書き下ろしSS
家族と移住した先で隠しキャラ拾いました 3 もふもふ新婚生活と魔王様
フロレンツィスカのお婿さん
我が家にはとーっても可愛い白兎、フロレンツィスカ――通称レンちゃんがいる。
レンちゃんはその名の通り、女の子。
くりっくりのおめめの、人懐っこいけどマイペースな、我が家のアイドルである。
「ねえライナルト、わたし、レンちゃんのお婿さんを探そうと思うんです」
ある日、わたしは唐突に言った。
ライナルトと無事に結婚式を挙げて、新婚ほやほやラブラブバカップル夫婦に昇格(?)したわたしは、ぜひ、可愛い可愛い我が家のアイドルにも幸せを分けてあげたいと思ったのだ。
絨毯の上に直に座ってレンちゃんを膝に乗せていたライナルトは、きょとんと首を傾げる。……どうでもいいけど、わたしの夫が可愛すぎる。その仕草、たまらない~!
「レンちゃんにお婿さんを探す?」
「そうです! わたしもライナルトと結婚したし、レンちゃんも結婚したらどうかと思って!」
「なるほどね。でも、兎のお婿さんってどうやって探すんだろう?」
「……確かに」
この世界にペットショップなんてものはない。まあ、犬や猫など、ペットを飼っている家庭は一定数あるから、ブリーダーみたいな職業はあるのよ。でも、兎を飼っている家庭は前世と違ってとっても少ないから……どうすればいいのかしら。
すると侍女のギーゼラがわたしとライナルトにお茶を用意しつつ言った。
「兎を飼われている方のところにフロレンツィスカ様をお連れしたらどうでしょう」
「それだ!」
そうよ。レンちゃんを連れてお見合いに行けばいいのよ!
誰かのペットなら毎日一緒には暮らせないかもしれないけれど、会いに連れていってあげることはできるわ! なにより、可愛い子ウサギが生まれたら、我が家がもふもふパラダイスに……! こうしてはいられない。未来のもふもふパラダイスのために、レンちゃんに素敵なお婿さんを探さなくては!
ちょっぴり当初の目的と違ってきた部分はあるけれど、それはそれ、これはこれ。可愛いお婿さんと子供たちに恵まれればきっとレンちゃんも嬉しいはず。たぶん!
レンちゃんはライナルトの膝の上でくわっと欠伸をしてから丸くなる。我関せず、みたいな顔をしているけれど、レンちゃんも恋人(兎)ができたらラブラブになるのかしら。気になるわ。
ということで、さっそくわたしとライナルトは貴族たちのペット事情を調査して、兎(それも男の子!)を飼っているお宅を発見した。
いざ、レンちゃんのお見合いにしゅっぱーつ!
☆
……と、意気込んでレンちゃんを連れて出かけたまではよかったのよ。
「……あのー、レンちゃん?」
茶色い兎を飼っているとある伯爵家にお邪魔したわたしは困惑していた。
というのも、いざ、お見合いを! とレンちゃんのクレートを開けた途端、レンちゃんってばライナルトにしがみついて、抱き上げられた後は彼の腕と胸の隙間にすぽっと頭を押し込んで動かなくなっちゃったのよ。
……もしかして、完全に拒絶してる?
相手の茶色い兎のウィーリー君は、さっきからレンちゃんに興味津々なのに、レンちゃんってば見向きもしないわ。
「あらあら、フロレンツィスカ様は、兎のお婿さんよりもライナルト殿下がいいみたいですね」
伯爵夫人がくすくすと笑いながら言う。
……え? ってことは、レンちゃんってばまさかわたしのライバルだったの⁉
衝撃の新事実ってやつよ!
でも、さすがのわたしも、兎相手に嫉妬丸出しで「ライナルトに色目使わないで!」なんて言わないけどね。ちょっとだけ、微妙な気分にはなるけれど。
あれかしら。ライナルトは魔王の呪いの影響で去年まで兎の姿だったし、今でも瘴気のある場所に行ったらうさ耳が生えちゃったりするから、レンちゃんってばライナルトを兎だと思っているのかしら?
「レンちゃーん? ウィーリー君にご挨拶しないのー?」
わたしが話しかけてもピクリともしないわ。
ライナルトが困った顔でレンちゃんの背中を撫でている。
なんだか寂しくなったから……いいもん。じゃあわたしは、ウィーリー君と仲良くするもん。
わたしが手招くと、人懐っこいウィーリー君はすぐに近づいてきてくれた。ひくひくと鼻を動かして、わたしの手のひらに頭をこすりつける。
なんだか、わたしがウィーリー君とお見合いに来たみたいになってきたわ。
ライナルトがそんなわたしを見て微苦笑を浮かべた。
「レンちゃんにはお見合いはまだ早かったみたいだね」
「そうですね……」
ああ、わたしのもふもふパラダイスが……。
でも、レンちゃんが乗り気でないのにお見合いを続行するわけにはいかず、わたしたちは伯爵夫人に謝罪して帰途に就いた。
帰りの馬車の中で、レンちゃんはライナルトの膝の腕でくうくうと眠っている。クレートに入れようとしたのだけど、ライナルトにしがみついて離れなかったから諦めたのだ。
「レンちゃんのお婿さんは、当分の間ライナルトになりそうですね。でもねレンちゃん、本妻の座は渡さないわよ」
「なにそれ」
ライナルトは笑うけれど、わたしは意外と本気なのよ。ライナルトってばレンちゃんをものすごく可愛がっているから、うかうかしていると本妻の座をレンちゃんに奪われちゃうわ。
わたしの声が聞こえているのかいないのか、レンちゃんは時折長い耳をぴくぴくさせながら、ライナルトの腕の中でリラックスモード。すぴすぴと眠るレンちゃんを、ライナルトが愛おしそうに撫でる。
……まったくもう、魔王といいレンちゃんといい、ライナルトは罪作りだわ。
わたしの可愛くてカッコいい旦那様は、人間どころか魔王も兎も虜にするみたいよ。
「ヴィル、レンちゃんにお婿さんは無理でも、妹を用意してあげるくらいならできるんじゃない?」
それだ! と頷きかけたわたしは、よくよく内容を吟味した後で首を横に振った。
「しばらくライバルは増やしたくないので、もうちょっとあとにしましょう」
「ライバル?」
「ライバルです」
レンちゃんの妹兎がライナルトに惚れる可能性があるからね!
わたしはライナルトの腕にそっと頭をつけて甘えながら、安心しきっているレンちゃんのふわふわの背中を見て笑った。







