書き下ろしSS

れなり僕のダンジョンマイライフ

トルクエタム⓪

 リヴとルピナスと出会って『トルクエタム』を結成してから2年と少しになる。
 長いのか短いのかよく分からぬが、わらわ的には悪くないのう。
 うむ。悪くはない。
 わらわはパキラ。猫人種じゃ。
 その証拠に白い猫耳と長短の白い尻尾を生やしておる。
 白い毛の混じった薄緑色の髪。青い猫目。ただ事情があり左目を髪で隠しておる。
「パキラ。そっちに敵が行きましたわ!」
「『ウインドエッジ』!」
 渦巻く風の刃が杖を持つ赤いコボルトを切り刻む。
 銀等級下位のレッドコボルト。
 こやつは【火】属性のレリックを持っており、無数に火球を飛ばす厄介なヤツじゃ。
 その隣でリヴが剣を持ったコボルトを切断した。
 あやつの剣は銘をプレイアデスブレードじゃったか。
 見た目もそうじゃが色々と不思議な剣じゃ。その収納も含めてのう。
 ルピナスが大きな白いラウンドシールドで斧を持ったコボルトを押し飛ばす。
 砕けるコボルトども。
 人狼のカタチをした鉱石で出来たダンジョンの魔物じゃ。
 鉱石で出来ているので硬いのが難点じゃな。
「はぁ、コボルトは当分見たくないですわね」
 ルピナスが苦笑交じりに言う。彼女はルピナス=ロードデントン。
 長い金髪に少しつり上がった金の瞳。
 エルフの証である長く尖った耳で凛と美しく整った顔立ちをしておる。
 白い独特な全身鎧を身に包み、大きなラウンドシールドを持っていた。
 スタイル抜群で腹筋が割れておるのをわらわは知っている。
 貴族令嬢で『トルクエタム』のリーダーじゃ。
「ん……次は……牛……」
「そうじゃな」
「それも嫌ですわね」
「…………もーもー……」
 ふわふわっとした表現をするのはリヴじゃ。
 ショートカットで整えた桃白い光る髪。眠そうな赤い瞳。
 それらを備えた綺麗な顔立ちをしており、まるで人形みたいじゃ。
 黒い妙な上着に不思議な格好で本人曰く『あーまーどぼでぃすーつ』らしい。
 なんのことだかさっぱりじゃ。
 優れた剣士じゃが、なんというかのう。
 捉えどころと掴みどころがない娘じゃな。
 こんな3人でわらわたちはやっておる。
 第Ⅲ級探索者パーティー『トルクエタム』じゃ。
 ここはハイドランジア。辺境の街でわらわたちが拠点にしておる。
 そしてハイドランジアには街中にダンジョンがある。
 ここはそのハイドランジアのダンジョン22階。
 今回の依頼は22階にある水晶祈り花の採取じゃ。
 水晶祈り花は水晶の神殿にある。その間の障壁はふたつ。
 まずコボルト。今ようやくコボルトの砦を抜けたところじゃ。
 次はミノスタウロスではなくミノスユニットの廃戦場じゃ。
 最大の難関でもある。
「パキラ。ポーションくださらない?」
「ほれ」
「ん……リヴも……」
「ほれ」
 ポーチからポーションを取り出して渡す。
 わらわも飲む。甘辛い味がクセになるが飲みすぎは良くない。

 そして廃戦場に足を踏み入れる。
「相変わらず不気味なところですわね」
「……墓場……だから」
「そうじゃのう」
 廃棄された兵器が眠る戦場。
 見たことがあるモノから見たことが無いモノまで様々な兵器が廃棄されている。
 どれもが壊れ破損して錆び付いて使い物にならぬ。
 ただミノスユニットは例外じゃ。
 それはミノタウロスに似せた人型魔物の兵器。
 実際はゴーレムに近い。つまりコボルトどもと一緒じゃな。
 じゃがその攻撃力と硬さは比較にならん。
 たった1体にわらわたちが全力で対処せねば勝てぬ相手じゃ。
 ちなみにこのミノスユニットは銀等級中位。
 本来ならもっと下の階層に出てくるダンジョンの魔物じゃ。
 22階でも水晶の神殿に通じる廃戦場にしか現れない。
 そして廃戦場で唯一動く兵器。つまり番人じゃな。
「来ますわよっ!」
 黒い角が廃棄された兵器の山から見える。
 あれこそミノスユニット――なんじゃ、黒い角が落ちたじゃと。
「ん……なんか……おかしい……っス」
『シギャアアアアァァ』
 奇怪な鳴き声がすると廃棄された兵器の山が崩れた。
 わらわたちは唖然とする。
 そこに現れたのは……獅子の胴体に赤い鷲の頭部、赤い翼を持った四ツ目の魔物。
 グリフォンじゃと……銀等級上位の魔物。
 鋭い鉤爪にはミノスユニットの折れた腕を掴んでいた。
『ジギャアアアアァァァアアァァァァァ』
 金切りに近い不快な声で鳴く。
「不快ですわね!」
 咄嗟にルピナスがわらわたちの前に立った。
 同時にグリフォンが飛んで、鉤爪を振り下ろし、ルピナスの盾に弾かれた。
 途端バチンっと火花散る強烈な衝撃が発生する。
「ルピナス!?」
「だ、だいじょうぶですわ!」
 グリフォンの鉤爪がバチバチと放電しておる。
 ほお、属性レリック【雷】か。獲物を狙うように眼を妖しく光らせおって。
 わらわは杖を構えて掲げる。
 すると杖の周辺に無数の小さい火の球が現れる。
『ジギャアアアアァァァァッッッ』
 グリフォンめ。気付きおったか。わらわに狙いを定めた。
 嘴を開けるとそこに纏っている放電を球体にしていく。雷球か。
「ん……させない……っす……そらの型……すばる———」
 リヴが後ろ腰に折り畳んでいたモノを可変させて剣にする。
 プレイアデスブレードじゃ。
「マイアブレード……!」
 刀身が赤くなって鮮やかな紅の斬撃を放つ。
 グリフォンは飛ぶ赤い斬撃に驚きつつ生意気にも回避しおった。
 じゃが嘴の放電・形成されつつあった雷球が消える。チャンスじゃな。
「『ファイアストライク』っ!」
 わらわは半回転し杖を振ってグリフォンに向ける。
 小さな火球群が凄まじい勢いでぶつかって一気にグリフォンは燃え上がった。
『ジギャアアアァァァァッッッ』
「『ワイルドウインド』!」
 すかさず突風をわらわは発生させた。グリフォンの炎上が勢いを増す。
 じゃがグリフォンめ。
 絶叫しながらわらわを憎悪で睨んで、最期とばかりに向かってきおった。
 しかも燃えながら放電を纏う。やぶれかぶれの特攻じゃ。
「させませんわっ!」
 ルピナスが間に入り、盾を掲げる。
 彼女が持つラウンドシールドはしゃがめばわらわをすっぽりと包むほどでかい。
『ジギャアアアアアァッッ』
 グリフォンの巨体がシールドにぶつかった。炎と放電がルピナスに伝わる。
「ぐっ、くううぅっっ!」
「ルピナスっ!?」
「こ、これしき、わたくしを舐めるなあぁっっ!!」
 な、なんと、グリフォンの巨体を受けてから弾きおった。
「リヴ!」
 ルピナスが叫ぶとリヴは剣を振り上げて高く跳躍する。
「ん……そらの型……すばる……アルキュオネブレード……っ!」
 刀身が黒く光ると、急に凄まじい速さで振り下ろされてグリフォンの首を刎ねた。
 なんじゃか急激に剣が重くなったような、そんな摩訶不思議な斬撃じゃった。
 リヴはふらつきながらも着地する。
「無事か。おぬしら」
「わたくしは平気ですわ」
「だいじょー……ぶい」
 微苦笑するルピナスと無表情でVサインするリヴ。ふう。やれやれじゃ。
 わらわたちは討伐部位の鉤爪を剥ぎ取る。他はいらぬな。肉も硬くてまずい。
「くぅ~、さすがに疲れましたわ」
「そうじゃのう……」
 鎧姿で伸びをするルピナスに苦笑してポーションを渡す。
 これこれ、一気飲みするでない。
「ん……後は……ラクラク……」
「そうじゃな」
 リヴにも渡す。これこれ、おぬしも一気飲みするでない。
 やれやれ。後は、水晶の遺跡にいって水晶花を採ってくるだけじゃ。
 廃棄戦場を抜けて洞窟を通ると湖が見えた。
 そして水晶の柱が湖に沿って天井まで乱立しているのが分かる。
 湖面の煌めきに水晶が反射して複雑なプリズムを形成して映える。
「……うつくしいですわ」
「ん……ビューティ……ふぉー……フゥー」
 その幻想的な光景はいつ見ても眼福じゃのう。
 湖のほとりには石で建立された神殿がある。それが水晶の神殿じゃ。
 水晶は砕けやすいので建物の材質には向いておらん。
 水晶の神殿に入ると水晶製の花が点々と咲いておる。
 これぞ水晶の祈り花じゃ。
 神殿の奥には石の祭壇があり女神の石像が鎮座しておった。
 どこの女神かは知らぬが神殿のモノを採るのじゃ。
 わらわたちは女神像に一礼した。
 そして水晶の祈り花を一輪、慎重に採取して保存の瓶に入れた。
 それをルピナスが白いポーチに入れる。こやつのポーチは格式と高級感を漂わせる。
 本人曰く実家から黙って持ってきたという。
 ポーチの内部は空間拡張されており、大抵のモノなら入ると豪語しておった。
 帰りはコボルトと戦う。特に苦戦せず、わらわたちは無事に地上へ帰還した。

 ハイドランジアのダンジョンからギルドへと街中を歩く。
「精神的に疲れましたわ」
 どこかぐったりとしてルピナスが言う。
 体力はある程度はポーションで回復しても、精神的な疲労感はそのままじゃからな。
「ん……シードル亭……バターライフ……じゃなかった……バターライス……」
 バターライフは太りそうじゃな。
 リヴの言葉にルピナスも食い物への思いを馳せる。
「それはいいですわね。わたくしは肉が食べたいですわ。がっつりと焼肉ですわ。わたくし肉食系ですわ……」
 肉食系……乙女が往来で言う言葉じゃないのう。じゃが気持ちは分かる。
「そうじゃのう。ギルドに報告したらシードル亭で祝勝会でもするかのう」
「賛成ですわ」
「……意義なっしんぐ……」
 それでは後もう少し―――それにしてもさっきから視線をチラチラと感じるのう。
 それも男性が多い。
 まあ、わらわたちは活躍もそうじゃが見目的にも目立つのは否めぬ。
 じゃが、こうも露骨じゃと妙に気恥ずかしいのう。
「っ?」
 そのとき、一瞬じゃが少年と目が合った気がした。
 青髪に銀色の瞳をしたどこか不思議な雰囲気をした少年。
「パキラ。どうかしたんですの?」
「ん……フシンシャ……?」
 わらわの様子に気付いて尋ねるふたり。
 対してわらわはフッと笑う。
「いいや。気のせいじゃ」
 きっと気のせいじゃろう。
 わらわたち『トルクエタム』はこうして依頼を達成した。
 そして次の依頼を受ける。
 ハイドランジアのダンジョン33~36階の調査。
 何組かのパーティーがこの近辺で消息を絶っているという。
 ふむ。そこはかとなく嫌な予感がする。
 じゃが今はじゃな。
「それでは今日も美味しく3人で食事できることを祝して、乾杯っ!」
「ん……乾杯」
「乾杯じゃ」

 喜んで『トルクエタム』で杯を鳴らそう。

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