書き下ろしSS

族と移住した先で隠しキャラ拾いました 1 もふもふ王子との邂逅

第一回! 腕自慢選手権!

 シュティリエ国王都。
 伯父様がくれた我がフェルゼンシュタイン家のダイニングでは、ライナルト殿下、お父様、伯父様の三人が準備運動の真っ最中だ。
 お兄様は一人涼しい顔で紅茶を飲んでいる。まあ、こちらは、参加しないだろうなとは思っていたけどね。
 そしてわたしはというと、自作の旗をばっさばっさと振りながら、胸を躍らせていた。
『第一回! 腕自慢選手権!』
 旗にはでかでかとその文字が。もちろんわたしが書きましたとも。
 お兄様からは「なんで腕自慢なんだ、普通に腕相撲って書け」って言われたけど、わたしは腕相撲のときの、腕の筋が見たいの! だから腕自慢でいいの! 大いに自慢してほしいの! もちろんライナルト殿下がカッコよく勝つところも見たいけど!
 ちなみにこの勝負。わたしが男性使用人たちが重たい荷物を運んでいるのを見て「力を入れた時に腕の筋が浮かび上がるのって、いいよね」なんて言ったがために勃発した。
 はじめはライナルト殿下が、ぴくぴくと可愛いうさ耳を揺らしながら「俺もたぶん出るよ」って言ったのがきっかけ。それにお父様が張り合って、「パパも!」と言い出し、遊びに来ていた伯父様まで「まだまだ筋肉は衰えていないよ!」とか言い出した。
 腕相撲大会にまで発展したのは、お母様のせい。ポッと頬を染めたお母様が「わたくしも男性たちが腕相撲をしているときの腕を見るの、好きよ~」なんて、言ったせい。
 あれよあれよと三人が勝負をすると言い出して、現在こうして準備運動の真っ最中……なんだけど、腕相撲って、屈伸とか前屈とか、必要?
 不思議に思いながらも旗をぱたぱたやっていると、準備運動を終えたライナルト殿下がにこにこと笑いながら近づいてきた。
「勝つからね、見ててねヴィル」
「はい、頑張ってください!」
 腕まくりをしているライナルト殿下の腕をちら見しつつ、わたしもにこっと微笑む。
 するとお父様と伯父様が「ヴィル、パパは応援してくれないの?」「ヴィルヘルミーネ、伯父様は元勇者だよ!」なんて面倒くさいことを言い出した。「あーはいはい、みんな頑張ってねー」と適当に流すと、いい年をした二人は拗ねたように口をとがらせる。
 というか、お父様はいいとして、伯父様ってば国王陛下が何してるんだかって感じよね。こんなところで腕相撲大会をしている暇はあるのかしら。
 ノリのいいお母様が作った〇✕票が、ダイニングテーブルの上に置かれた。
 最初は、お父様と伯父様が勝負するらしい。中年おじさん二人が、バチバチと火花を散らしちゃってるわ。
 ちなみにわたしとお母様たっての希望で、腕相撲をするときは腕まくりをしてもらっている。袖に隠れたら腕が見えないもんね。
「それじゃあいくわよ~。レディ……ゴー!」

 ……とまあ、ここまでは、よかったわけよ。
「ね~、まだ~?」
 想定外だったのは、お父様と伯父様の力が、とっても拮抗していたことだった。
 普通に考えたら魔術師のお父様より、剣を振り回して前線で魔王とやり合った伯父様の方に軍配が上がりそうなものなのだけど、お互い年を取って衰えたせいか、全然勝負がつかないのなんの!
 かれこれ十五分、ほとんど微動だにしていない。
 ぽたぽたとお互いの額からは汗がしたたり落ちていて、かなり必死になっているのはわかるんだけど、いい加減どっちかが折れるなり何なりしてくれないとこれ、永遠にこのままなんじゃないかしら?
 お母様も飽きてきたみたいで、面倒くさそうな顔になっている。
 わたしはというと、ライナルト殿下の腕をたくさんにぎにぎさせてもらってとっても満足したから、もういいんじゃないかなって気になっていた。
「はいもー時間切れですー。てっしゅー」
「「そんな‼」」
 お父様と伯父様が悲鳴みたいな声を上げるけど、伯父様だって仕事があるんだから、ずっとここにいていいわけないでしょう?
 ライナルト殿下が残念そうな顔をしているから、次の機会のときはあの二人を抜きにして第二回を開催したいわね。
 こうして、第一回腕相撲ならぬ腕自慢大会は、両者引き分けという何ともつまらない結果に終わったのだった。

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