書き下ろしSS

ベル9999転生者によるやりすぎ無人島楽園化~生贄少女も薄幸少女も全力で幸せにします!~

私のは暇つぶし

 アキトの家の作業部屋でリケットの家に持っていく魔道具を作っていたのだけど、ふとみんなの様子が気になった。キリの良いところでリビングに移動して、そちらの窓を開けてから外の様子を覗いてみると、アキトとリケットの姿が見える。
「やれやれ……もう少しゆっくりしてくれてもいいんだけどなぁ。これまで大変だったろうに」
 玄関先の階段に腰掛けているアキトは、意気揚々と彼の家の周囲の草むしりをしているリケットを見ながら、困ったようにそう言っていた。
 生贄として死ぬ予定だった彼女は、それが全く無駄なことであると知らされ、こうしてアキトたちに助けられてこの無人だった島で過ごすことになっている。
 だから彼女としても恩返しをしたいのだろう。だから、アキトが『のんびりしてもいい』と伝えても、その通りに過ごすことはなかなかに難しいようだ。
「……アキトたちも人のこと言えない」
 肩を竦めながら、私はそんな独り言を呟いた。
『身体を動かすのもいいけど、しっかりと休みながらにしてほしい』
 そんなことをアキトはリケットに伝えていたけれど、彼自身、ずっとなにか手を動かしているのだ。現在は道に敷くための石材を長方形に切り出して、それをせっせと自分の隣に積み上げている。その数はゆうに百を超えていた。
 最初のうちは慣れない手つきで手際があまり良くはなかったけれど、元々の能力もあって、慣れてきたらそれはもう凄まじいスピードで石レンガが量産されていた。石を扱っているから、はたからみたら重労働のように見えるだろうけれど、彼にとってはスプーンやフォークを扱っているのと大差ないのだろう。
 ため息を吐きながら、アキトの家から出る。すると、アキトがこちらに気付いて振り返った。私と目が合うと、彼はニコリと優しそうな笑みで笑う。
 ……少しだけ、ドキッとした。
「メノさん、魔道具作りはすごく助かりますが、きちんと休み休みにしてくださいね。細かい作業でしょうから、目も疲れるし肩も凝るでしょう?」
「……平気。アキトもたまには休んで」
「休み……? あぁ、これは暇つぶしみたいなもんですから。アオイたちの建築を手伝いたい気持ちはありますけど、邪魔になりそうですし。俺も勉強しないとなぁ」
 アキトはそう言いながらも、ずっと手を動かし続けている。もはや手元をみなくても石レンガを作ることができるようになっているらしい。身体操作スキルのレベルが高いとはいえ、すさまじい慣れの速さだった。
 アキトに何を言っても無駄な気がして、今度はリケットのところに歩いて行く。
 草むしりというと、誰でもできる――子供に任せるような仕事だけど、リケットはとても楽しそうに草をむしっていた。普通は嫌がりそうなのに。
 ずっとしゃがんだ体勢だから、腰とか痛くなりそう。
 彼女はぴょんぴょんと地面を飛び回りながら、雑草を見つけては素手でぶちぶちと引き抜いて行く。十回に一回はバランスを崩して後ろに転がっていた。
 数分の間、観察するために彼女の動きを眺めていたが、休むことを知らず、永遠にその行動を続けているようだった。
 ひとつため息を吐いて、リケットの元に歩いて行く。
「あっ! メノさん! あの、お願いがあるんですけど」
 近づいてくる私に気付いたリケットが、両手いっぱいに雑草を握りしめて話しかけてくる。これまで迫害されるような環境で生きてきて、この島に来てからもこれだけ熱心に働いてくれているのだ、私としては彼女の願いは極力叶えてあげたい。
「……なんでも言っていい。私にできる範囲のことならする」
「本当ですか! ありがとうございます!」
 彼女は勢いよく立ち上がり、私に向かってこれまた勢いよく頭を下げた。両手には雑草を握りしめたままだし、貴族たちとは違って優雅な仕草ではないが、心の籠ったお礼の仕方だった。
「……それで、なに?」
「はい! あの、いまアオイちゃんたちがメノさんのお家を作っているじゃないですか? 出来上がったら、メノさんの家の周囲の草むしりとか私がしてもいいでしょうか?」
「……う、うん。リケットがしたいなら」
「本当ですか!? やったーっ! ありがとうございます!」
 ……断れなかった。アキトが『しっかりと休みながら』と思ってしまう気持ちが痛いほどわかる。でも、彼女もアキト同様に『え? 休みとかいらないですよ?』みたいな返事をしてしまいそう。世界樹の果実や栄養豊富な食事のせいで体は疲れ知らずになってしまっているのだろうか。
「……ちゃんと疲れたら休んで」
「はい! お気遣いありがとうございます! でもすごく元気いっぱいなんですよ!」
 彼女はニコニコと笑みを浮かべている。楽しそうだから余計に強く言いづらい。
 私は諦めて彼女の元を去り、今度は私の家を作ってくれているアオイたちの元へ。
 場所はアキトの家の隣だから、ずっと視界に入っていたけれど、彼女たちは彼女たちで凄まじいスピードで家を作っている。現在は骨組みの屋根部分を作っているようだが、アカネが木材を上に投げて、それを上にいるヒカリとシオンがキャッチしてテキパキと釘を打ち込んでいる。そうしている間にも、ソラとヒスイの二人が一階の床を張っていた。
「あっ、メノお姉ちゃん! 見て見て! ヘリコプター!」
 私が見ていることに気付いたヒカリが、自分の身体の数倍の長さはある木材をバランスよく頭に乗せ、それを頭の上でクルクルと回転させていた。ヘリコプターってなんだろう。
「ふふっ、拙者は縦でもできるでござるよ!」
「……二人とも怪我しないように」
「「は~い!」」
 彼女たちは彼女たちであんな風に遊びながら作業をしているのだけど、仕事の速さはアキトよりもさらに速い。だから遊びながらとはいえ、一番仕事量が多いのは彼女たちなのだ。
 アキトやリケットが延々と働いてしまう原因の根幹にあるのは、もしかすると彼女たちなのかもしれない。
 遊んでいるものだから、休めとも言いづらい。私は再びため息を吐いた。
「そういえばメノさん、何か用事あったの?」
 屋根の上で遊び始めたシオンとヒカリを見て呆れた表情を浮かべていたアカネが、首を傾げながら訪ねてくる。
「……見に来ただけ――いや、魔道具渡しておくから、アキトやリケットの家みたいに設置をお願い」
 私は空間収納から取り出した魔道具を、作業の邪魔にならないようなスペースに置いていく。彼女は並べられた十個以上の魔道具を見て、眉をハの字に曲げる。
「わかった……でもメノさん、すごく嬉しいんだけど、ちゃんと休んでね? 魔物の間引きをしながら、みんなの家の分の魔道具作るの大変だったでしょ?」
「……これは暇つぶしみたいなものだから」
 私のこれは、仕事ではないのだ。

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