書き下ろしSS
[小説版]包帯公爵の結婚事情 2
ベスキュレー公爵家の遊び
ベスキュレー公爵家の庭を歩いていたシエラの前に飛び込んできたのは、五歳くらいの男の子。
金色の髪に海色の瞳をしたその子は、天使のように可愛らしい。
身なりが整っているから、貴族の子どもであることは間違いないだろう。
(来客の予定はあったかしら?)
ベスキュレー公爵家への来客があればゴードンから連絡してもらえるはずだが、今日は何もなかったはずだ。
不思議に思いながらも、シエラは子どもの目線に合わせてしゃがんで話しかける。
「ぼく、どこから来たの?」
「シエラ。ぼくはアルフレッドだ。呪いのせいか、子どもの姿になってしまったんだ」
「えぇ~~っ!」
子どもの言葉に驚いて、シエラは目を見開く。
〈呪われし森〉に染み付いた魔女の呪いが、今になって発現することなどあるのだろうか。
信じられないが、よくよく見てみれば、目の前の子はアルフレッドと同じ特徴を持っている。
声は子どもなので高いが、かつて聞いた少年の声にどことなく近い。
「ほ、本当にアルフレッド様なのですか!?」
「うん」
体が子どもだからか、返事もなんだか子どもっぽい。
(か、可愛すぎます……!)
シエラはアルフレッドの幼い姿にキュンとする。
初めて出会った時、シエラの目は見えなかった。
だから、アルフレッドの子ども時代は肖像画でしか知らない。
一度でいいから見てみたかったという願いが、魔女の呪いで叶ってしました。
その後ろめたさを隠して、シエラはアルフレッドに話しかける。
「アルフレッド様、そのお姿ではお仕事も大変でしょう。何かお手伝いできることはありますか?」
「急ぎの仕事は片付けたから大丈夫だ! それよりシエラ、一緒に遊ぼう!」
アルフレッドがキラキラとした瞳を向けてくる。
こんな可愛いお誘いを断れるはずがない。
シエラは全力で頷いた。
「はいっ、喜んで!」
子どもになったアルフレッドと何をして遊ぶかを決めるだけで楽しい。
そしてやっぱり、アルフレッドはアルフレッドだ。
選んだのは、積み木遊び。
子どもながらにアルフレッドは様々な形の積み木を使って、見事な屋敷をつくってみせた。
「これは、ベスキュレー公爵家の屋敷だよ」
「さすがはアルフレッド様! こんな素敵な積み木、見たことありませんわ」
シエラが手を叩いて褒めると、アルフレッドは満更でもなさそうにはにかむ。
その反応もまた新鮮で、シエラはずっと見入ってしまう。
「次は何をつくってほしい? シエラが言うもの全部、ぼくがつくってあげる!」
「まぁ! ありがとうございます。それじゃあ、せっかくなのでリーベルトをつくってみるのはいかがでしょう」
「それはいいね!」
アルフレッドは笑顔で頷くと、積み木で記憶にあるリーベルトの街並みを再現してみせた。
(あぁ……子どものアルフレッド様と遊んでいるなんて……!)
アルフレッドとこんな風に遊ぶ日が来るなんて思ってもみなかった。
シエラは幸せを噛み締めて、目を閉じる。
「そろそろ私の相手をしてくれ」
不意に愛しい低音が聞こえ、シエラは反射的に飛び起きた。
すると目の前には、シエラがよく知るアルフレッドがいた。
包帯を巻いていないため、美しい顔がよく見える。
「ア、アルフレッド様!? 呪いで子どもの姿になったんじゃ……?」
「私が子どもに? そんな面白い夢を見ていたのか」
「あれは、夢……?」
どうやら子どものアルフレッドと遊んでいたのは夢だったらしい。
やはり呪いで子どもになるなどありえなかった。
ほんの少し残念な気もするが、夢の中だとしても子どものアルフレッドと遊ぶことができたことは嬉しい。
「子どもの私はどうだった?」
「すごく可愛かったです! 積み木で一緒に遊んだんですけど、とってもお上手でした」
「積み木か……懐かしいな。子どもの頃はよく積み木で遊んで、物の仕組みを学んでいた」
アルフレッドが懐かしそうに目を細めて微笑む。
遊びですら学びに変えていくことに感心してしまう。
「たしかまだ屋敷のどこかに積み木があったはずだ」
「本当ですか!? アルフレッド様が遊んでいた積み木、気になります!」
シエラは前のめりになってアルフレッドに迫る。
「大人の私とも遊んでくれるのか?」
「もちろんですわ!」
そうして、仲睦まじく積み木遊びをする二人を侍女と執事があたたかい目で見守っていたのだった。







