書き下ろしSS

小国の王女に転生してしまいましたわ~!? 1

リシャリの必殺技修行

 異世界に生まれたからには誰でも、一生のうち一度は夢見る「地上最強」。
 王女に生まれたはいえ、俺も最強を夢見ていた時期があった。
「タケル、遠慮はしませんわよ」
「ええ、分かっております」
 残念ながら、俺は身体が強い方ではなかった。
 運動は不得手だし、反射神経が良いわけでもない。
「油断はなさらないでください、私も王族として、一通りの修練は積んできておりますので」
「はい。誠心誠意、お受けいたします」
 だが、俺だって戦えないわけではない。
 腕っぷしは細くとも、魔力Cランクの水魔法使いである。
 魔法使いの役割は、後方で砲台になること。
 前衛をタケルに任せ、後方から魔法をぶっ放せば良い。
「これが、私の全力全開!」
 ふわりと俺の掌を、露水の渦が包み込んだ。
 増幅していく俺の魔力を、タケルはジッと見つめるのみ。
水渦放射ヴォルテックス!」
 詠唱が終わると、手の先から勢いよく水が噴き出した。
 その威力に耐えきれず、反動で俺はヨロヨロと後ずさる。
 しかし放水機のように放たれた水流は、タケルの顔面に直撃し……。
「あ痛っ」
「だ、大丈夫ですかリシャリ様!」
 タケルは少し目を瞑っただけで、微動だにせず。
 むしろ俺が反動に耐えきれなくなって、尻もちをついた。

「どうでしたか、私の『必殺技』は!」
「えー、その。ちょっと、出るのが遅いかもしれませんね?」
 王族が学ぶべきは、教養や知識だけではない。
 最低限の『戦闘能力』も、身に付けておくべきだと思う。
「でも強力ですわ。何せ、私の最大の攻撃魔法ですもの!」
「えっ? こ、攻撃魔法ではなく消火魔法のような」
「これで悪い奴らもイチコロですわ!」
「め、目くらましにはなるかもしれない気も、しなくはない……ですね!」
 だけど誰も、俺に強い魔法などを教えてくれなかった。
 教えてくださいと言っても、「リシャリ様は頑張らなくていいですよ」の一点張り。
 なので今日はタケルに、戦闘訓練をお願いしてみたのだが。
「ただ、武器がこれ一つではちょっと不安でして」
「まぁ、そうですね」
 俺の最強魔法を見せてくれと言われ、水渦放射ヴォルテックスを放ったところ。
 タケルは何とも言えぬ、微妙な表情をしていた。
「水属性で、他に強い魔法とかご存じありませんか?」
「えっと。水弾ウォーターショットが、基本攻撃魔法だったはずですけど」
 水渦放射ヴォルテックスは数秒間、手から水を噴き出す魔法だ。
 そこそこの水圧はあるが、ぶっちゃけ殺傷能力はないに等しい。
 戦闘用と考えたら、もうちょっと火力が欲しいのだ。
「おお、聞いたことがありますわ」
「ただ水渦放射ヴォルテックスの数倍は反動があるので、リシャリ様では耐えきれないかと」
「そんなぁ」
 しかし火力が上がるということは、反動も強くなるということ。
 水渦放射ヴォルテックスで尻もちをついているようじゃ、水弾ウォーターショットは扱いきれないらしい。
「つまりはもっと、体を鍛えないといけない……というわけですわね」
「はい、そうなるかと。……あの、失礼ですが」
 がっかりする俺を見て、タケルは少し疑問に思ったのか。
 気を遣うような口調で、
「どうしてリシャリ様は普段、あまり身体を動かさないのですか」
「ああ、それですか」
 と、質問してきた。王族であれば、乗馬や武術なども教え込まれるはずである。
 なのにどうして、俺は体力がないのかという話だろう。
「実は私は、国王ちちうえに激しく体を動かしてはいけないといわれていますの。運動するとすぐに貧血を起こしてしまいましたので」
「……なるほど」
 俺の身体は弱い。運動させて、万が一があってはならない。
 姫なんてものは無事に育って、嫁いでくれればそれでいい。
「だけど私だって、戦う力が欲しいのです。守られるだけの無力な姫なんて、情けないでしょう?」
 しかし俺は、その扱いに不満だった。
 護身術くらいは、身に着けておきたかった。
 だから今日、タケルに訓練を頼んだのである。
「分かりましたリシャリ様。僕で良ければ、特訓にご協力します」
「ありがとう、タケル」
「ですが、最初は軽い運動にしておきましょう。毎日お散歩の時間を作る、などはどうですか」
 そんな俺の思いを汲んでくれたのか、タケルはそう提案してくれた。
 散歩の時間を作るくらいなら、負担にはならないだろう。
 国王も許してくれると思う。
「体は強くなったら、水弾もお教えしますよ」
「ありがとうございます、タケル」
 いくら身体が貧弱とは言え、攻撃魔法の反動くらい耐えれるようになりたい。
 タケルのように戦えなくても、タケルの援護くらいは出来るようになりたい。
「どうして、リシャリ様はそこまで攻撃魔法を覚えたいのですか?」
「私だって、かっこいい必殺技とかが欲しいのですわ」
 だけど、そう告げるのはちょっと恥ずかしいので。
 俺はただ、必殺技が欲しいという言い訳をでっちあげた。
「では、頑張らないといけませんね」
「ですわ!」
 タケルのことだ、どうせ『僕がいればリシャリ様の手は煩わせません』とかいうに決まっている。
 そうじゃないんだ。俺だって、何かが出来るようになりたいのだ。
 俺は凡人だけど、それを努力をしないことの言い訳にしたくない。




「と、いうわけで。散歩の時間を作りたいですわ、父上」
「ふむ、王宮から出ないのであれば構わんぞ」
 こうしてリシャリの修行の日々が幕を開けた。
 目標は、水属性の基本攻撃魔法『水弾』の習得。
「それと絶対に、護衛に付き添ってもらうこと」
「分かりました!」
 ただし、この『水弾』という魔法は攻撃魔法でもかなり貧弱だ。
 何せ『水』を飛ばすだけだから、致命傷になりにくい。
 同じ基本攻撃魔法でも、火弾や雷弾、土弾の方がずっと強力である。
「ではさっそく、散歩に行ってきますわ。タケル、付いてきてください」
「はい、リシャリ様」
 だが、国王はそんな野暮なことを言う気はなかった。
 リシャリが強くなりたいと思い、努力を始めたのだ。
「頑張りますわ! いってきます、父上」
「頑張れよ」
 かっこいい必殺技が欲しい、そんな俗な動機で構わない。
 向上心と真面目さは、かけがえのない財産になる。
 だから国王も、リシャリの散歩を認めた。
「そういえばタケルに、必殺技とかありますの?」
「へ? えーっと、パンチですかね?」
「えー、凄い技とかありませんの?」
「実際の戦闘で一番多用するのは、隙が少ない地味な小技です。必殺技とか、そういうのを持っている人は少ないかも、です」
 ただタケルも国王も、必殺技と呼べるものなど持っていない。
 もし戦闘になったら、隙の少ない地味な技を多用するだろう。
 リシャリ・サリパール十五歳、中二病真っただ中というだけだ。

 なお。
「おやリシャリ姫、こんなところで出会うとは奇遇ですね! よければ一緒にお茶でも……」
「まぁ、素敵なお誘いありがとうございますわ!」
 必殺技を持っている人は、少ないが。
 タケルから見て、明らかに『必殺技』を駆使している人間も存在する。
「ですが、すみません。これから、彼と散歩にいく約束がありまして」
「へ? その平民上がりの騎士と、ですか」
「とても大事な約束なのですわ」
 ニコっとリシャリ姫は頬を緩め、満面の笑みを浮かべた。
 リシャリが名づけるところ、『王女スマイルプリンセスマイル』だ。
「私は、先の約束を大事にしますの。それが、礼儀というものですので」
「お、おお、そうですか」
「なので今日は、彼との約束を優先させてください。また誘って頂ければ、凄くうれしいですわ!」
「え、あ、ああ。では仕方ないですな」
 見る者を魅了し、嫌悪感を抱かせず、自分の要求を通す『必殺技』。
 リシャリにこの顔を向けられると、ついつい頷いてしまうのだ。
「ありがとうございますわ!!」
 明らかに必殺技である。しかも彼女は、それを日常生活で多用している。
 ────リシャリが窮地に陥った時。使うべきは水弾ではなく、間違いなく王女スマイルプリンセスマイルだ。
「ではお散歩に行きましょう、タケル」
「はい、リシャリ様」
 リシャリは下手に戦うより、笑っている方が強い。
 だから、誰も攻撃魔法を教えなかったんだろうなとタケルは得心した。

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