書き下ろしSS
週末異世界キャンプ1
ハモンズの初挑戦
すっかり定番となった、週末の楽しみ――異世界キャンプ。
今日も平日の激務で疲れた心身を癒すため、カゼノ村からほど近い場所にある泉の周辺でテントを設営。
本日はオルティスさんとレニアが仕事で不在。クロップはハモンズさんを含む村の若い衆たちと一緒に町へ買い出しに行っているそうなので、今日は久しぶりのソロキャンプ。
というわけで、このあとはゆっくりと大自然を眺めながらため込んでいた小説を読もう――と思っていたのだが、ここで思わぬ人物がテントを訪ねてきた。
「よぉ、ユーダイ」
「あれ? ハモンズさん?」
クロップたちとともに町へ行っていたと思っていたハモンズさんは、カゼノ村に残っていたようだ。
そして、彼が残っていたのには理由があるようで――
「俺も一度釣りってヤツをやってみたくてな」
「ハモンズさんが釣りを?」
そういえば、これまでやったことなかったっけ?
「どうしてまた急に?」
「実は……クロップとレニアに散々釣りの素晴らしさを説かれてなぁ」
遠くを見つめながら語るハモンズさん。
確かに、あのふたりはめちゃくちゃハマっていたな。
「じゃあ、やってみますか? 道具なら拠点にしている小屋の中に――あっ」
「どうかしたか?」
「いや、そういえば今日は餌を持ってきていないなって」
ハッキリ言って、これまで魚が釣れた主な要因は与田さん直伝の餌なのだが、今日は釣りをするつもりじゃなかったから置いてきてしまった。
針はこっちでも用意できるのだろうが、肝心の餌がないのでは釣果に期待が持てなくなってしまう。
代用品として考えられるのはミミズとか、魚が好んで食べる生物ってことになるけど……こっちの世界にいるのかな。
そう話すと、ハモンズさんは近くにあった倒木へと視線を移す。
「あの中にそれっぽい虫はたくさんいるな。ちょっと割ってくる」
手をバキバキと鳴らしながら倒木に近づいていくと、ハモンズさんは何のためらいもなく素手で叩き割った。
さ、さすがは獣人族。
……いや、すべての獣人族があんなにパワフルってわけじゃないんだろうな。
「だ、大丈夫ですか?」
「うん? 何が?」
一応、怪我とかしていないか尋ねてみたが、やはり杞憂だったようだ。
ともかく、今回は現地で調達した餌を使って釣りをしよう――と、思っていたのだが、ここで思わぬ事態が発生。
「うおっ!? こ、これはちょっとデカすぎますね……」
倒木の中には俺の暮らす世界でいうミミズとよく似た生物がいたのだが……とにかくデカい。
何食ったらこんなにデカくなるんだよ。
一メートルはあるぞ!?
さすが異世界だな。
ミミズまで規格外とは。
「これじゃダメか?」
「釣る魚より大きいですからねぇ」
そうこうしているうちに、異世界ミミズ(?)は地中へと潜ってしまった。どうやらとても臆病な性格のようで、一度誰かに見つかると二度とその場所へは寄ってこないという。
さて、ここからどうするかな。
ハモンズさんがせっかくヤル気になっているわけだし、なんかいろいろ考えていたら俺もやりたくなってきた。
――っと、そうだ。
「イチかバチか、こいつを試してみましょう」
「何かあるのか?」
「おやつに持ってきていた魚肉ソーセージです」
コンビニとかで売っている、ごく平凡な魚肉ソーセージだ。
子どもの頃、爺ちゃんの家の近くにある田んぼでザリガニ釣りをした際によく使ったのを思い出したのだ。
俺は小屋から竿を二本持ってくると、餌の準備に取りかかる。
魚肉ソーセージ以外にも、何か餌に使えそうな食べ物はないかリュックを漁りつつ、準備を進めていった。
一方、ハモンズさんは一度家に戻ると、事前に作っておいたというオリジナルの釣り針を持ってきた。
「いつかみんなに使ってもらおうと思ってな」
「凄いですね。俺が使っているのと遜色ないですよ」
大柄で豪快だけど、趣味である家具作りを見ていると手先が器用で細部にまでこだわりを持つ職人肌なんだよな。
この釣り針にはそんな彼の性格がよく出ている。
俺の方も有り合わせの食材を魚肉ソーセージに混ぜて作ったオリジナルの餌を用意し、いよいよスタート。
結果は――
「全然釣れないな……」
「やっぱり即席の餌では限界がありましたかねぇ」
泉に垂れる糸はピクリとも動かない。
こういう時、経験豊富な与田さんなら的確に指示を出して釣果をあげるんだろうけどな……俺はまだまだだ。
これでは釣果に期待はできない……と、思っていたまさにその時、ハモンズさんの竿が大きくしなった。
「っ!? 来てますよ、ハモンズさん!」
「お、おう!」
「落ち着いて! まずは――」
「力勝負だな!」
「ちょっ!?」
ハモンズさんは力任せに竿を振り上げた。
こうして釣りあがったのは――
「あれ? これって……木の枝?」
どうやら泉の底に沈んでいたのに釣り針が引っかかっていただけのようだ。
落胆する俺たちだったが、そこにひとりの人物がやってくる。
「おっ、やっているな」
「オルティスさん!? 今日は用事があったんじゃ!?」
「思ったより早く片づいたので転移魔法を使って来たんだが……その様子では苦戦しているみたいだな」
「そうなんだよ。まっ、俺が急に釣りをしたいって言い出したからなぁ」
「次は必ずリベンジしましょう」
「おう。この悔しさは忘れねぇぜ!」
最終的な結果は残念なものだったが、ハモンズさんは明るく前を見ていた。
こういうところは見習いたいよな。
「では、そんなふたりにいい知らせを――実は差し入れを持ってきたんだ。何と食べ物だぞ?」
「「おおっ!」」
魚は釣れなかったけど、オルティスさんのおかげで夕食にはありつけそうだ。
こういう失敗とサプライズもまたキャンプの醍醐味だったりするんだよな。







