書き下ろしSS
出来損ない王女(5歳)が、問題児部隊の隊長に就任しました 1
レクティタ、お絵描きをします
その日は晴天だった。昼下がり、レクティタはスケッチブックとクレヨンを持って、ぶらぶらと訓練所を歩いていた。周囲を何度も見渡したあと、ふぅとため息を吐く。
「ピンとくるモチーフがありませんね……お外はもう色々描いたしなぁ……」
レクティタは立ちながらスケッチブックを捲った。三分の一ほどページが埋まっているそれには、虫や鳥、雑草に武器などの拙いイラストが描かれている。レクティタはスケッチブックを閉じると、空を見上げた。
「はればれとした青空です。今日はお空でも描きますか」
レクティタはその場でごろんと寝転がり、腹にスケッチブックを立てた。そして、風で流れる雲を描き始めた時、ぬっと視界の隅に男が現れた。ヴィースが苦い顔をしてレクティタを見下ろしてきたのだ。
「うろうろしているから様子を見に来れば……こんなところで寝転がって何しているんですか、レクティタ隊長」
「見てのとおり、お絵描きです。今日も今日とて、レクティタはげーじゅつてきなかんせーをやしなっているのです」
「だからって地面に寝転がるのはお行儀が悪いですよ。ほら、立って。お絵描きはせめて座ってやってください」
「ぶーー。せっかくモチーフを見つけたというのに。げーじゅつかは世間にりかいされない、孤独な人間です……」
レクティタはスケッチブックを閉じ、渋々と立ち上がった。頭や背中に付いた土汚れを、ヴィースがしゃがんで手で払っていく。
「芸術家と自称したいなら作品を世に出してから言ってください。それはそうと、何を描こうとしていたんですか?」
「お空。お外は色々描いちゃったから、モチーフ不足なの」
レクティタは見ろと言わんばかりにスケッチブックをヴィースに渡す。彼は最初のページから目を通し、拙いながらも特徴を捉えている絵の数々に感嘆の声を漏らした。
「上手く描けていますねぇ。これだけ描けるなら、次は空じゃなくて別のモチーフに挑戦してもいいんじゃないですか?」
「お空以外のモチーフって?」
「例えば、ここにいる隊員達とか……」
レクティタに質問され、ヴィースは漠然と答えた。そしてスケッチブックから顔を上げた時、レクティタと目が合った。彼女の青い瞳がキラキラと輝いていた。
ヴィースは直感で、自分が失言したと悟った。
「何をしておるんじゃ、二人とも」
フトゥが用を済ませ外からオルクス砦に帰ってくると、訓練所でヴィースとレクティタがいるのを見つけた。目を凝らせば、ヴィースが剣を頭上に構えた体勢のまま固まっていた。やけに見栄えを意識したポーズに、なんだなんだとフトゥはコウモリの姿から少年の姿へ戻りながら、二人へ近づいたのだ。
ヴィースはげっそりとした顔で、若作りしている老人に答えた。
「レクティタ隊長のお絵描きモチーフ……モチーフというかモデルになっているんです……」
「ヴィース、動いちゃダメ。カッコイイポーズ、いじ。絶対」
「隊長、まだですか……? まだ描き終わりませんか……? 剣をずっと持ち上げるのって、結構キツイんですけど……」
「まだ。がんばって、ヴィース。ヴィースが言い出しっぺなんだから、最後までつき合って。隊長めーれいです」
「言い出しっぺ」と指摘され、ヴィースは嫌々ながらも剣を掲げたポーズを維持した。なんやかんや根が真面目な青年は、自分の言葉に責任を持つのだ。
フトゥは二人のやり取りで状況を把握し、苦笑した。レクティタの真剣さを間近で見た彼は、説得しても無意味だろうと思い、ヴィースの恨み言を背にその場を後にした。
モデル役の青年が解放されたのは、それから二時間後の夕食前であった。







