書き下ろしSS
転生したら最強種たちが住まう島でした。この島でスローライフを楽しみます 9
レイナの収納魔法にはなにがある? ⑨
「そう言えば前にレイナの収納魔法を整理したとき、ピアノが入ってたよね?」
「ええ。我ながらあれは置いていくべきだったと、今更ながらに思うわ」
まあたしかに、いくら夜逃げ前提で家にある物を片っ端から持ってきたとはいえ、ピアノはやり過ぎな気がする。
とはいえそれも、逃亡だったらの話。
今こうして島で子どもたちと穏やかな生活をしているのであれば、それも大切な物だろう。
「ピアノってなーに?」
「音をね、ぽんぽんぽーんって鳴らせるんだよ」
「おー……」
我ながら凄く適当な説明だったが、意外とスノウは興味を持ってくれたらしい。
聞きたそうにレイナを見て、ちょっと困った様子。
「そんなに上手じゃないのよ。子どもの頃にシスターに習って、それ以来だから……」
「でも俺も、この世界の音楽とかちょっと興味あるなー」
「あるなー」
「う……」
俺とスノウの連携により、抵抗を諦めたレイナが、小さく息を吐く。
「ちょっとだけ、だからね?」
「「わーい」」
とはいえ、家の中には色々と家具が置いてあって、ピアノをドンッと置くスペースはあまりない。
あと気分が乗ったスノウが壊してしまうかもしれないので、外で演奏をすることになった。
「って、なんでこんなに人が集まるのよ」
俺たちの家の周囲には、他の七天大魔導の面々やアークたちがみんな住んでいる。
なにか新しいことをしようとしていることに気付いたらしく、ぞろぞろと家から出てきた結果、レイナの演奏会みたいになっていた。
「いいじゃない。この島に来てからピアノなんて聞く機会もなかったし」
「この島の生活は穏やかで気に入っているが、娯楽があるに越したことはない」
「マーリン、師匠まで……」
最近仲の良い彼女たちも、揶揄いながら、実は楽しみにしているんだろうなと思う。
レイナは万魔、なんて二つ名が付くくらい万能な女性だ。
それは魔法に限らず、料理や炊事、それに建築などに至るまで完璧で……。
「んー……?」
演奏が終わり、微妙そうな顔をするスノウにレイナが申し訳なさそうにする。
「だ、だから言ったじゃない! あんまり上手じゃないって!」
「いやいや、凄い上手だったよ!」
「アラタ、慰めはいらないわ……私だってわかってるんだから……」
実際、レイナはきちんと演奏をしていたと思う。
記憶にある音を拾いながら、多少ぎこちないながらも最後まで演奏しきった。
ただ、なまじ期待感が高すぎたせいか、ちょっと残念な雰囲気になってしまっただけである。
「ごめんねレイナ? その……」
「……すまなかった」
揶揄っていたマーリンさんとエディンバラさんも申し訳なさそうにする。
「本気で謝られると、余計に惨めになるんだけど……」
「はっはっは!」
本気でレイナが凹んでいると、高笑いが聞こえてくる。
「いつもと全然違う味がするからなにかと思えば、面白いことになったなぁ!」
「この声は……」
レイナが嫌そうに声のする方を見ると、ヴィーさんがニヤニヤ笑っていた。
「まあ正直、美味……ではないが、あまり感じたことのない珍しい味だった」
「そこは美味しいか不味いかどっちかになって欲しかったわ」
やはり恥ずかしい思いをしたからか、レイナの反論にも力がない。
ヴィーさんは張り合いがないそれに一瞬、つまらなさそうな顔をするが……。
「珍しい体験をさせて貰った礼だ」
そう言ってレイナをピアノからどかすと、自分が座る。
そしてしなやかに指を動かし、美しい音色が島に響いた。
「おー……」
「なんて綺麗な音……」
スノウも聞き入るように、ジッとヴィーさんを見つめ、レイナも声を零す。
俺もまた、ピアノを弾くヴィーさんから目が離せなくなってしまう。
島の森の中、小さな身体から演奏されるその音楽は、一瞬でこの場にいた全員を魅了してしまった。
それから数日後。
「こらスノウ! 次は我の番だぞー!」
「やー! もっとやるのー!」
あのヴィーさんの一件以来、子どもたちのピアノブームが始まった。
とはいえ一台しかないため、当然取り合いだ。
今もテュルテュとスノウ、どっちが演奏するかで揉めていると……。
「二人がやらないならルナがやっちゃうよー」
「「あー‼」」
ちゃっかりルナが椅子に座ってしまった。
ただ彼女たちにもちゃんとルールがあり、誰かが椅子に座ったら大人しくなる。
そうしないと、セレスさんにピアノを教えて貰えないからだ。
――まあ、またすぐ順番の取り合いしそうだけど。
この島でピアノがちゃんと弾けるのはヴィーさんとレイナ以外に、教会で子どもたちに教えていたセレスさんだけ。
ヴィーさんは教えるなんて面倒なことしないため、その役目は必然的にセレスさんになった。
「本当に、なんでも持ってくるものねぇ……」
「だね」
そんな光景を見ていたレイナもまさか、あんな大きなピアノが旅先で役に立つとは思わなかったのだろう。
「いつかあの子たちの誰かが、凄く綺麗な演奏してくれるかな」
「その前に飽きちゃいそうだけどね」
レイナは再び順番で揉め始めた三人を見て苦笑する。
だが俺は可能性があるなと思っていた。
――だってこの島には、無限の可能性があるんだから。
ルナの演奏が終わり、再び揉め始めた子どもたちに巻き込まれて吹き飛ばされたカティマの回収に向かいながら、そう思った。







