書き下ろしSS

生幼女は前世で助けた精霊たちに懐かれる 2

食通のダーウ

 その日は朝から雨が降っていた。
 ルリアとサラは湖畔の別邸にある自室で、お手紙を書いていた。
 ルリアたちと、本邸の家族は毎日のように手紙をやりとりしているのだ。
 今回の手紙のお相手はルリアの兄ギルベルトである。
 サラはまだ字が読めないし書けないので、ルリアが教えながら書いていく。
「サラちゃん、これで『いもむし』ってよむ」
「そうなんだ!」
「そう『だーうが、いもむしをたべました。だーうはなんでもたべます』」
 ルリアが最近あった面白いことを書いていると、サラが首をかしげた。
「ねえ、ルリアちゃん。いもむしっておいしいのかな?」
 そして、ダーウはルリアの顔をベロベロなめ始める。
「ダーウ、食べてないよ?」
「わ~う」
「なーんだ、食べてないのか~」という感じで、ダーウは床に伏せをした。
 食べ物の話をすると、ダーウはすぐ食べてないか確認しに来るのだ。
「……いもむしは食べ物じゃないとおもう」
 サラがぼそっと正論を呟いた。
「うーん…………いもむしはあんまりだな?」
 ルリアは芋虫の味を思い出しながら答える。
「え? ルリアちゃん、食べたことあるの?」
 驚いたサラの尻尾がぶんと揺れた。
 それを聞いていたダーウがまたびくりとして、ルリアを見る。
 本当に食べていないか、一応目で確認したらしい。
「……むかし……ないしょ」
「わかった」
 サラは口を両手で押さえて、うんうんと頷いた。
 伏せていたダーウも両前足で鼻を抑える。内緒にすると伝えているのだ。
 ルリアの前世のルイサの時代、すごく酷い目に遭っていた。
 芋虫も前世、食べる羽目にあったことがあったのだ。
「にくとかのほうがおいしい」
「やっぱり、そうなんだ。おにくおいしいもんね」
「たまごもおいしい。サラちゃんは? おにく以外ですきなのある?」
「うーん。なんでもすきなんだけど……あ、今朝たべたおむれつがおいしかった」
「おいしいよねー」
「うん、おいしい!」
 そこでまたルリアはペンを動かす。
「『おむれつがおいしいです。るりあもさらちゃんもすきです』っと」
「わふわふ~」
 オムレツとは聞き捨てならないと、ダーウがまたやってきて、ルリアの口の匂いを嗅ぐ。
「たべてないよ? ダーウも見てたでしょ?」
「わぁぅ~」
 また、ダーウは「なーんだ」とがっかりして伏せに戻る。
「こここ」
 そんなダーウをみてコルコが「見ていればわかる。落ち着くのだ」と言い、
「きゅ~」
 キャロは「そもそも、おやつがきたことを見逃すはずがない」と呆れた調子で言う。
 部屋の中におやつが持ち込まれた時点で身構えればいいのだと。
「わふぅ~」
 ダーウも「それもそうか」と納得した。
「ルリアちゃん、食べ物のことしかかいてないね?」
「こうやって書いておくと、もどったときに、おやつで出してくれるかもしれない」
「おお~ルリアちゃん、すごい」
「ルリアはせんりゃくかだからなー」
 サラが感心したので、ルリアは嬉しくなってどや顔をした。
「わふわぁぅわふ~」
「ん? ダーウもすきな食べ物をかいてほしいの?」
「わふ」
「えっと『だーうはぶたのほねがすきです』」
「わふわふ~」
「『にくもすきです。うしのほねもおいしいです』」
「わぁぅわぅわぅ~」
 ダーウは好きな物をどんどんあげていく。
 きっと、美味しい物を頭に浮かべているのだろう。よだれが垂れている。
「ダーウ! いっこにしなさい!」
「わふぅ……わふわふ」
 ダーウは「じゃあ、うし。なかまで火が通っていないぶあついやつ」と言う。
「ステーキのこと?」
「わふ!」
 ダーウは「そうそれ!」といって尻尾を揺らしながら、よだれを垂らす。
「……おいしそう」
「たしかに……おいしそうだね。夜ご飯ステーキにならないかな?」
「わーうわうわう」
 ダーウがルリアの袖を咥えて優しく引っ張る。
「かあさまに、おねがいにいけって? しかたないなー」
「ステーキになるかな?」
「いろいろ予定があるから、むずかしいけど……」
「わぁぅ……」
「でも、あしたかあさってぐらいにはステーキをたべられるかも?」
「わふ!」
 ルリアとサラとダーウは、アマーリアにステーキが食べたいと伝えに言った。
 運の良いことに、たまたまいい牛肉があったので、ステーキを食べることができたのだった。

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