書き下ろしSS

ベル9999転生者によるやりすぎ無人島楽園化~生贄少女も薄幸少女も全力で幸せにします!~ 2

地球での五十嵐家

 これといって変わり映えのない中学校の授業を終え、放課後。
 信号待ちの度に舌打ちをしてしまいそうになりながら、早歩きで、時に小走りで家に帰る。ちょうど三百六十五日前も同じことを思ったが、急いでいる時にローファーって本当に勘弁してほしい。去年の反省を生かして、今日は運動靴で登校しようかと思ったぐらいだ。
 急く気持ちを抑えながら階段を上り、アパートの二階――自宅の玄関扉を開けると、葵がすぐにトテトテとリビングから出てきた。頭にはパーティ用の三角帽子をかぶっており、『7歳になりました!』というタスキが肩からかけられている。
 普段と違い、髪は可愛いらしくウェーブがかっていて、子供用ではあるけれど、フリフリの水色のドレスなんかも着ている。この服に関しては、先月購入した時にお披露目してもらっていたけれど、再度「可愛いよ」と頭を撫でておいた。
「えへへ、ありがとう! あと、おかえりおにいちゃん! ね、ね、はやくはやく!」
「待て待て、慌てるな。お兄ちゃんは逃げないから、せめて靴を脱がせてくれ。あと鞄も置かせてくれ。制服は――まぁこのままでいいか」
「はやくしないとね、おかあさんがね、おさけのみはじめちゃうの」
「わかった、急ごう」
 どうやら葵は早く誕生日会を開催したかったわけではなく、俺の帰宅を待ちきれず酒を飲み始めてしまいそうな母親を止めてほしかったようだ。相変わらず、葵は年齢にそぐわぬしっかり者だ。やはり我が家の妹は天才である。
 葵の手を握り、けん引される形でLDKに向かうと、じっと日本酒の入った瓶を見つめて固まる母親の姿があった。『待て』をされてる犬かよ。
 俺と葵が部屋に入り、廊下に続く扉を閉めたところで、ようやく我が家の大黒柱はこちらを見た。
「おかえり明人――遅かったじゃない。待ちわびたわ」
「いつもより早いぐらいだよ――というか、主役よりパーティを楽しみにしてどうする」
 今日一番楽しむべきは葵なんだぞ。そこのところきちんと理解してるのかこの母親は。
「でもわたしね、みんながたのしみにしてくれたほうがうれしいよ? おにいちゃんはちがうの?」
 思わず母さんにツッコみを入れたけど、結果として葵がちょっと眉尻を下げてしまった。いやいや、そんなことあるわけないだろう。
「俺ももちろん楽しみだったぞ。母さん以上に楽しみにしてたぐらいだ」
「おにいちゃん、さっきといってること、ちがうよ?」
 首を傾げている葵に「気のせいだ」と言うと、彼女は「そうかな~?」と今度は逆方向に首を傾げる。可愛い、やっぱり天使かな。
 兄妹でそんなことをしている間に、母さんは冷蔵庫からホールケーキをダイニングに持ってきてくれている。食器やらコップはすでにテーブルの上に並べてあったので、俺と葵は酒以外の飲み物の準備。
 そんなこんなで、誕生日会スタート。
 ろくでなしの父親がいたころは、金は今よりも多くあったんだろうけど、こんなに和気藹々としたもの雰囲気じゃあなかった。俺としては、今のほうがずっといい。葵の笑顔もよく見るし、母さんも酒が早く飲みたくてうずうずしているが、楽しそうなのは楽しそうだし。
 歌を歌い、クラッカーを鳴らし、葵がケーキを切って、それを俺がみんなのお皿に取り分けたり、葵にプレゼントをあげたりと。
 ちなみにプレゼントは、母さんからは肩から下げられるポーチ、俺からは髪を結ぶリボン。
 どちらも気に入ってくれたようで、葵は二つとも即座に身に着けて、そのまま誕生日会に臨んでいた。
「またらいねんも、おうちでおたんじょうびかい、できるかなぁ」
 ケーキも食べて、三人で人生ゲームもして、ひとしきり楽しんだあと、ぽつりと葵がそんな言葉を漏らす。
「心配いらないわ。来年はきっと、もっと豪華なパーティになってるわよ」
「そうそう、入院かもしれないって話があったみたいだけど、こんなに元気いっぱいじゃないか」
 母さんと一緒に務めて明るく言う。そう信じたいし、そう願っているけれど、どうやら医者から車いすの話も出ていたようだし、入院というのも近い将来の話なのかもしれない。
「んーそうかなぁ……ねぇねぇ、びょういんでも、おたんじょうびかいってできるの?」
「まだそうなると決まったわけじゃないけど、もしそうなっても、俺と母さんはやるぞ。お医者さんも看護師さんも近くの病室の人も巻き込んで盛大に祝おうじゃないか」
「明人、あんた頭良いわね」
「それはめいわくになるかもしれないからやめよう?」
 七歳の小学一年生に窘められた件。我、中学二年生ぞ。
 あいかわらずしっかり者だなぁ。こんなにきっちりした性格に育ったのは、俺と母さんのせいなのかな……。
「お誕生日会もいいけど、葵はやってみたいこととかないの? 運動系は難しいけど、行ってみたい場所とかあったらどこでも連れていくわよ?」
「べつにいいよ~。いつもたのしいもん」
 困ったように苦笑いを浮かべて葵は言うが、その直後、「あっ」と口にして、目をパチリと大きく開く。そして、俺に目を向けた。
「おにいちゃんみたいに、がっこうの、みんなおそろいのふく、きてみたいなぁ」
 ふむ……なるほど、制服が着てみたいと。
「スーツはちょっと違うもんな……母さん、子供用の制服ってあったかな?」
「私立の小学校の制服とかあるわよ――でも、ああいうのって売ってるのかしら?」
「最悪作ればいいか。勉強したら裁縫もなんとかなるだろ」
「そうね。そうしましょうか」
「ち、ちがうよ~。おにいちゃんみたいに、ちゅうがくせいになって、はやくそういうふくがきたいだけだから~」
 母と兄が暴走してごめんね。まぁそんな風に未来に希望を持っているのは、とてもいいことだ。
 こんなに日々生きるために頑張っている子が幸せになれないなんて、あっていいはずがないからな。

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