書き下ろしSS
暗黒竜のちびっこ後継者はのんびりいきたい ~闇魔法のおかげで仲間と楽しいスローライフをおくってます~ 2
暗黒竜と夏の風物詩
暗黒竜を継いで、初めての夏。
ヴォルグたちを連れて山の見回りに出ていた僕は、とんでもないものを発見した。
「わっ、竹だ!」
そこに広がっていたのは、見渡す限りの竹林だった。
青々とした竹たちが、高い空を突くようにして伸びている。風通しがよくてひんやりしていて、この一帯だけ夏場に過ごしやすい穴場スポットとなっていた。
竹林を見回して、僕はほうっと吐息をこぼす。
「こっちにも竹ってあるんだねえ。もっと早く知りたかったな」
「いくらか持ち帰りますか? 人間たちはこの植物で籠を編んだり、釣り竿を作ったりするようですが」
「それもいいんだけどね……タケノコの季節を過ぎちゃったのが悔しいんだよ! 煮物に炊き込みご飯に、お吸い物……春の風物詩を味わうチャンスだったのに!」
「竹を、食べるのですか……?」
ヴォルグは訝しげに竹林を見上げてみせた。
「うーん。青臭くてかたーい。これが本当においしいの?」
「ぴぃー……かぷっ。ぴっっ!?」
ネルネルは早速味見しているし、チビニルも青竹を齧って渋い顔をしていた。
そんなチビニルに口直しの果物を渡し、よしよしと宥める。
「こっちの竹は食べらんないよ。赤ちゃんの竹じゃないと」
「ぴゅー……」
「でもせっかく見つけたんだしね。少し持って帰ろうか、何を作ろうかなあ」
竹を使って作るもの。
あれこれ連想していくうちに、僕は夏にぴったりの代物を思い付いた。
「あっ! 流しそうめん!」
「は? 何を流すと?」
「竹を割って組み合わせて、長い滑り台を作るんだ。そこにそうめんっていう細い麺を流して、みんなでわいわい食べるんだよ!」
「……普通に食べるのではダメなのでしょうか? 流す意味とは?」
「ちっちっち。風情ってやつがあるんだよ」
偉そうに講釈を垂れてみたが、流しそうめんなんてやったことがない。
だからこそチャレンジあるのみだ。僕はぐっと拳を突き上げて大きく吠える。
「よーし! たくさん持って帰ろう! みんな手伝ってね!」
「よくは分かりませんが承知いたしました」
「おいしいもの食べられる? それならやるよー!」
「ぴぃー!」
こうして僕らは大規模伐採に取りかかり、大量の竹を神殿まで持ち帰った。
そして、次の日昼過ぎには大きな流しそうめん台が完成した。ついでに麺汁とそうめんも作って――手作りなのでちょっと太めで、冷や麦感があるのはご愛敬だ――準備万端。
「よーし! あとはオケアニル! お願いね!」
「はあー……い」
オケアニルがゆるゆると手を振って応える。
最近僕の領土に居着いてしまった、水のスピリット・ドラゴンだ。つまり水を司る神様ってわけ。流しそうめんにはうってつけの人員だった。
「いく……よー……さらさらさ……らー」
オケアニルが人差し指を向けると、綺麗な水がぴゅーっとあふれ出た。それが竹のコースをすいーっと流れて、下に設置した竹ザルへと吸い込まれていく。
水漏れはまったく見当たらなかった。僕はぐっと親指を立てる。
「完璧! ここにそうめんを流して、すくって食べるんだよ」
「ほうほう。つまり反射神経を鍛える修行というわけですな」
ヴォルグが真面目ぶった相槌を打つ。僕は思わずぷっと噴き出してしまった。
「あはは、そういう一面もあるかもね」
「ふう……ん?」
オケアニルが眉をぴくっと動かした。ライフワークの宝探し以外にも、興味を持つことってあるんだなあ。ともかく舞台は整った。流しそうめんのスタートだ!
「それじゃあオケアニル、流してくれる?」
「おっけー……それじゃあ……それっ」
オケアニルがのたーっとした動きでそうめんをひと束すくい、台に流す。
台の隣に並んだ僕らは、それをドキドキしながら見守った。そうめんが目の前に来たら、華麗にすくい取る……そんなイメージトレーニングをしていた矢先。
しゅばっっ!!
「へ?」
突然、水流が何十倍にもなってそうめんを攫い、一瞬で竹ザルへと叩き込んだ。
身構えていた僕らは、ただ目を丸くするばかりだった。
「あのー……オケアニル? さっきの速度でいいんだけど……なんで早くしたの?」
「こっちの方が修行になる……でしょ?」
オケアニルはにまーっと笑う。
その笑顔は本気の善意と、ちょっぴりの嗜虐心で構成されていた。
「次の宝探しに使える……かも。がんばって取って……ねー」
「ぐぬぬ……一筋縄ではいかないようだね」
「今のはわたくしでも目視できませんでしたぞ……」
「ぴぅー……」
「いっそぼくが網になる? そしたら取れるんじゃない?」
「いいや、それじゃ面白くない。正攻法で取らないと」
ネルネルのありがたい申し出にかぶりを振って、僕は改めて箸を握りオケアニルに向き直る。
「その挑戦、受けて立つよ! もう一度お願い!」
「ふふ……そうやって足掻く姿……いい……ね」
こうして僕とオケアニルの一騎打ちが始まった。
最初のころはそうめんを目視することもできなかった。だけど繰り返すうちに段々目で追えるようになっていき、箸の動きも素早くなった。何十回目かの挑戦の末――。
「やったあ! 取れたよオケアニル!」
「レインはえらい……ね。よしよー……し」
そうめんを取れてはしゃぐ僕のことを、オケアニルが頭を撫でて褒めてくれた。
思っていたのとはかなり違ったけど……これはこれでいいかもね!
「流しそうめん……かくもストイックな競技にございますなあ」
「ぼくらは普通のそうめんでいいよね。おいしーし」
「ぴぃー!」
お供の三匹は竹ザルに落ちたそうめんを堪能し、僕のことを生温かく見守った。







