書き下ろしSS

能「村づくり」チートでお手軽スローライフ ~村ですが何か?~ 10

千掌老師の新弟子

「村長! 千掌老師っていう爺さんのところに連れて行ってくれ!」
 唐突にそう訴えてきたのは、毎度お騒がせのマンタさんだ。
 かつてこの村の南にあったマオ村の村長マックさんの息子で、年齢は三十代半ば。
 フィリアさんの結婚相手を決める荒野縦断レースでズルをしたり、村議会選挙に立候補するも不正行為で落選したりと、色んな迷惑行為を重ね続けたことで、最近では〝歩く迷惑図鑑〟と呼ばれている人物である。
 最近では水着コンテストの一件が記憶に新しい。
「ええと、それは何のために?」
「何でもあのゴリティアナの師匠で、今でもゴリティアナよりも強いって話じゃねーか! そんな人に弟子入りができれば、俺だってきっと強くなれるはずだ! そうして可愛い女の子たちにモテモテに……へへへへ……」
 動機がめちゃくちゃ不純だ。まぁマンタさんらしいけれど。
 マンタさんが言う通り、千掌老師のお爺ちゃんはあのゴリちゃんの師匠であり、世界最強の格闘家とまで呼ばれている人だった。
「弟子入りしたとして、それだけで簡単に強くなれるほど甘くないと思うよ?」
 マンタさんはお腹がぽっこり出ている。
 千掌老師のお爺ちゃんの訓練がどれくらいの厳しさなのか知らないけれど、太鼓腹すら引っ込められないようなマンタさんでは、すぐに音を上げるのは間違いないだろう。
「過酷な訓練? はっ、望むところだぜ!」
「マンタさんらしからぬ台詞……」
「俺は心を入れ替えたんだ! 今までの俺は怠惰で自分に甘いダメダメ野郎だった! だが気づいたんだ! もっと厳しく自分を律していかなければ、女の子にモテることなんてできないってことにな!」
「動機は相変わらず不純だけど、それでやる気になったのならいいと思うよ」
 というわけで、僕はマンタさんを連れ、瞬間移動で南の海に浮かぶ島へとやってきた。
 千掌老師のお爺ちゃん以外には、まったく人が住んでいない孤島だ。
「そもそもこんな場所で暮らしているお爺ちゃんが、今さら誰かを弟子に取るとは思えないけど……」
 島の奥には豪邸が建っていた。千掌老師のお爺ちゃんが自ら建築したという屋敷で、お爺ちゃんはここで暮らしているはずだった。
「ほっほっほ、またワシに何か用かの?」
 僕たちが来たことが分かったのか、豪邸の玄関のドアを開けたときには、すでにお爺ちゃんが待ち構えていた。
「あ、アンタが千掌老師だなっ?」
「ほっほっほ、ワシはすでに隠居の身。そんな大層な名で呼ぶほどの者ではないぞ」
 謙遜するお爺ちゃんに対し、マンタさんはいきなりその場で土下座を決めた。
「どうかっ……俺を弟子にしてくださいっっっ!!」
 真剣な目で訴えるマンタさん。珍しくかなり本気のようだ。
 とはいえ、自ら隠居の身だと語るお爺ちゃんが、マンタさんの希望に応えてくれるとはとても思えない。
「ふむ……よかろう。弟子にしてやろう」
「え? いいの!?」
 思わず僕が叫んでしまった。
「本当か!? いや、本当ですか!?」
「うむ。お主のその目に、若い頃のワシと同じものを感じたからの」
 お爺ちゃんの若い頃と同じものをマンタさんに……?
 そんなことあり得るかな……? まぁでもお爺ちゃん自身がそう言ってるわけだし……。
 こうしてマンタさんは、世界最強の格闘家に弟子入りしてしまったのだった。


 後日、僕は再び千掌老師のお爺ちゃんのもとを訪れていた。
「マンタさんの様子はどうかな? 正直、訓練についていけてるとは思えないけど」
 再び玄関で出迎えてくれたお爺ちゃんに、僕は訊く。
「あれからどうですか? マンタさん、まだ続けてますか?」
「もちろんじゃ。あやつはとても筋がよいぞ」
「え!? マンタさんが? それ、本当ですか……?」
 あのマンタさんが世界最強の格闘家に、才能があると言われるなんて、俄かには信じがたい話だった。
 何かの間違いではないかと思っていると、奥からマンタさんの声が聞こえてきた。
「師匠! 完成したぜ!」
 ん? 完成した? 首を傾げつつ、お爺ちゃんと一緒にマンタさんのところに行くと。
 満足げに額の汗を拭うマンタさんのすぐ傍にあったのは――
 若い女性の裸体像だった。
「…………は?」
 思わずそんな声を漏らしてしまう。
「おおおおっ! 素晴らしい! この柔らかな質感はまさに本物の女子のそれ! さらに背中から臀部にかけての曲線も見事じゃぞ! 何よりもこちらを蔑むような女子の表情! そそられるとはこのことじゃ! この短期間で、まさかここまでのものを作れるようになるとはの! さすがはワシが見込んだ弟子じゃ!」
 興奮した様子で大絶賛するお爺ちゃん。
 僕は恐る恐る訊いた。
「えーと……マンタさん、強くなるために弟子入りしに来たんじゃないの?」
「はははっ、もちろん嘘に決まってんだろ!? そうでも言わないと連れて来てくれないと思ったからな! 最初から俺は老師様からエッチな像の作り方を学ぶために来たんだ!」
 まったく悪びれる様子もない。
 僕は思わずその裸体像を蹴り倒した。
「「何をするんだああああああああああああああああっ!?」」
 そろって叫ぶ変態師弟。
「……うん、もう一生、二人でこの島で暮らせばいいと思うよ」
 僕はこのままマンタさんを島に放置することにしたのだった。

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