書き下ろしSS

ラック魔道具師ギルドを追放された私、王宮魔術師として拾われる ~ホワイトな宮廷で、幸せな新生活を始めます!~ 7

王子殿下の警護担当

 王の盾キングズガードの筆頭魔術師として、ミカエル殿下の警護をして数日。
 こなさなければならない打ち合わせや式典の数々。
 分刻みで作られたスケジュール。
 一緒に過ごしていた時間が私にそれを、ひとつの事実として伝えていた。
「あの、殿下って実はめちゃくちゃ忙しいですか?」
 私の言葉に、殿下は少しだけ首を傾けて言った。
「そう? 別に普通だと思うけど」
「普通じゃないですよ。あまりにも余裕がなさ過ぎるように感じるというか。王宮魔術師団はもっとゆとりがありますよ」
「今週は落ち着いてる方だけどな」
「え? これで、ですか?」
「うん。忙しいときはもっと仕事をしてるし」
「でも、これ以上働いたら王国の労働法が定める基準を超えちゃうんじゃ」
「王室は労働法の適用外だから」
「労働法の適用外?」
「あれは誰かに雇われて働く人のためのものだから。私は誰かに雇われているわけではないし」
 言われてみればたしかに、と思うけどだからといって労働法の適用外だという説明は簡単に受け入れられるものではなかった。
「もしかして、王室ってめちゃくちゃブラックな労働環境だったりするんですか?」
「見方によってはそう言えるところもあるかもしれない。実際、こなさなければならない仕事の時間で言えば労働法の基準を超えることも多いかな」
「それはブラック以外の何物でもないのでは」
「でも、その中には会食や来賓をもてなすための乗馬みたいなものも含まれるからね。私的な要素が混じっていて厳密には仕事と言えないものもある」
「だとしても、しなければいけないことであるという意味では一緒じゃないですか」
「そうではあるけれど、それも含めて当たり前のこととして育っているからね。人より恵まれている部分のある立場だからこそ、相応の責任も伴うということだろう。それに、君の前職はもっとすごかったんじゃないかな?」
「あれはまあ、いろいろとやばいところだったので」
「繁忙期は職場から帰ることもできなかったとか」
「むしろ帰れることの方が珍しかったですけどね。みんな床の上で寝るので、倒れてるのか寝てるのかわからなくて恐怖を感じた記憶があります」
「どうして床の上で寝るの?」
「床の上だとどんなに疲れていても四時間くらいで起きれるんですよ。朝一番の納期に向けて、寝坊せずに睡眠を取ることができるという生活上の知恵です」
「それが生活上の知恵になる環境は根本的に間違えてると思うんだけど」
「社会というのは理不尽で不完全なものではありますからね」
 私は切なげな顔で窓の外を見つめた。
 良い感じにそれっぽいことを言えたという感覚と喜びがそこにはあった。
「それより、今は殿下のことです。働き過ぎは良くないですよ。質の良い仕事をするためには、休息を取ることも大切です」
「父もそうだけど、やりたくてやってることだからね。私の意志にかかわらずしないといけない仕事量で言えばここまで多くない」
「やりたくてこんなにたくさん仕事をしてるってことですか?」
「うん。だから止められると逆に困ってしまう」
「どうしてそんなに仕事を?」
「私にしかできないことだから、かな」
 ミカエル殿下は少しの間考えてから言った。
「アーデンフェルドの第一王子は私だけだろう? 他の誰にも代わりはできない。そう考えると、やらないといけないことのように思えるんだ。私の行いでこの国の行き先が左右される。そういうのってわくわくするだろう?」
「そのわくわくのために、国を危ない方向に進めようとするのはどうかと思いますけど」
「これだけ国のために尽くしてるんだ。それくらい許されてもいいと思わない?」
「思わないです」
 私の言葉に、殿下は楽しそうに笑った。
 言い返されること自体に喜びがあるように感じられた。
 周囲が何も言えないほどに優秀な殿下だから、はっきりと意見を否定されることに新鮮な心地よさがあるのかもしれない。
 そう考えると、少し寂しい立場であるようにも感じられた。
 誰もが自分の一挙手一投足に気を使っている。
 失礼がないように。
 王宮内での権力抗争を優位に進めるために。
 何も考えずにしたささやかな行動が、大きな問題の火種になる可能性もある。
 常に失敗しないように、細心の注意を心がけないといけない。
 そこまでしてがんばってるのに、貴族に対して不都合な政策を進めようとすると、無能だとレッテルを貼られてこの世全ての悪みたいに批判をされたりする。
「お疲れ様です。本当に」
「気晴らしに国を傾けても許されると思うだろう?」
「思わないです。まったく」
 殿下は口元を抑えてこみ上げる笑いを隠すみたいに、背中を上下させた。
 悪質ないたずらをされたときには、殴りたいと思わずにいられない殿下だけど。
 でも、国のために自分を捧げてきたこの人のために、少しくらいは命を懸けてあげてもいいかな、と思った。

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