書き下ろしSS

騎士団長様がキュートな乙女系カフェに毎朝コーヒーを飲みに来ます。……平凡な私を溺愛しているからって、本気ですか? 3

焼きすぎお菓子と双子の子どもたち

「「お父さま、お願いがあります」」
 双子が、アーサーの執務室を訪れた。
 黒い髪に淡い紫色の瞳をした双子は、なぜかアーサーとリティリアを父と母と呼ぶ。
 だがどこから来たのかも不明、名前すらわからないままだ。
「俺は君たちの父ではないのだが……願いとは?」
 一部の者を除き、周囲の人々も双子がアーサーとリティリアの子であると認識している。アーサーは双子に警戒心を持っているが、見た目や性格がリティリアに似ていることから冷たくすることができずにいる。
「願いというか、特訓だね」
 双子の男の子は真剣な面持ちだ。
「私も一緒に特訓するから、頑張ろうね」
 双子の女の子も小さな手をぎゅっと握りしめ気合を入れているようだ。
「特訓……?」
 特訓という言葉に、アーサーの眉がぴくりと動いた。
 武人である彼は、特訓という言葉に強い興味を示す。
 そのことを双子は知っていたようだ。
「「とりあえず料理長のところに行くよ〜!」」
「あ、君たち!」
 走り出した双子をアーサーは追いかけた。

 厨房では料理長が、すでに材料の準備を終えていた。
「「料理長、準備してくれた?」」
「ええ、もちろんでございます」
「焼き菓子の材料か」
 調理台の上には、すでに材料と器具が揃えられていた。
「「お母さまに焼き菓子をプレゼントしよう!」」
「――リティリアに、焼き菓子」
 アーサーが俄然やる気を出した。三人は準備を始める。

「お父さまって、料理の心得もあるのね」
「戦っている姿ばかり見ていたから知らなかったね」
 アーサーの手際は良く、双子の出番はないようだ。
 だが、あとは焼くだけという段階でアーサーの手がぴたりと止まる。
 アーサーは、何をさせてもそつなくこなすが、魔導オーブンだけは火力最大になってしまうのだ。
「「頑張ってお父さま。何事も特訓あるのみだよ!」」
 双子は腕を組んだ。
「「諦めずに取り組めば、きっと成功する未来が訪れるはず!」」
「君たち……幼いのに素晴らしい考え方をするな」
「「お父さまが言っていたことだよ?」」
「……君たちの父親は確かに俺と考え方が似ているのかもしれないな」
 アーサーは、ポツリと呟くと真剣な面持ちで魔導オーブンと向き合った。

 ――だが、アーサーの焼き菓子はこんがりしすぎてしまった。
 それでも炭ではなく焼きすぎた程度で、以前より格段に進歩している。
「君より上手いんじゃない?」
「失礼ね! すぐに上手くなるの!」
 女の子が焼き上げたお菓子は、まさしく炭。
 狐色に上手に焼くことができているのは、男の子だけだ。
「「お母さまに渡してね〜!」」
 双子は厨房から出て、走り去ってしまう。
 アーサーが廊下に走り出ると双子は姿を消し、代わりにリティリアがいた。
「アーサー様?」
 リティリアは、カフェ・フローラから帰ってきたようだ。
「あら、そのお菓子は?」
「俺たちから――君に」
「わあ……いつもよりも上手に焼けていますね!」
 リティリアは嬉しそうに笑い、アーサーも幸せそうに笑った。
 
 * * *

 ――ディアンテール王国の城、王の間が淡い紫色の光に包まれる。魔法陣が浮かび、双子が現れる。
「「陛下〜!」」
「おや、君たちは」
「「いけない! 陛下に挨拶しなくちゃ!」」
 二人は可愛らしい礼をする。
「「お会いできて光栄です」」
「幼いのに素晴らしい礼だ」
「「わーい! ……お菓子持ってきたよ!」」
「俺に?」
「「うん、陛下に喜んでほしくて!」」
 双子は手にしていた焼き菓子をレインに差し出す。
「どれどれ」
「陛下……毒味をいたします!」
 レインは、当然のように受け取って食べようとした。
 フェイセズが慌てて止めようとする。
「この双子が持ってきたものは問題ない……直感だが」
「俺も大丈夫な気がします……でも直感?」
 レインは信頼している者が持ってきた物しか口にしない。
 しかし女の子が差し出した黒焦げの物体は、ためらうことなく口にした。
「ふむ……魔導オーブンの取り扱いに難ありか」
「美味しい?」
「ああ、美味い」
「陛下、僕も持ってきたんだよ!」
「ふむ……いい焼き加減だな」
 男の子が差し出した焼き菓子も、レインはためらうことなく口にした。
 レインは王座から立つと、双子に笑いかける。
「さて、礼に我が本気を見せてやろう」
「「……陛下の本気、見たい!」」
 レインは双子と手を繋ぎ、城の厨房へと向かう。

 レインは人払いをすると、鮮やかな手並みでクッキーを焼いた。
 飾り付けも美しく、すぐにでも王都に店が出せそうだ。
「剣や魔法の実力だけではなく、お菓子作りまでプロ並み……恐ろしい話です」
 フェイセズが心底感心したようにそう言うと、レインは自慢げな笑みを浮かべた。
「森の魔女様に居候させていただいていた頃、対価として手作りの菓子をお渡ししていたからな。さあ、持ち帰りなさい」
「「ありがとう、陛下! 大好き!」」
「また来るが良い」
「「は〜い!」」
 元気な声にフェイセズとレインが視線を向けると、焼き上げたクッキーと双子はすでに消えてしまっていた。

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