書き下ろしSS
声が出せないので無詠唱魔法でもいいですか!!! 1
アリアと近所の猫
アリア・フランベールは魔法を愛している。
日課の魔法の練習を、一日も休むことなく続けている。
だけど、いつも通りの練習ができない日もある。
王室の意向によってリオンと会えなくなってから、一年と少しが過ぎた頃のことだった。
その日、八歳だったアリアは高熱を出した。
季節性の流行病だ。
それでも両親が目覚める前に隠れて魔法の勉強をしたり、練習をしたりしたアリアだが、いつも通りのメニューをこなすことはできなかった。
窓際の猫たちのお尻をトントンする魔法が使える体力が今日は無い。
アリアは本を置いて、ベッドの中で目を閉じた。
いつもの時間が来て、集まった猫たちは怪訝な顔をした。
今日はどうして窓を開けないのか。
気持ちいい、いつものやつはないのか。
不満を覚えた猫たちは、アリアの部屋の窓をかりかりとかいた。
しかし、窓は開かない。
カーテンの隙間から覗き込む。
銀髪の静かな人間はベッドの中で目を閉じている。
なんだかいつもと様子が違う。
体調が悪いらしい、と猫たちは気づく。
『にゃなななにゃーにゃ(しんどそうだぞあいつ)』
『にゃにになーなのな(わかる。そういう日はわたしもある)』
『ななーなににゃーのににゃ(トントンがないのはかなしい)』
『にににゃーののーにゃ(あれを楽しみに日々生きてるのに)』
『ななななななにのなにゃ(なんとかしてやってもらえないか)』
猫たちは窓をかりかりする。
鍵がかかっていなかった窓が少し開く。
入れそうだぞ、と猫たちは力を込める。
『ななにーな(開いたぞ)』
『にゃー。なー。にゃー(いつもの。いつものやって)』
猫たちは部屋の中に侵入してアリアを取り囲む。
アリアの上に、一匹の猫が乗る。
目を開けたアリアは自分が猫に囲まれていることに気づく。
三十匹の猫がそこにはいる。
どうやら夢を見ているらしい、と思う。
たくさんの猫とお友達になる夢。
リアルな夢だなぁ、と思いつつ耳を甘噛みする猫に目を細める。
そのまま目を閉じる。
『ににににゃーのににゃ(いつものやってくれなそう)』
『なーににゃぬにゃ(仕方ない。今日は許してやろう)』
『ぬにゃーのににゃ(明日からはしっかりやるのだぞ)』
『にゃなななにーなにな(ゆっくり休むのだ。静かな人間)』
猫たちはアリアの傍で丸くなる。
布団に入ったり、腕のところに背中をあてたりする。
アリアはあたたかい猫の体温を感じている。
やわらかく尊い命のぬくもりがそこにはある。
数分後、アリアを起こさないように慎重に侍女が扉を開ける。
無数の猫に包囲されたアリアを見て、これは夢かなと現実逃避をした。
◇ ◇ ◇
翌日、体調が戻ったアリアは両親よりも早く目覚める。
バレないようにこっそりと魔法の勉強と練習を始める。
気づかれたら、まだ治りきってないでしょと言われるから。
音を立てないように細心の注意を払いつつ、魔法の本を読む。
実技の練習はいつもより少なめにする。
その分、昨日できなかったことに注力しようと決める。
猫たちが窓をかりかりとする。
アリアは小さく笑ってから、本を置いてカーテンを開ける。
いつもより少し早いけど。
でも昨日できなかった分、今日は多めにやってあげよう。
鍵を外して、窓を開ける。
吹き抜ける風がカーテンを揺らす。
たくさんの猫たちが屋根の上に集まっている。
アリアは魔法式を起動する。
猫たちのお尻を魔法でトントンする。
猫たちは心地よさそうに目を細める。
いつも自分最優先で自由気ままな近所の猫たち。
だけど、アリアは彼らが好きだと思う。
愛と感謝を込めて、いつもより多めにトントンしてあげた。







