書き下ろしSS
誤解された『身代わりの魔女』は、国王から最初の恋と最後の恋を捧げられる 4
【挿話】クリスタとギルベルトの秘密会議
その日、クリスタの私室で秘密会議が行われた。
メンバーはクリスタ王妹とギルベルト宰相の二人きり。
国のトップといえる二人が集まって、一体何を話し合ったかというと……。
「は? ク、クリスタ殿下、い、今、何と言われました?」
ギルベルト宰相は持っていた紅茶のカップをテーブルの上に置くと、素っ頓狂な声を上げた。
言われた意味が理解できないとばかりに聞き返すギルベルトを見て、クリスタはふふんと馬鹿にしたように唇を歪める。
「だから、お義姉様が母国に帰ってしまうかもしれないと言っているのよ! 他ならぬお兄様自身が、『目覚めたことと妊娠の報告を兼ねて、母国を訪ねるのはどうだろう』とお義姉様に提案したんですからね」
「何ですって!? まさか聡明なるフェリクス王が、そのようなことを言われるはずは……えっ、本当に王が提案したんですか?」
半信半疑な様子でもう一度確認を取るギルベルトに、クリスタはここぞとばかりに言い募った。
「お義姉様自身の口から聞いたから間違いないわ! ほら、お兄様はお義姉様にいい格好をしようとするところがあるじゃない。その悪い癖が出て、物分かりがいい態度を見せたみたいよ。お兄様は一時的な訪問のつもりみたいだけど、そう上手くいくものかしら。お義姉様に里心が付いて、ディアブロ王国に留まると言い出したらどうするつもりかしら」
顔をしかめるクリスタに対し、ギルベルトは何事かを悟った様子でぶるぶると全身を震わせる。
「あああ、クリスタ殿下から『重大な話がある』と言われた時は何事だろうと思いましたが、これは本当に重大事案ですね! 私たちは王妃陛下を失おうとしているじゃないですか!!」
ギルベルトは髪をかきむしると、ぎりりと唇を噛み締めた。
「王が王妃陛下にいい格好をしている、との意見はその通りです! それだけでなく、王は何があっても自分だけは王妃陛下の側にいようとしています! もしも王妃陛下に里心が付いて母国に留まられる場合、フェリクス王も一緒にディアブロ王国に留まられるでしょう!!」
「えっ、まさか! 一国の国王が他国に留まれるわけがないでしょう」
驚愕するクリスタに、ギルベルトはぎらりとした視線を向ける。
「常識的に考えればその通りですが、王妃陛下のために無理を通すのがフェリクス王です! では、逆にお尋ねしますが、クリスタ殿下はフェリクス王が王妃陛下と離れる姿を想像できますか!?」
「……できないわね」
クリスタは苦虫を噛み潰したような顔で答えた。
そんなクリスタに対して、ギルベルトは腹立たし気にどんとテーブルを叩く。
「こと王妃陛下に関する場合、フェリクス王に理性的な行動はこれっぽっちも望めません! いつだって王妃陛下の希望を優先するに決まっているからです! 我々にできることは、地道にこの国のよさを王妃陛下に伝え続け、この国に戻ってきてもらうことだけです」
「ギルベルトにしてはまともな意見ね」
クリスタはさり気なくギルベルトをこき下ろしたが、宰相は気にする様子もなく頷いた。
「はい、王妃陛下のおかげで、少しはまともな人間になれましたから」
クリスタは宰相に向かってにやりと微笑む。
「自分でそんなことを言うあたり、まだまだみたいね。じゃあ、私はハーラルトに協力を仰ぐから、ギルベルトはビアージョに協力を依頼してちょうだい。それぞれやれることをやるわよ!」
「承りました!!」
そうして、王妹と宰相の秘密会議は終了したのだった。
翌日から、多くの人がルピアのもとを訪れ、彼女がモテモテになるのは自明の理である。