書き下ろしSS

解された『身代わりの魔女』は、国王から最初の恋と最後の恋を捧げられる 5

ルピア、フェリクスにミレナの結婚相手について相談する

 その日、私はフェリクス様と一緒に私室でくつろいでいたのだけれど、気になることがあって、ちらりと彼に視線をやった。
 すると、フェリクス様は敏感に私の視線を感じ取り、「どうかした?」と尋ねてきた。
 そのため、おずおずと気になっていたことを口にする。
「あの、ミレナのことだけれど」
「うん?」
「10年間も眠り続けた私の面倒を、ミレナはずっと見ていてくれたわ。そのせいで、素敵な男性との出会いを逃したのではないかと、彼女に対して申し訳ない気持ちでいるの。それで、その……フェリクス様はミレナにぴったり合うような素敵な男性をどなたか知らないかしら?」
 ミレナは将来的に結婚したいと言っていたから、結婚願望があるはずだ。
 そして、ミレナのお相手の斡旋をフェリクス様に頼もうかしらと言った時、彼女はノーと言わなかった。
 だから、話を進めてもいいということじゃないかしら。
 こと恋愛に関してミレナは積極的と言えないから、周りが少しばかり積極的に話を進めないと、いつまで経っても結婚に行きつかない気がする。
 とはいえ、この国における私のコネクションは大したことがないので、フェリクス様しか頼る人がいないというのが現状ではあった。
「ミレナの相手か……」
 私の唯一の拠り所であるフェリクス様は、指先で顎を摘まむと、考える様子を見せる。
「ミレナは由緒ある侯爵家の当主の妹だし、王宮で王妃仕えをしているから、並大抵の相手ではつり合わないだろうな」
「そうよね」
 フェリクス様の言う通りだ。
 ミレナ自身が大層な立場にあるうえ、彼女は可愛くて、気立てがよくて、虹色髪をしているのだから、この国では最上の女性にあたるだろう。
「それに、ミレナは好みがはっきりしているからな。気に入らない相手とは結婚しないんじゃないかな」
 フェリクス様はミレナの幼馴染だけあって、彼女のことが分かっている様子だ。
 そんなフェリクス様は考える様子で腕を組んだ。
「だから、ミレナの相手として適任なのは、イザークやルピアの兄上のような完全無欠なタイプだろうが、……外国に嫁がせると、ルピアがしょっちゅうその国に遊びに行きそうだから、彼らは対象外だな」
「まあ、イザークやルドガーお兄様はどうかしらと、私も以前考えたことがあるの。ふふ、意見が合ったわね」
「いや、意見は合っていない。彼らはこの国の住人ではないから、ミレナの相手として不適だと思っているからね。それで、我が国の貴族を考えた場合……相手はハーラルトか」
「ハーラルト!」
 想定もしていなかった名前を聞いてびっくりしたけれど、フェリクス様は考え直すかのように首を横に振った。
「条件的には問題ないが、あれは今感情的に落ち着かないから無理だろうな。他には、コルヴォ公爵かフェルナン侯爵家嫡男か、……意外なところでベルナー侯爵が面白いかもしれない」
「ベルナー侯爵?」
 フェリクス様の言葉に興味を引かれて尋ねると、彼は考えるように中空を見つめた。
「以前、私の会話術を向上させるため、彼に師事したことがあった。……軽いというか、これまで私の周りにいなかったタイプではあるが、頭はいいし悪い人物ではない。女性に人気があるようだから、ミレナに響くかもしれない」
「そうなのね」
「いずれにしても、ミレナにはこの国の者と結婚してもらいたい。まずは多くの者と会って、彼女が気になる男性を見つけるところから始めるべきだろうな」
 フェリクス様は手近なところにあった紙とペンを手に取ると、さらさらと何人かの人物の名前を書き始めたので、私はびっくりして尋ねる。
「まあ、そんなに全力で協力してくれるの?」
 軽い気持ちで相談したのに、フェリクス様がすごく熱心に取り組んでくれたため目を見張ったところ、彼は当然だとばかりに頷いた。
 そのため、ミレナが冗談のように、私がフェリクス様に頼めば、彼はどんな男性でも準備してくれるはずだと言っていたことを、ふと思い出す。
 それから、私が冗談半分に、『フェリクス様がどこまでミレナの好み通りの男性を紹介できるのか、試してみるのも面白いかもしれないわね』と口にしたことを。
 まあ、冗談として扱った私が悪かったわ。
 フェリクス様はとても真摯にミレナの相手を探してくれようとしているのに、私の方の真剣さが足りていなかったみたいね。
 フェリクス様を頼もしく思いながら見上げると、彼は生真面目な表情で口を開いた。
「ミレナは私の乳姉弟だから幸せになってほしい。それに、君に献身的なのは疑いようもないから、感謝を込めて、私にできることがあれば何なりと手伝いたい。だから、全力で我が国の独身男性をミレナに斡旋しよう」
 まあ、何て心強いのかしら。
 私はにこりと笑顔になると、ミレナに素敵な男性が見つかりますように、と心から祈ったのだった。

TOPへ