺は奇妙な光景を目撃した。
 いつものようにライマル商会へ野菜を届けた後、農場へ立ち寄る前に一度ツリーハウスへと戻ってきた。
 クラウディアさんやウッドマンたちがいるはずなので「ただいま」と言って中へと入ると、そこには異様な光景が広がっていた。
「「…………」」
 無言のまま対峙するふたりの人物。
 ひとりはアイリア。
 もうひとりはクラウディアさん。
 なんとも珍しい組み合わせだな。
 というか、両者の間に流れているこのピリピリとした空気は何なんだ?
 別に仲が悪いって感じじゃなかったのに、漂ってくるのは宿敵を前にした者同士って雰囲気だ。
 考えられる原因としてはアイリアが夕食をつまみ食いし、それがあまりにもおいしかったからついつい全員分たいらげてしまったから、とか?
 ……いや、さすがにそこまでいやしくはないか。
「あっ! ベイル! 助けて!」
 俺が入ってきたことに気づいたアイリアは猛ダッシュで俺の背後に身を隠す。それを狩人のような鋭い眼光で追いかけてきたクラウディアさん――怖すぎる!
「ス、ストップ! 一体何があったんですか、クラウディアさん!」
 いつも冷静な彼女らしくない猪突猛進ぶり。ただならぬ気配に困惑しつつも、なぜこのような状況になったのか説明を求めた。すると、そこでクラウディアさんはハッと我に返ったようですぐに謝罪の言葉を述べる。
「も、申し訳ありません。取り乱しました」
「珍しいですね。何があったんです?」
「すべてはアイリアさんが元凶です」
 やはりか。
 あのクラウディアさんの平常心を乱すなんて、よほど凄いことをやらかしたんだろうな。
「私がお洗濯を終えて一階に戻ってくると、そこに彼女がいたのですが……シャーロット様の服を着ていたんです」
「なるほど。――うん? それだけ?」
「それだけですが、何か?」
 いや、それだけでなんであんなに平常心を乱すんだよ。
 アイリアだって女の子なんだから、ファッションが気になるのは当然だ。ましてやこのダンジョン農場で暮らしている女の子の中で一番その手の話題に長けているシャーロットの服となれば袖を通してみたくなる気持ちになっておかしくはないと俺は思う。
 ――待てよ。
 じゃあ、今のアイリアの格好は……シャーロットの服装?
 確認のため振り返ってみると、確かにアイリアは普段なら「動きにくい」とか言って着なさそうなフリフリのドレスっぽい服を着用している。
 あぁ……これは平常心を乱されるわ。
「た、確かに本人の了承を得ずに着ちゃったのは悪かったけどさ……何もそんな怖い顔で迫らなくても」
「私は怒っているわけではありませんよ」
「えっ? じゃ、じゃあ、どうしてあんな顔を?」
「あなたにもっと可愛らしい服を着てもらいたいだけです」
「なっ!?」
「賛成だ。他のみんなも集めて議論を交わそう。アイリアにもっとも似合う服はなんなのかを、ね」
「ベイルまで何を言っているの!?」
 その後、本人は若干抵抗したものの、まんざらではなかったようなのでクラウディアさんの持ってきた服を次々と着ていく。
 やがてマルティナやキアラたちも帰ってきて、その日はアイリアの単独ファッションショーで大いに盛り上がったのだった。

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