書き下ろしSS
いたりあ食堂ピコピコ ~レトロゲーに転移した俺は、平和に料理を作りたい~1
まかないナポリタン
「ごちそうさん」
「ありがとうございました!」
《カランカラーン》
遅い昼下がり、最後の客がいたりあ食堂ピコピコから退店。
ほぼほぼ満席状態のランチ営業が終わり、店に静寂と安堵が広がる。
「ランチ営業お疲れさま~」
「お疲れ様です!」
「オツカレ~」
店長は労いの言葉をかけながら、ラディルとトルトの様子をうかがう。
ラディルは体力的に余裕がありそうだが、トルトの方はだいぶグッタリしていた。
「うぅ……ドッと疲れが……」
「今日は本当に忙しかったなぁ。ランチのパスタソース、全部売り切れだよ」
「え~、まかない楽しみにしてたのにー!」
ガッカリして声をあげるトルト。
しかし店長は、こんな日を待っていましたとばかりに、含みのある笑みを浮かべた。
「じゃあせっかくだし、アレを作るかな」
「アレ?」
「俺の好物の、コレを使ったパスタだ!」
おもむろに冷蔵庫から取り出したのは、業務用の赤いウインナー。
スマホで召喚できる基本食材の中に、赤いウインナーもラインナップされていたのだ。
見慣れない赤い食材を、ラディルとトルトはまじまじと見つめる。
「何ですか? その真っ赤なウインナー」
「赤いウインナーだ」
「まんまじゃないか!」
「いやいや、コレにこうやって切れ目を入れて、フライヤーで揚げるとだな」
店長は赤いウインナーをまな板の上に広げ、片側半分に二回ほど切り込みを入れていく。
そして十本ほど切り終わると、フライヤーのカゴの中に放り込む。
カゴごと高温の油に入れると、切れ込みの部分が花のように広がった。
「あ! 切ったところが広がった!」
「そう、これはタコさんウインナーという料理だ」
油の中で赤いウインナーが変形していく様子を、楽しそうに眺める店長とラディル。
そこにトルトが、割って入る。
「タコさんって、子どものおやつじゃないの~?」
「トルトさん、何言ってんの。俺の国では由緒正しき酒場料理よ」
「え~本当に~?」
「ホントホント」
訝しむトルトを軽くあしらいながら、店長はピーマン、玉ねぎ、ベーコン――ナポリタンの具材を手早く切っていく。
まかない用のフライパンにガーリックオイルを入れ、切り終えた具材を炒め始めた。
「タコさんウインナーを、ナポリタンの上に乗せたら最強よ」
具材に火が通ったところで、店長はケチャップとチキンコンソメを加える。
高温のフライパンの上で、ジュワジュワとケチャップの焼ける音と共に、甘酸っぱい香りが広がっていく。
「味付けはケチャップなんですね」
「そうそう。このケチャップを、ちょっと焦がすのが良くってさ」
ケチャップソースが出来たところに、茹で上げたパスタを入れて絡める。
真っ赤なパスタにピーマンの緑が映える、昔ながらの懐かしいナポリタンの完成。
「これでナポリタンは完成。この上にタコさんたちを配備して――」
完成したナポリタンを中央に寄せ、その上にタコさんウインナーを乗せていく。
そして卵四個分の溶き卵を、パスタを囲うように流し込む。
「ナポリタンの周りに卵液を流し込んで、フタをして軽く蒸し焼きにする」
「へ~、卵を焼くパスタって珍しいですね」
「これは俺の国の、郷土料理の一つなんだよ。本来は熱々の鉄板で作るんだけどね」
料理の説明をしている間に、卵はほどよい半熟に固まっていく。
フタを開けると、湯気と共に美味しそうな香りが広がる。
「鉄板ナポリタン風パスタの完成! はい、取り皿持ってテーブルへゴーゴー!」
「ゴーゴー!」
フライパンと鍋敷きを持った店長と、取り皿を持ったラディルが個室席へ向かう。
その後を、水のグラスを持ったトルトがついていく。
「今日は好きに取り分けて食べるスタイルで。タコさんは一人三匹な」
「はーい!」
「おお、結構しっかり卵焼きだ」
ワイワイと言いながら、三人はナポリタンを取り分け始めた。
まかないの、最高に楽しいひと時である。
「いただきまーす!」
「いただきます」
「んー! 甘じょっぱくて、美味しいですね」
「なんか……疲れた体に染みるぅって味」
「だろ~? たまに食べると、また旨いんだよ」
ラディルとトルトには新鮮な、店長にとっては懐かしい味。
自然と会話も弾む。
「これ、お店で出さないんですか? タコさんウインナー可愛いし、お客さん喜びそう」
「いやぁ、鉄板皿が無いから。アヒージョ用のスキレットは使いたくないし」
「鉄板ぐらい買えば良いじゃない、儲かってるんだから」
「え~買っちゃう~?」
今日もいたりあ食堂ピコピコの、にぎやかなまかないタイムが過ぎていった。







