書き下ろしSS

38歳社畜おっさんの巻き込まれ異世界生活1~【異世界農業】なる神スキルを授かったので田舎でスローライフを送ります~

「お宝さがし」

 ダンジョン攻略を始めてから約一ヵ月が経過した。
 一日も休まず潜り続けてきたこともあり、ダンジョンにもだいぶ慣れてきたと思う。
 まぁ、ダンジョンや魔物に慣れたというよりは、シーラさんやライム、マッシュが強いから過度にビビる必要がないと分かっただけなんだけどね。
 私という足手まといがいながらも安全に攻略できているし、このまま安全に攻略できる階層だけをループし続ければいいと思っていた。
 ――が、先日、蓮さんたちが気になる情報を教えてくれた。
 どうやらダンジョンには宝箱が出現するらしく、低階層でも希少なアイテムを入手できる可能性があるというのだ。
 ダンジョンで宝箱と聞いて、ワクワクしないわけがない。
 シーラさんにはあまりピンと来ていない様子だったけど、私の希望で宝箱を狙うことに決めた。
 宝箱は基本的に下へと続く階段の真逆の場所に出現するらしいので、まずは階段を見つけ、それから反対側を探索しなければならない。
 これだけでもかなりの手間なのに、低階層は必然的に冒険者の数が多い。
 そのため、宝箱が出現する時間を狙って攻略する必要があり、人が一番少ないのは朝四時頃。
 それでも一度は宝箱を見たいということで、シーラさん、マッシュ、ライムに無理を言い、一週間だけ朝の三時に起きてダンジョンに挑んでいる。
 ただ、これだけ無茶な時間に起きて攻略しているのに……六日目となる今日まで、宝箱どころか空箱すら見つけられていない。
「おはようございます。今日も早起きに付き合わせてしまって申し訳ありません」
「佐藤さん、おはようございます。早寝早起きにも慣れてきましたので大丈夫ですよ。私も宝箱を見つけたいですしね」
 そう言ってくれるシーラさんだけど、さっきもあくびをしていたし、かなり眠そうだ。
 今は宝箱を見つけたいというよりも、早く普通の時間帯での攻略に戻りたい気持ちが強いはず。
「付き合わせてしまってすみません。今日こそは宝箱を見つけましょう」
「付き合わされているなんて思っていませんよ。絶対に見つけましょうね」
 常に優しい言葉をかけてくれるシーラさんに感謝しつつ、私たちはダンジョンへ潜った。
 ダンジョンは毎日違った構造に変化するため、毎回一から探索しなければならない。
 規則性があれば対処もできるのだが、完全にランダムなのが非常に厄介だ。
 蓮さん曰く「ダンジョンは生きている」ようで、裏技的な攻略法は探さない方がいいとアドバイスを受けている。
「あっ、階段がありましたね。それでは反対側を目指しましょうか」
 コンパスを見ながら、ちょうど真反対を目指して来た道を戻っていく。
 今日こそは何かあってほしいと願いながら進んでいくと、先を歩いていたシーラさんが大きな声を上げた。
「佐藤さん! いましたよ!」
 興奮気味に、階段の反対側にあるフロアを指さすシーラさん。
 一階層から宝箱を見つけられたのかと思い、私も走って視線を向けたが……そこにあったのは宝箱ではなく、金色に光り輝くヒラメのような魔物だった。
 宝箱ではないことに落胆したけれど、こんな変わった魔物は一ヵ月間の攻略で初めて見た。
「シーラさん、この魔物はなんですか?」
「ゴールドフラットというレアな魔物です! レアドロップの“レアメダル”は超高額で取引されているんですよ!」
「へぇ、この魔物ってそんなにレアなんですか。絶対に倒しましょう」
「名前は何度も聞いたことがあったんですが、私も初めて見た魔物です。絶対に逃がしたくないです!」
 この一ヵ月で一番気合いが入っているところを見ると、宝箱並みに希少な魔物なのかもしれない。
 絶対に倒すべく、シーラさん、マッシュ、ライムで囲むように襲いかかった――が、ゴールドフラットは戦おうとはせず、地面を滑るように逃げ出した。
 その動きはメタルスライムを彷彿とさせる速度と瞬発力であり、その素早さを誇る魔物に逃げ一辺倒の手段を取られると討伐が難しい。
 幸いフロアの出入り口は一つしかなく狭いため、私が見張っていれば逃げられないはずだが……。
「うーん……! 速すぎて捕まえられません! マッシュ、そっちに行きました! あっ、次はライムの方です!」
 ゴールドフラットに翻弄され続け、一向に捕まる気配がない。
 私はここまで役立たずだったし、何とか貢献したい。
 その一心で思考し続けたことで、このフロアだからこそできる策を思いついた。
「シーラさん! 一つ策を思いついたんですが試してもらえませんか?」
「もちろんです! 指示をしてください」
 このフロアには一ヵ所だけ、非常駐車帯のようになっている場所がある。
 ゴールドフラットはその部分を利用しながら逃げているみたいなんだけど、逆にそこを利用して捕まえるのがいいのではと私は考えた。
 まずはシーラさんに一心不乱に追いかけ回してもらい、ゴールドフラットが広くなっている場所に逃げるまで待つ。
 そして、非常駐車帯のようになっている場所に逃げた瞬間を狙い、ライムにはできる限り平べったくなってもらった。
 その平べったくなったライムをマッシュに投げてもらい、投擲網の要領でゴールドフラットを捕獲する。
 逃げ場のない状況に追い込んだこともあり、ライムに埋もれたゴールドフラットはもがいているけど、捕まえてしまえばこちらのもの。
 シーラさんがゆっくりと近づき、狙いすまして剣で突き刺した。
 動きが速いだけの魔物だったらしく、その一撃でゴールドフラットは灰となって消えた。
 気になるドロップアイテムだけど……残念ながらレアメダルではなさそうだ。
「うーん、通常ドロップの金貨ですね。低階層の魔物にしては良いですが、悔しいです」
「残念ですが、成果をあげられてホッとしました。明日からは通常の時間帯に戻しましょう」
「えっ? 宝箱はいいのですか?」
「はい。今回はこの金貨を宝物として、宝箱はもっと深い階層に潜れるようになってから狙いましょう」
 こうして良い落としどころを見つけた私たちは、翌日から通常の攻略へ戻すことにした。
 早起きも大変だったけど、階段を見つけてから反対側まで移動するのがとにかく辛かったなぁ。
 私から言い出した手前、中々諦めを提案できなかったから、諦めるきっかけをくれたゴールドフラットには心から感謝したい。

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