書き下ろしSS

人好し冒険者、転生少女を拾いました 大賢者の加護付き少女とのんびり幸せに暮らします 2

ククルの魔術 ②

 神様に転生させてもらい、『大賢者の加護』という転生特典を与えられたククルであったが、自分の力を無闇矢鱈に使おうとは思ってはいなかった。
 そんなことよりも、自分のことを見つけてくれ、温かい気持ちにしてくれる父と一緒に毎日楽しく生きられればそれでいいと思う。
 とはいえ、彼女も転生前は女子高生。しかもネット小説にどっぷり嵌まっていた人間だ。
 妄想に生きた彼女にとって、ファンタジーや魔術というのはあまりにも魅力的なワードである。
 同時に、『大賢者の加護』がとても強大な力を持っていて、この世界の常識すら一変させかねない力であることもよく理解していた。
 だからこそ彼女は練習を欠かさない。力が暴走して大変なことになってしまわないように。
 そして……。
 ――いっぱい練習して、お父さんに褒めてもらうんだ!
 そんな幼子のような欲を満たすために。

 前回ククルは反省した。やはり魔術を使うに当たり、自分の力の使い方をしっかりと学ばなければならないと大変なことになる。
 とはいえ、残念ながらこの国には魔術に長けた者はほとんどいない。さらに言うと、自分の力のことを知られるわけにもいかない。
なので今日も今日とて一人河原で練習をしていた……のだが。
「じー……」
 森の方から自分をじっと見てくる小さな影。小さな、といってもククルよりは一回り大きな少女であるが、それでもまだ子どもである。
 そんな視線の主、ワカ村の少女リリーナは友達のククルと遊ぼうと思って森までやってきた。しかしククルが真剣な顔で魔術の練習をしているものだから、これは邪魔をしてはいけないと思い、見守っていたのである。
 ――私って気の利かせられるいい女だなぁ。
 これが大人の優しさだ。いつもは遠慮なく抱きつくが、これくらいの配慮は出来るのだ、とリリーナは自分のことを自分で褒めた。
 しかしである。元来人見知りであるククルからすると、森の木の陰からジーッと見つめられるのはちょっと怖い。
 ――な、なんであんなところから見てくるんだろ……。
 二人の思いはすれ違う。
 リリーナはククルが魔術を使えることを知っているが、それがどれくらい異常な力なのかまでは理解できていないだろう。
 いちおうワカ村ではククルの力には詮索しない、という暗黙の了解はあるが、だからと無意味に力をさらけ出す気にはなれなかった。
 そうなると当然、当たり障りのない魔術の練習しか出来なくなり、今も河原の石を火球で打ち抜く、といったことばかりしていた。
 ――も、もしかして一緒に遊びたいのかな……?
 リリーナはまだ子どもだ。そして彼女は先祖返りをしていて、獣人と同じように獣耳が生えている。こうして森の中にいると、野性に返ってしまっているのではないかと思った。
「獣人、かぁ……」
 元ネット小説オタクであるククルは当然、獣耳も大好きだ。ピコピコ動く姿は愛らしいし、実際に触ってみるともふもふである。
 尻尾も良い。やはりもふもふである。
 リリーナの場合まだ子どもだから、余計に子猫みたいな愛嬌があって可愛かった。
「そういえば、お父さんもリリーナの耳は可愛いって言ってたっけ……」
 敬愛する父の言葉は、ククルにとって絶対である。
 そして彼女を突き動かす欲の大部分は、父に褒められたい、である。
 だからこそ……。
「よし!」
 ククルは急ぎ足で森に進む。
 そしてこちらを見ているリリーナを捕まえた。
「わっ⁉ ククル! 急にどうしたの⁉」
「リリーナ、ちょっと耳と尻尾触らせて!」
「いいけど……その代わりほっぺた突かせて!」
「む……後でなら」
「やったー! はい、じゃあいいよ!」
 そうして許可を得たククルは、リリーナの耳をもふもふもふ……。
 次に尻尾を触れながら、じっくり見る。
 ククルの顔は真剣そのもので、まるで研究者だ。
 そして……。
「出来た!」
「おおおおおおー!」
 ククルの頭には、立派な銀色の獣耳。そしてスカートの奥からは尻尾が伸びている。
 リリーナの物を参考に、魔術で作り出したものだ。
「なにこれなにこれなにこれー! かぁわぁいぃぃぃ!」
「っ――⁉」
 瞳を輝かせて、全力で抱きつこうとするリリーナ。
 それをククルは回避し、警戒したように見る。
「なんで⁉」
「最初は、お父さんがいい……」
 そう言うと、リリーナはニマァ、と笑う。
「それなら仕方ないね! じゃあ一緒に、シリウスさんのところに行こ!」
「うん!」
 二人は手を繋ぎ、そしてワカ村まで駆けだして行く。
 その姿はどこからどう見ても、仲の良い姉妹そのものだった。

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