書き下ろしSS

人好し冒険者、転生少女を拾いました 大賢者の加護付き少女とのんびり幸せに暮らします 3

ククルの魔術③

 前回、ククルはリリーナの獣耳と尻尾を、魔術で再現することに成功した。
 そしてシリウスにとても可愛がって貰った。
 ワカ村からガーランドに戻り、マリーや仲の良い人たちにその話をした結果。
「という噂を聞きました」
「本当だろうか?」
 ガーランドの冒険者ギルドに入ると、なぜか一緒にいたエレンとアリアの二人に捕まり、こうして追求されていることとなる。
「え、えーと……二人とも、目が怖い、よ?」
 真剣だ。ガチとルビを振られそうなほど本気の目をしていた。
 このまま食われるのではないか、という勢いに周囲に助けを求めるが、冒険者たちは誰一人目を合わせてくれない。
 ――お、お父さんを助けるときはみんなやる気満々なのに!
 彼らは知っているのだ。恋する乙女の邪魔をしたら馬に蹴られることを。
「それでククルちゃん?」
「その獣耳の件、詳しく話してくれるだろうか?」
「えと、その……えい!」
 殺気すら感じられる二人の圧力にテンパったククルは、つい魔術を使ってしまう。
 それと同時に、ボンッという音とともに小さな煙が二人を包んだ。
「なっ⁉」
「え?」
 その煙が晴れると、赤色の獣耳と尻尾を付けたアリア。そして同じく水色の獣耳と尻尾を付けたエレン。
 二人はなにが起きたのかわからず、お互いの顔を見合わせる。
 元々エレンはこの冒険者ギルドでも高嶺の花として人気がある存在だ。
 アリアも以前、冒険者たちを叩きのめして以来、隠れファンが大量にできていた。
 そんな美女二人が愛らしい獣耳をつけた姿は、周囲の男たちは大興奮させるに十分すぎる破壊力を秘めており――。
「「「おおおおおぁー!」」」
 冒険者たちが喝采をあげる。
「わ、可愛いー! 二人とも似合ってる!」
 最初はテンパって使ってしまった魔術だが、あまりに似合っている二人を見て、ククルのテンションも上がっていた。
 魔術で鏡を作り、二人に見せる。
「な、こ、これは……なんというか……」
「いざなると、その、恥ずかしさが……」
 鏡で自分の姿を確認した二人は、顔を赤くする。
 だが意外と悪くないと思っているのか、尻尾をフリフリと動かし、スカートが揺れる。
 それもまた男たちを喜ばせて、ギルド内はかつてない野太い声が上がっていた。
「うわ、なにこれ凄い熱気だね」
「「え……?」」
 二人にとって聞き覚えのある声。というより求めていた声。同時に、今この瞬間を見られたら恥ずかしさで死んでしまいそうになる男性の声。
 つまりシリウスが、依頼を終えて冒険者ギルドに入ってきた。
「アリアも来てたんだ」
「し、シリウス⁉」
「それにエレンさんも……?」
 冒険者たちに囲まれて見えなかった二人の姿を見た瞬間、シリウスが一瞬固まる。
 同時に、ギルド内が緊張の渦に包まれた。
 先ほどまでの喧噪が嘘のような静寂の中、シリウスが笑顔で一言。
「二人とも、可愛いね」
「「……ぁぅ」」
 顔を真っ赤にして照れる二人。
 視線をそわそわさせ、尻尾をフリフリする。
 期待通りの台詞を言ったシリウスに、冒険者の一人が拍手を送った。
 それは一人、また一人と伝染していき、静かに涙を流す者まで現れる。
 パチパチパチ、と言葉のなく拍手の音だけがギルドを包みこんだ。
「……これ、どういう状況?」
「お父さんは、気にしなくていいよ」
 笑顔で返す娘にそう言われても、気になるものは気になる。
「それより、ね。二人の耳を撫でてあげて」
 そっと頭を出すアリアとエレン。
 言われるがまま、前回ククルが獣耳を出したときにしてあげたときのように、耳を撫でてみる。
 小さな声をあげ、二人は恥ずかしそうに顔をうつむけながらも、大人しくしていた。
「わ、もふもふだ」
 そう言った瞬間、周囲の拍手がさらに大きくなる。
「シリウス、お前最高だよ!」
「完璧だ!」
「もうゴールしちゃえよお前ら!」
「えーと……」
 シリウスは再びククルを見る。
 だが彼女もまた、涙を流しながら拍手をするだけで、応えてくれそうにない。
 ――これ、本当にどういう状況だろ?
 一人わからず困惑しながら、二人の獣耳をなで続けるシリウスであった。

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