書き下ろしSS

生幼女は前世で助けた精霊たちに懐かれる 3

真夜中のミアとダーウ

 木の守護獣であるミアは寝ない。
 サラやルリアが眠った後も、じっと寝台の上で静かに過ごしている。
「ダーウ、だめ。それはたべものじゃないが?」
「…………ばぅ……きゅぅ。もにゅもにゅ」
 たまにダーウとルリアが寝言をいうが、それ以外は静かなものだ。
 ミアは寝台の上から窓の外を眺める。綺麗な月が出ていた。
 そっとサラの髪を撫でる。
 ミアが木の棒だったころから、サラはずっと大切にしてくれた。
 悲しいことがあったとき、いじめられたとき。サラはミアを抱きしめながら泣いていた。
 木の棒にすぎなかったミアだが、当時の記憶はなんとなく覚えている。
「……ふふ」
 ミアが頭を撫でていると、サラが幸せそうに笑った。
「…………(よかったね)」
 サラが幸せだと、ミアも幸せな気持ちになるのだ。
 静かな中、ミアがのんびりしていると、むくっとダーウが起き上がった。
 ダーウは起きたときにいつもする伸びをせず、ルリアの匂いをふんふんと静かに嗅いだ。
 そして、極めてゆっくりと動き出す。いつものダーウからは考えられないほどゆっくりだ。
 慎重に、音を出さず、寝台を極力揺らさないように、ダーウは寝台から降りた。
「…………」
 そんなダーウをミアは、感心し、尊敬の思いを持って、じっと見つめていた。
 きっとダーウはトイレに行きたくなったのだ。
 だが、大きなダーウが動いたら、ルリアが起きてしまう。
 だから、音を立てず、揺らさずにこっそり動いている。尿意をこらえながらだ。
 なんという忠犬だろうか。
「…………ふんふん」
 床に降りたダーウは鼻を鳴らし、空気の匂いを嗅いだ。
 まさか、トイレをしたあとの悪臭にまで配慮しようというのだろうか。
 主人たるルリアの安眠を守るために、徹底して配慮している。まさに忠犬の鑑。
 ミアは木の守護獣なので、トイレはしないが、その配慮は見習わなければならないと思った。
 ダーウはキョロキョロすると、寝台の下に顔を突っ込む。
「……?」
 寝台の上にいるミアには、ダーウが何をしているのか見えなかった。
 ただ、激しく揺れるダーウの尻尾だけが見えていた。
「はっはっはっ」
 寝台の下から顔を出したダーウはなぜか楕円形の表面を固く焼いた白パンを咥えていた。
 かなり大きい。サラならば、十枚ぐらいに輪切りにした一枚を食べればお腹いっぱいになるだろう。
「はむはむはむはむ」
 それをダーウは嬉しそうに食べている。
 八割ぐらい食べたところで、ミアはダーウと目が合った。
「…………!?」
 元気に揺れていたダーウの尻尾がへなへなと垂れ下がって、股の間に挟まった。
 ミアに怒られると思ったのかもしれない。
「…………(たべる?)」
 そう言ってダーウは残ったパンの端を咥えてミアの方へと持ってくる。
「……(いい)」
 ミアは無言で返事をする。
 精霊と守護獣が音を介さず意思の疎通をするように、ミアとダーウは意思の疎通ができるのだ。
「…………(じゃあ、たべる)」
 ダーウは残ったパンを急いで食べた。パンくずが散らかるのも気にしない。
 あんなにパンくずが散らばったら、ルリアにばれないだろうか。ミアは心配になった。
「……(なんで? こっそりパンを食べてるの? ごはんたりない?)」
「…………(たりてるけど、真夜中に隠れて食べるとおいしい)」
「……(そう。足りてるならよかった)」
 昔、サラはご飯が足りなくて、ひもじそうにしていた。それはとてもかわいそうだった。
 ダーウがひもじくないなら、ミアはそれでよかった。
 パンを食べ終わると、ダーウは再び慎重に寝台にのぼった。
 ルリアの匂いを嗅いで、体をくっつけると、あっという間に眠った。
 そして、三時間後。
「……ぁぅ!」
 ダーウは急に起き上がると、寝台からぴょんと飛び降りた。
 寝台が大きく揺れて、ルリアが目を覚まし「ダーウ、どした? うんこか?」と尋ねる。
「ぁぅ」
 ダーウはトイレに行ってうんこをした。ついでにおしっこまでする。体が大きいので量も多い。
 途端に悪臭が部屋を満たした。
 真夜中にパンを隠れ食いなどするから、腸が動いてうんちがでるのだ。ミアはそう思った。
「……くさ! ダーウはトイレでうんちできてえらいなぁ」
 ルリアが起き出して、ダーウのうんこの処理をする。
「えらいえらい」
「ゎぅ~」
 ダーウはうんちができて偉いと褒められて、嬉しそうに尻尾を振っていた。

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