書き下ろしSS

ラック魔道具師ギルドを追放された私、王宮魔術師として拾われる ~ホワイトな宮廷で、幸せな新生活を始めます!~ Ⅵ

ファーストインプレッション

 魔法が好きだ。
 大好きだ。
 でも、魔法学園一年生の私は時々自分が変なのかなって不安になるときがある。
 それは、みんなが夢中になっている歌劇場の歌い手さんの名前さえ知らなくて驚かれたり、
 休みの日も魔法の勉強をしてると言って、「変だよ」とか「そんなに魔法ばかりしてて人生楽しいの?」なんて言われたときに。
 王国で一番難しい魔法学園。
 入学する前は、魔法が大好きな人たちが集まっているんだと思っていたけれど現実は少し違った。
 魔法が好きな人は多いけど、親に言われてやってたり、他に好きなことがある子も多い様子。
 ともあれ、私は人と違う異端な自分もそれはそれでかっこいいと思える方だし、多少の悩みは寝ると忘れるので特段悩んでいるというわけでもないのだけど。
(みんな違ってみんないいもんね)
 それぞれ育ってきた環境も違うし、性格も好きなものも違うのは当然のこと。
 むしろ違うからこそ自分が知らない世界について知れたりして良い部分もたくさんあると思う。
(とはいえ、おかしいって言われるのは少し悲しいけど)
 貴族の子供たちが多い中で、田舎の平民出身。
 場違いな感じは大いにあるし、礼儀作法がわからなくて戸惑うこともある。
 仲間がいたらなって思ったりもする。
 同じように魔法が大好きで、ずっと魔法の話ができるような友達がいたらいいのに。
 そうルームメイトの氷結系女子に言ったら、「あんたについていけるとしたら、それこそ入学試験首席の天才様くらいじゃない?」と言われた。
「入学試験首席の天才様?」
「うん。ヴァルトシュタイン家の最高傑作」
「…………誰?」
 私は首をかしげた。
 氷結系女子のリズは困惑したようにじっと私を見つめてから言った。
「あんなに話題になってて知らないことある?」
「なってたっけ?」
「入学式で入学生代表挨拶してたでしょ。かっこいいって同級生はもちろん上級生までそれはもうえらい騒ぎで」
「私学園長ばかり見てたから」
「なんで学園長を?」
「あの人の魔法の本を読んでたから! 本の著者さんを見るのなんて初めてだし、ああかっこいいなぁ素敵だなぁって」
「70歳近いおじいさんだよ」
「私には輝いて見えるんだよ」
 うっとり目を細める私に、リズはくすりと笑う。
「大丈夫だよ。あんた面白いからすぐにたくさん友達できるって」
「そうかなぁ。自分では普通であんまり個性ないかなって思うんだけど」
「休み時間に裏庭の草を食べてる子が個性なかったら、この世界は無個性な人しかいなくなるよ」
 リズは言ったけど、自分ではいまいち腑に落ちなかった。
 私の中では普通のことなのだけど。
(でも、個性的と言われるとうれしいけど変って言われると少し悲しいのは不思議かも)
 同じことなのに、少しの違いで全然違うように見えてしまう。
 言葉って不思議だ。
 そんなことを思いながら、リズと学園の廊下を歩いていたら、先輩の女子たちが熱心に窓の外を見ていた。
(何があるんだろう?)
 気になって少し遠くにある窓の外を覗き込む。
 そこは中庭で、初老の学園長と銀髪の男子生徒が熱心に何やら話していた。
(さすが私のアイドル! 人気みたい!)
 学園長の人気に頬をゆるめる。
「ほら、私の学園長大人気だよ」
 小声でリズに言うと、
「違うから。見てるの天才優等生くんの方だから」
 とあきれ顔で言われた。
 どうやら先輩女子が見ているのは学園長ではなくて銀髪の男子生徒の方らしい。
(言われてみればたしかに、入学生代表として挨拶してた子だ)
 同い年なのに大人みたいに落ち着いていて、住む世界違うなぁと思ったことを思いだす。
 山育ちで視力の良い私は、彼の持っていた本のタイトルを見つめる。
(あの本、難しいけどすごく面白いやつだ)
 ニーナの家にあったその本は難しくて、今でもきちんと内容を理解できてはいないと思う。
 使い古された背表紙は、彼が熱心にその本を読んでいることを伝えていた。
 漏れ聞こえる先輩女子の声。
「あれ、大学レベルの魔導書だよ」
「やっぱりものが違うわ、私のルークくん」
「いや、あんたのじゃなくてあたしのだし」
 貴族の子たちも一目置かずにはいられない名家の出身で、注目を集める天才優等生。
 私とは住む世界が違うけど。
 でも、チャンスがあったら話してみたいなと思った。
 あの子なら、私の抱えきれないくらいの魔法愛を正面から受け止めてくれるかもって。
 すごく大人で落ち着いた子だし、やさしくて性格も良い子に違いない。
(仲良くなれたらいいな)
 予鈴の鐘が鳴る。
 私は窓から視線を離して、講義室に急いだ。

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