書き下ろしSS
社畜剣聖、配信者になる 〜ブラックギルド会社員、うっかり会社用回線でS級モンスターを相手に無双するところを全国配信してしまう〜 1
〇〇使用禁止でダンジョン潜ってみた
ダンジョン。
それは現代世界に現れた、謎の建築物。
ダンジョンの中には強力なモンスターや、貴重な素材がある。特殊な力に目覚めた覚醒者たちはダンジョンを探索する探索者となり、それぞれの欲望のため命をかけてダンジョンに潜っている。
そんな探索者たちの中には、探索の様子を動画配信サイトDチューブで配信している『Dチューバー』もいる。
俺、元社畜の田中誠も今はそのDチューバーの一人であり、今日もドローンと共にダンジョンを潜っている。
「みなさんこんにちは、田中誠です。今日もよろしくお願いいたします」
"待ってた"
"来たあああああ!"
"生きがい"
"お前を待ってたんだよ!"
"シャチケン大好き! "
配信を開始すると、コメントが一斉に流れる。
ちなみにシャチケンというのは俺のことだ。社畜剣聖を略してシャチケン。この名前で呼ばれることが最近は多い。
「応援のお言葉、ありがとうございます。今日もダンジョン探索をするのですが、いつもとは少し趣向を変えようと思っています」
そう言って俺は画面外からとある物を持ってくる。
"ん?"
"なにしてんだ?"
"なんか持ってきて草"
"これ、ルーレット?"
"ダーツでもすんのか?"
俺が持ってきたのは、バラエティとかでよく使われる大きなルーレットだった。ルーレットには文字がいくつも書かれている。
「今からダーツを投げて、当たった場所に書かれた命令を守りながら探索をします。例えば『アイマスク着用』『逆立ちしながら』『後ろ歩きのみ』などですね」
"は!?"
"いや草"
"縛りプレイやんけ!"
"そんな配信見たことねえww"
"命知らず過ぎる"
"でもシャチケンならやれそう……"
企画を発表するとコメント欄が盛り上がる。
足立が提案してくれた企画だけど、こんなに受けるなんて。あいつはやっぱりこういうのを考えるのが得意だな。
「それではさっそくダーツを投げます、えい!」
ルーレットを手で回した後、離れてダーツを投げる。
するとズドン! という音とともに『武器使用禁止』と書かれていた場所が砕け散る。
「はい、ということで今日は武器使用禁止でダンジョンに潜ろうと思います。大変ですが頑張ります」
"おい"
"待てや"
"はいじゃねーよ"
"さらっとルーレットぶち壊してて草"
"強肩ってレベルじゃねえぞ"
"さらっと人外アピールすな"
うっかり力を入れすぎて壊してしまった。頑丈な素材で作ったと足立が言っていたので油断した。俺は気にしてない風を装って進行する。
「さて、それじゃあさっそく……ん?」
ダンジョンを潜ろうとしたら、前からなにかが来る。
全身を鎧で覆った牛頭の亜人。あれは確か、
「アーマードミノタウロスですね。さっそくモンスターが出てきました」
"え、いきなりAランクかよ"
"めっちゃ怖いww"
"ここ下層だったのか"
"あれを武器なしってマ?"
"初見です。なんでこの人素手なんですか? 死にたいんですか?"
"シャチケンを見るのは初めてか? 肩の力抜けよ"
コメントに俺の配信を初めて見るという人が現れる。
足立に初見さんは大事にしろと言われているのでそうする。
「こんにちは初見さん。今は武器使用禁止配信してます。楽しんでいってくださいね」
"いや危ないですよ、ほら来てます!"
見るとアーマードミノタウロスが側まで来ていて、大きな斧を振り下ろしてきていた。
なので俺は冷静にその斧の刃を片手で受け止め、空いている方の手でミノタウロスの腹部をぶん殴る。
『ブモ……ッ!?』
「見ての通り鎧の部分はダメージの通りが悪いです。武器がない時は鎧の隙間を狙うのがいいと思います」
"十分効いてる定期"
"鎧ベッコベコにへこんでで草"
"は!? なんですかこの人!?"
"シャチケンはここからよ(後方彼氏面)"
俺は腹を押さえてうずくまるミノタウロスに近づき、その首に腕を回して締め上げる。いわゆるフロントネックロックというやつだ。
「ほいっ」
『ブモ……ォ』
首の骨がごきりと鳴り、ミノタウロスは絶命する。
その体は塵となって素材がいくつか残る。
「と、このように武器がなくてもモンスターは倒せます。ぜひ真似してみてくださいね」
"誰ができるか!"
"えぐすぎるww"
"やっぱぶっ飛んでるはwww"
"シャチケン最強! シャチケン最強!"
"なにこの配信……今後も見なきゃ"
"また一人沼に落ちたな"
コメント欄は盛況だ。
よし、この調子でどんどん潜っていこう!